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第17話 花嫁衣裳の色被り
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嫌になるほど真っ青な空が広がる日。
その日は第3王子となったシルヴァモンドの結婚式とあって、教会も1時間おきに祝福を知らせるブラガヴェストニク(大鐘)を4回、単調に鳴らしていた。
ミネルヴァーナの住まう家にもカイネルが先に乗車している馬車が乗りつけ、前夜ベルセール公爵家から届けられた花嫁用の衣装に身を包んだミネルヴァーナが乗り込んだ。
「こんな時くらいメレ・グレン王国の衣装でも良いと思うけどな」
「カイネル。国を超えて嫁ぐのですから何時までも母国の衣装ではダメでしょう?」
「だとしてもだよ。僕は第16王女にル・サブレン王国の衣装で良いと伝えたよ」
「あら?カイネルが?珍しいこともあるのね」
「それくらいはするさ。だってそうした方が――」
「意地悪はダメよ?周囲は敵だらけの中に来てくれるんだからカイネルだけが頼りなのよ?」
「そういう姉上はどうなんだよ…城に挨拶には行ったけど女連れでいけ好かない野郎だったよ」
――え?女連れ?…ふむ…なるほど。だからなのね――
好きな女性がいるならいると言ってくれれば邪魔もしないのにとミネルヴァーナは思ったが、だとすれば「不能」を理由とするのはどうなのだろうと考えた。
誰だって好きな人との子供は欲しいと思うのではないだろうかと。
教会に到着をしてカイネルのエスコートで馬車を降りるが、到着した時と同じく向けられる視線は冷たく突き刺さるようだった。
「姉上、僕の到着が遅れたからだな。ごめん」
カイネルの到着が遅れたのには理由がある。国境までは何とか予定通りに進んだのだがその先で崩落があり迂回を余儀なくされたのだ。来た道を半分引き返しての迂回路でギリギリの到着になったのだ。
ただ、国境付近となれば遠方での崩落。
ル・サブレン王国の王都にも知らされるまで日数がかかった。
「カイネル。どうしたの?今日は変よ?」
「だって…もう会えなくなるだろ」
「そんな事ないわ。カイネルが立派な国王になれば会えるわよ」
メレ・グレン王国の次の国王は王妃の実子である第1王子となる可能性は高い。
しかしカイネル即位の希望もまだ残されている。
第1王子はすぐ下の妹と一緒で「夜会病」と言われるくらいの夜会好き。
一晩で何千万、場合によっては何億も経費が必要になるのに頻繁に夜会を開く。王妃や第1王子に擦り寄れば優遇をしてもらえるので推している貴族は多いけれど、ミネルヴァーナがいなくなった今では過去のように開催する事は出来ない。
民衆から見れば明らかな無駄使いであり、責任を押し付ける人間はもういないのだ。1年ほどは耐えられてもその先は解らない。夜会病が再発すればいい加減心許ない国庫は空になる。
税率を上げれば凌げるだろうが、あげれば上げるほど自分の首を絞めるようなもの。
民衆の前で吊らされる日が近づくだけとなる。
その点、ドクズな変態であるカイネルは執務や政務は真面目に取り組むし、限界を試す意地悪は好きだがそれは民衆に向けたものではないので希望は持てる。
――意地悪魂をお父様や贅を貪る貴族に向けてくれるといいんだけど――
カイネルと共に控室に入り、その時を待っているとどんな風の吹き回しなのか。
白い花婿の衣装に身を包んだシルヴァモンドが、ほぼ白という結婚式の参列者としてはあり得ないドレスで着飾ったエルレアと共にやって来た。
これではどちらが花嫁なのか判らないな、とミネルヴァーナは思った。
――代わりに結婚式済ませてくれればいいのに――
ベルセール公爵家から届けられた花嫁用の衣装は正直ブカブカで、マリーが何カ所も布を巻きつけてくれたからなんとか形としては成り立っているが、着心地は最悪。
自身の体に合わせたドレスを着ているエルレアのほうがもっと堂々とヴァージンロードを歩けると思える。
――あ、そう言えば話しておかないといけない事があったわ――
マリー達と行う商売。ここ数日カイネルから嫌がらせの野菜は届いたけれど国に帰るまでの事なので数日のうちに届かなくなる。継続的に行うには公爵家からの野菜を使用せねばならないのだ。
シルヴァモンドに話しかけようとした時、逆にシルヴァモンドから声を掛けられた。
「何を期待しているかは知らんが、大人しく過ごせ」
