鬼神閣下の奥様は魔法使いだそうです

cyaru

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第38話   あって当たり前じゃない

ルフトモンド家までも時間にすれば一瞬。

ツェーザルも転移魔法は使えるのだが、クルトを連れて来ているので定員いっぱい。魔力は確かに大きいし種類の違う魔法も多く使えても、食べ物に好き嫌いがあるように、「出来ない訳ではない」程度が限界点となる魔法もある。

イルシェプはかなりの容量を転移させる事は出来るが、実は遮断魔法は苦手で離宮を囲うくらいが精一杯。
ツェーザルが候補に挙がっていたのは攻撃する魔法は勿論だが、遮断魔法はイルシェプよりもさらに広く、大きく使える事にあった。

その代わり‥でもないが転移魔法は苦手で自分以外に人1人が限界だった。

そのためアナベルはイルシェプに転移をさせてもらったのだった。

「いいかい?ツェーザル。遮断魔法を解くと彼女はかなり広範囲の音が全て入って来る。遮音を使ってもその中にいる者の声は発生も心も聞こえるから注意をしてあげて欲しい」

「では、俺の声も聞こえていると?」

ちらりとアナベルを見てジュボっと赤くなるツェーザル。
アナベルは赤くなるツェーザルを見て撫でたい!という気持ちが抑えられない。

が!その気持ちもツェーザルには筒抜けなので、ツェーザルは更に赤くなる。
しかし照れてばかりもいられない。

屋敷で働く使用人達に悪意を持った者はいないけれど、ツェーザルにとって「何でもない」事でも生まれ育った国が違うアナベルには負担になったり、不快になったりすることもある。

「一先ずはツェーザルの声だけが聞こえるようにするというのもあるが・・・」

そうなればマシャリの声も聞こえなかった最初の頃と同じ。
アナベルは敷地全体には王太子の専属護衛という事もあり、常に結界のような音も侵入者も防ぐ魔法が展開されていると聞いて、「このままでいい」と告げた。


「いいのかい?使用人は悪気はないと言っても‥」
「構いません。文化の違いがある事も判ってきたんですから」
「だが、君が良くても相手は違うよ?」
「全部同じのほうが気持ち悪いです。何でも自分の思う通り、学んだことが正解とは限りませんから」


アナベルが生まれ育った国には【魔法】がないのだから、マジルカ王国とはその時点で大きく異なる。

例えば竈に火を入れる時、魔法が使えて便利だなとアナベルは思うが、それを「楽してる」と考える者もいるだろうし「危ない」、そもそもで魔法が使える事を「気持ち悪い」と考える者もいる。

逆も然り。
魔法が身近にあって当たり前のマジルカ王国で生まれ育った人には火打石で火をつけるのに「何で面倒なことする?」と考える人や「原始時代?」と揶揄する者もいるだろうし、「魔力を消費しなくてすむ」と考える者もいるだろう。

「人の数だけ考え方があって当たり前です。嫌な事だなと思っても相手は良かれと思ってるかもしれません。勿論悪意を持って投げかけたり、思ったりする人もいるでしょうけど」

「なるほど。確かにね。魔法があると便利。そう考える人もいるよね。私達には当たり前だから便利とかそういう事ではないんだけどね」

「それが違いってことで面白いなと思うんです。こう思えるのも昔、講師の方が本を読んでくれてその話を色んな人に聞いたらみんな答えが違ってて。同じ答えだけだとなんだか気持ち悪くて。ただ決まりごとがあるなら知りたいです。どの国にも譲れないってものはあると思いますから」

イルシェプはツェーザルに「屋敷での決まりごとはあるか?」と問う。
少し考えたツェーザルは「ないかな、あったかな」とポツリ。

その隣でクルトが指を1本立てて「あります」と言った。

「ホウレンソウです。報告、連絡、相談のホウレンソウ!」
「それは基本中の基本だよ」

イルシェプは笑ったが、ツェーザルは「それです」とクルトに加勢した。

「失敗するとね、大きな失敗ってのは隠しようはないんですけど、小さい失敗は何とかなるって自分で対処しようとすることがあるんです。いや、自分で出来ればいいんですけど小さな失敗でも ”ここが失敗” と先に情報を共有出来ていれば別の方法とか案を出せますんで」

「出来ると思います。多分…最初は失敗ばかりだと思うので」

えへっと笑うとまたもやツェーザルは胸を押さえて動悸を鎮める。

「心配は・・・ツェーザルだけだな。だがクレメンスが任せたんだ。よろしく頼むよ」

ツェーザルの替わりにクルトが「はい」と返事を返す。
今のツェーザルは過呼吸寸前だからである。

イルシェプは微笑むと転移魔法で飛んで行ってしまった。

アナベルは「よろしくお願いいたします」と頭を下げるとクルトが「こちらこそ」と返し、今屋敷にいる使用人を紹介するに案内しましょうと手を差し出す。

ぱちん!!

「痛った!なぁにすんですか!」
「それは俺がする。クルトはほら!何かする事探してこい!」
「なんですそれ!もぅ~」

ツェーザルがクルトに代わってアナベルに手を差し出した。
アナベルがその手に手を重ねた瞬間、ツェーザルの全身の毛がピン!!と逆立った。
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