21 / 43
第18話 誰がために教会の鐘は鳴る
しおりを挟む
シルヴァモンドの元には毎日ミネルヴァーナの動向は報告をされる。
ここ最近、3人の使用人とマリーの報告は変わりないのだがミネルヴァーナとその4人が何やら始めようとしているのは通行人を装って家の中を伺う間者からの報告で察知していた。
「どうやら使用人達は食材を与えられる事で買収されているようです」
そう報告を受けたシルヴァモンドは3人の使用人の解雇を進めた。直ぐに解雇するにはそれなりの理由が必要になる。食材を勝手に持ち帰っているのなら窃盗や横領となるがミネルヴァーナに押し付けられたのなら話は変わる。
単に使用人を飼い馴らそうとしているのならミネルヴァーナに釘を刺さねばならないと思ったのだった。
「大人しく過ごしておりますよ?出掛ける事も御座いませんし」
ミネルヴァーナの言葉は嘘ではない。
食材も届くし消耗品も届く。家には必要最低限の家具や生活用品も揃っているので買い物に行く必要もない。ミネルヴァーナが何処かに出掛けたという報告は一切上がっていなかった。
「使用人をどうしたいんだ」
「どうしたいとは?」
「支給した食材を与えているそうじゃないか」
――あ、やっぱり知られてたんだ――
クーリン達からもマリーからも「公爵家に報告しなきゃいけない」とは聞いていたので、隠す必要もないしありのままを話していいと答えてはいるが、忖度をしたのだろうか?とミネルヴァーナは思った。
庇う訳でもなく、ミネルヴァーナは事実を返した。
「とても食べきれませんので。捨てるよりも売りたいくらいですわ。廃棄となればベルセール公爵家が何と言われるか。だから持ち帰って頂いてベルセール公爵家はこんなにしてくれると良い評判になるかと思ったのですが」
「馬鹿にするな。そのような事をしてもらわずともベルセール家の評判が落ちる事など無い。売りたいほどあるなら売ればいいだろう。その方が宝飾品の1つでも買う足しにもなるだろうからな」
――おほっ?!これは勿怪の幸い?――
言い出す前に言ってくれた事に「読まれた?」とも思ったがこの機を逃す手はない。ミネルヴァーナは満面の笑みを浮かべそうになったが堪えて表情を変えず…。
「では、そのようにさせて頂きますわ」短く返した。
思った通りの答えだったのか、シルヴァモンドの腕に手を絡めたエルレアが「ほら、言った通り。やはり贅沢姫ね」と小さく呟くとシルヴァモンドは溜息を短く吐いた。
そのまま帰るのかと思えば何故かエルレアの手を解き、ミネルヴァーナに手を差し出してくる。何の真似だ?とミネルヴァーナとカイネルは顔を見合わせた。
「ル・サブレン王国では一緒に入場するんだ」
「あら?父親や親族の男性に途中までエスコートでは御座いませんの?」
ミネルヴァーナもル・サブレン王国の挙式の式次第などは本で読んだりしていたのだが、エルレアがクスっと笑った。
「第3王子殿下の妃になろうかというお人が…(くすっ)嫌だわ。こういう御式もあるのだとヴァリエーションもご存じないとは。結婚式までの間、何も学ばれませんでしたの?」
ピキっとこめかみで何かが切れた音がしたが、エルレアと同じリングに上がっても得をする事はないけれど、そのままでも腹が立ったままになってしまう。
「多彩なヴァリエーション。存じませんでしたわ。だって…ふふっ。ベルセール公爵家からは覚えてもらう事など何もないと言われましたので、その辺の知識で十分だと思いましたもの」
ギッとエルレアが唇を噛むのが見えるが、修道士が「まだか」と声を掛けて言い返す事も出来なかったようで、1人先に廊下を歩いて行った。
「では、姉上。私も席に着く事に致します。イレギュラー満載のヴァリエーション。きっと参列席には姉上と同じ衣装の女性も大勢なのでしょうね。目の保養にと楽しんで帰りますよ」
「是非そうして」
シルヴァモンドもエルレアの装いにはどうかと感じる所があるのか、カイネルも去りミネルヴァーナと入り口まで歩いている最中に小さな声で「すまなかった」と詫びた。
ミネルヴァーナは聞こえない振りをして扉が開くと同時にシルヴァモンドを見ず、前を向いたままで告げた。
「誓いのキスは不要です。ヴェールを上げ、顔を寄せるだけで結構です」
「それは」言いかけたシルヴァモンドに「参りましょう」とシルヴァモンドより先に一歩を踏み出した。
静かな結婚式は神父の問いにも答えたか答えていないのか。
神父も「次に進んでいい?」と何度もシルヴァモンドに目配せをする奇妙な結婚式となったのだった。
教会の鐘はただ空に向かってブラガヴェストニク(大鐘)を4回、単調に鳴らした。
