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第二章
清掃師、ひらめく
しおりを挟むあれからしばらくして、俺たちは既に赤く染まりつつある迷宮山『アント・ヘブン』の麓近くへと到着した。山の姿が見えたときはもう近いかと思ったが、実際はまだ距離があったみたいでかなり時間がかかってしまった。
ウォーキングバードから降りて山を見上げると、雲で頂上が見えないくらいの高さだった。たまに黒い粒のようなものが見える。多分あれがここに出現するモンスターの一種フライアントなんだろう。
「み、みんなっ、一旦テントで休もうじゃないかっ! 今から登り始めたら途中で夜になってしまう!」
ロディが高らかに叫ぶが、みんな納得のいかない様子で顔を見合わせる始末。それもそのはずで、まだ夕方だし俺たちに残された時間はあと八日しかないんだ。俺は嫌われるのを覚悟で手を上げた。
「リーダー、ここはシェリーの言ったように真っ暗な洞窟内を登っていくことが多い山だし、夜が来たからといって大して変わらないと思うから、第一セーブポイントまでは頑張って進んだほうがいいんじゃないかな? そこから登山者ギルドに戻ればいいわけだし」
「う、うーん……確かにアルファ君の言うことも一理あるがな……夜は眠気も襲ってくると思うのだっ! よし、ここは多数決といこうではないかっ!」
「じゃ、あたしはアルファを支持するわ」
「わたしもっ」
「私もアルファさんの案がいいと思いますぅ」
「……わ、わははっ! 実を言うとだな、この私も内心ではアルファ君の意見に同意していたのだっ!」
「……」
リーダー、変わり身が早いな。おそらく、このままじゃ遅れてしまうという気持ちと、オーガが怖いからまず一晩置いて頭の中を整理したいっていう気持ちが同居してたんだろう。ただ、オーガが夜型というのは聞いたことがないし、普通に考えると人間を標的にするなら夜は選ばないだろうからむしろこの時間帯のほうが安全に思える。
というわけで早速俺たちは山を登り始めたわけだが、まもなく幾つもの洞穴たちが出迎えてきた。まさに大きな蜂の巣のような感じで、どこに入ればいいのか迷うレベルだ。
確か正解のルートは指で数えるレベルで少なく、あとはループトラップによって進んでも進んでも延々と登り坂が続くため、運が悪いとかなり時間と体力を浪費してしまう迷宮山であることでも知られてるんだ。そのため、最初が肝心だと登山者の間ではよく言われているらしい。
「どっ……どこへ行けばいいというのだあっ……! 私は……なんだか猛烈に疲れてきたっ……!」
いきなり頭を抱えて苦しみ始めるロディ。やっぱりまだ帰りたがってそうだな。
「確かここ……サミットメーターが通用しないってことでも有名なんだよね」
サーシャの言う通り、ここは正解の道を選んだとしても計測器の針が逆戻りすることもあるから要注意なんだ。それゆえ当てになるのは自分の足や勘くらいで、とにかくループしなかった道を選んでいくしかない。とはいえ、かなり登らないと出口が見えてこない洞窟もあるみたいだし難しいところだ。
「うー、どこでもいいから早くいこー?」
「うふふ、シェリーさんの言う通りですよぉ。どこが正解の道なのかは、実際に入ってみないとわかりませんしぃ……」
「……」
それはそうだな。シェリーとミュートの言う通りだ……って、待てよ? この【一掃】スキルって、アレも払うことができるんだろうか? それができたら面白いしちょっとやってみようかと思う。
「あっ……!」
「「「「……っ?」」」」
俺が素っ頓狂な声を上げたもんだから、みんなが不思議そうに見てくる。
本当に見えたんだ、間違いのルートを払うことで、正解のルートが。まさかこんなものまで払えるとは……。これもセンスが鍛えられたことの影響だろうか? なんとなくこっちがいいような気がするとか言って、あくまでも偶然にってことで正解のルートを薦めてみるか。
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