低い声で言い放つシルヴァモンドにカイネルの腰が浮くがミネルヴァーナが動きを制した。
その日は第3王子となったシルヴァモンドの結婚式とあって、教会も1時間おきに祝福を知らせるブラガヴェストニク(大鐘)を4回、単調に鳴らしていた。
ミネルヴァーナの住まう家にもカイネルが先に乗車している馬車が乗りつけ、前夜ベルセール公爵家から届けられた花嫁用の衣装に身を包んだミネルヴァーナが乗り込んだ。
「こんな時くらいメレ・グレン王国の衣装でも良いと思うけどな」
「カイネル。国を超えて嫁ぐのですから何時までも母国の衣装ではダメでしょう?」
「だとしてもだよ。僕は第16王女にル・サブレン王国の衣装で良いと伝えたよ」
「あら?カイネルが?珍しいこともあるのね」
「それくらいはするさ。だってそうした方が――」
「意地悪はダメよ?周囲は敵だらけの中に来てくれるんだからカイネルだけが頼りなのよ?」
「そういう姉上はどうなんだよ…城に挨拶には行ったけど女連れでいけ好かない野郎だったよ」
――え?女連れ?…ふむ…なるほど。だからなのね――
好きな女性がいるならいると言ってくれれば邪魔もしないのにとミネルヴァーナは思ったが、だとすれば「不能」を理由とするのはどうなのだろうと考えた。
誰だって好きな人との子供は欲しいと思うのではないだろうかと。
教会に到着をしてカイネルのエスコートで馬車を降りるが、到着した時と同じく向けられる視線は冷たく突き刺さるようだった。
「姉上、僕の到着が遅れたからだな。ごめん」
カイネルの到着が遅れたのには理由がある。国境までは何とか予定通りに進んだのだがその先で崩落があり迂回を余儀なくされたのだ。来た道を半分引き返しての迂回路でギリギリの到着になったのだ。
ただ、国境付近となれば遠方での崩落。
ル・サブレン王国の王都にも知らされるまで日数がかかった。
「カイネル。どうしたの?今日は変よ?」
「だって…もう会えなくなるだろ」
「そんな事ないわ。カイネルが立派な国王になれば会えるわよ」
メレ・グレン王国の次の国王は王妃の実子である第1王子となる可能性は高い。
しかしカイネル即位の希望もまだ残されている。
第1王子はすぐ下の妹と一緒で「夜会病」と言われるくらいの夜会好き。
一晩で何千万、場合によっては何億も経費が必要になるのに頻繁に夜会を開く。王妃や第1王子に擦り寄れば優遇をしてもらえるので推している貴族は多いけれど、ミネルヴァーナがいなくなった今では過去のように開催する事は出来ない。
民衆から見れば明らかな無駄使いであり、責任を押し付ける人間はもういないのだ。1年ほどは耐えられてもその先は解らない。夜会病が再発すればいい加減心許ない国庫は空になる。
税率を上げれば凌げるだろうが、あげれば上げるほど自分の首を絞めるようなもの。
民衆の前で吊らされる日が近づくだけとなる。
その点、ドクズな変態であるカイネルは執務や政務は真面目に取り組むし、限界を試す意地悪は好きだがそれは民衆に向けたものではないので希望は持てる。
――意地悪魂をお父様や贅を貪る貴族に向けてくれるといいんだけど――
カイネルと共に控室に入り、その時を待っているとどんな風の吹き回しなのか。
白い花婿の衣装に身を包んだシルヴァモンドが、ほぼ白という結婚式の参列者としてはあり得ないドレスで着飾ったエルレアと共にやって来た。
これではどちらが花嫁なのか判らないな、とミネルヴァーナは思った。
――代わりに結婚式済ませてくれればいいのに――
ベルセール公爵家から届けられた花嫁用の衣装は正直ブカブカで、マリーが何カ所も布を巻きつけてくれたからなんとか形としては成り立っているが、着心地は最悪。
自身の体に合わせたドレスを着ているエルレアのほうがもっと堂々とヴァージンロードを歩けると思える。
――あ、そう言えば話しておかないといけない事があったわ――
マリー達と行う商売。ここ数日カイネルから嫌がらせの野菜は届いたけれど国に帰るまでの事なので数日のうちに届かなくなる。継続的に行うには公爵家からの野菜を使用せねばならないのだ。
シルヴァモンドに話しかけようとした時、逆にシルヴァモンドから声を掛けられた。
「何を期待しているかは知らんが、大人しく過ごせ」
低い声で言い放つシルヴァモンドにカイネルの腰が浮くがミネルヴァーナが動きを制した。
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