ここ最近、3人の使用人とマリーの報告は変わりないのだがミネルヴァーナとその4人が何やら始めようとしているのは通行人を装って家の中を伺う間者からの報告で察知していた。
「どうやら使用人達は食材を与えられる事で買収されているようです」
そう報告を受けたシルヴァモンドは3人の使用人の解雇を進めた。直ぐに解雇するにはそれなりの理由が必要になる。食材を勝手に持ち帰っているのなら窃盗や横領となるがミネルヴァーナに押し付けられたのなら話は変わる。
単に使用人を飼い馴らそうとしているのならミネルヴァーナに釘を刺さねばならないと思ったのだった。
「大人しく過ごしておりますよ?出掛ける事も御座いませんし」
ミネルヴァーナの言葉は嘘ではない。
食材も届くし消耗品も届く。家には必要最低限の家具や生活用品も揃っているので買い物に行く必要もない。ミネルヴァーナが何処かに出掛けたという報告は一切上がっていなかった。
「使用人をどうしたいんだ」
「どうしたいとは?」
「支給した食材を与えているそうじゃないか」
――あ、やっぱり知られてたんだ――
クーリン達からもマリーからも「公爵家に報告しなきゃいけない」とは聞いていたので、隠す必要もないしありのままを話していいと答えてはいるが、忖度をしたのだろうか?とミネルヴァーナは思った。
庇う訳でもなく、ミネルヴァーナは事実を返した。
「とても食べきれませんので。捨てるよりも売りたいくらいですわ。廃棄となればベルセール公爵家が何と言われるか。だから持ち帰って頂いてベルセール公爵家はこんなにしてくれると良い評判になるかと思ったのですが」
「馬鹿にするな。そのような事をしてもらわずともベルセール家の評判が落ちる事など無い。売りたいほどあるなら売ればいいだろう。その方が宝飾品の1つでも買う足しにもなるだろうからな」
――おほっ?!これは勿怪の幸い?――
言い出す前に言ってくれた事に「読まれた?」とも思ったがこの機を逃す手はない。ミネルヴァーナは満面の笑みを浮かべそうになったが堪えて表情を変えず…。
「では、そのようにさせて頂きますわ」短く返した。
思った通りの答えだったのか、シルヴァモンドの腕に手を絡めたエルレアが「ほら、言った通り。やはり贅沢姫ね」と小さく呟くとシルヴァモンドは溜息を短く吐いた。
そのまま帰るのかと思えば何故かエルレアの手を解き、ミネルヴァーナに手を差し出してくる。何の真似だ?とミネルヴァーナとカイネルは顔を見合わせた。
「ル・サブレン王国では一緒に入場するんだ」
「あら?父親や親族の男性に途中までエスコートでは御座いませんの?」
ミネルヴァーナもル・サブレン王国の挙式の式次第などは本で読んだりしていたのだが、エルレアがクスっと笑った。
「第3王子殿下の妃になろうかというお人が…(くすっ)嫌だわ。こういう御式もあるのだとヴァリエーションもご存じないとは。結婚式までの間、何も学ばれませんでしたの?」
ピキっとこめかみで何かが切れた音がしたが、エルレアと同じリングに上がっても得をする事はないけれど、そのままでも腹が立ったままになってしまう。
「多彩なヴァリエーション。存じませんでしたわ。だって…ふふっ。ベルセール公爵家からは覚えてもらう事など何もないと言われましたので、その辺の知識で十分だと思いましたもの」
ギッとエルレアが唇を噛むのが見えるが、修道士が「まだか」と声を掛けて言い返す事も出来なかったようで、1人先に廊下を歩いて行った。
「では、姉上。私も席に着く事に致します。イレギュラー満載のヴァリエーション。きっと参列席には姉上と同じ衣装の女性も大勢なのでしょうね。目の保養にと楽しんで帰りますよ」
「是非そうして」
シルヴァモンドもエルレアの装いにはどうかと感じる所があるのか、カイネルも去りミネルヴァーナと入り口まで歩いている最中に小さな声で「すまなかった」と詫びた。
ミネルヴァーナは聞こえない振りをして扉が開くと同時にシルヴァモンドを見ず、前を向いたままで告げた。
「誓いのキスは不要です。ヴェールを上げ、顔を寄せるだけで結構です」
「それは」言いかけたシルヴァモンドに「参りましょう」とシルヴァモンドより先に一歩を踏み出した。
静かな結婚式は神父の問いにも答えたか答えていないのか。
神父も「次に進んでいい?」と何度もシルヴァモンドに目配せをする奇妙な結婚式となったのだった。
教会の鐘はただ空に向かってブラガヴェストニク(大鐘)を4回、単調に鳴らした。
応援ありがとうございます!
1,588
お気に入りに追加
2,895
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる