上 下
21 / 61

21 愛している1

しおりを挟む
「「愛してる」って言われながら抱かれると、女はいつもよりずっと気持ちよくなれるらしいのよ」

いつもと変わらぬ調子の姫様の言葉。けれど

「それは…流石に…」

リチャード様は、躊躇った。

「なによ。罵るのは平気なのに愛を囁くことはできないの?おかしな男ね」

「っ…」

「まぁいいわ」

ほっと胸を撫で下ろすリチャード様。

「あなたの代わりなんていくらでもいるもの」

「っ…!」

けれど続けられた姫様の言葉に、弾かれたように顔を上げた。

「いつも言っているでしょう?私はあなたに無理強いする気はないのよ。これはあくまで、ミリアへの罰なのだから。リチャードが妻に遠慮して言えないなら、心にもない言葉を平然と言える男にやらせるだけだわ」

「…っ…」

「初めて会う男に「愛してる」なんて嘘だと分かりきった言葉を吐かれながら抱かれるミリアは、どんな顔をするのかしらね?とても楽しみだわ」

どうしてこの方は、こんな残酷なことを言う時でさえ、こんなにも美しいのだろう…。
何もできず、ただぼんやりと姫様を見つめる。

「ふふっ。そのまま恋に落ちてしまったりするのかしらね?」

姫様は、いつも通りとても楽しそうだ。

「リチャード。誰か呼んできて。前に言った通り誰でもいいのよ。私の目の前で、命令通りにミリアを抱けるのならね。…ああでも、毎回見繕うのは面倒だから、どうせなら長続きしそうな男がいいわ」

今度こそ、ダメかもしれない。リチャード様は断るかもしれない。
だって、真面目なリチャード様が、嘘でも「愛してる」なんて私に言えるとは思えない。
奥様がいる、リチャード様が…。

悄然と、うなだれる。
顔を上げられない。顔を上げたら絶対に、リチャード様に縋ってしまうから。
だからせめて、俯いたままリチャード様を送り出してそして……

………そして…リチャード様が選んだ誰か…に…

ブルブルと体が震えてしまうのは、どうしようもなかった。

嫌だ…。
リチャード様以外の誰かに触れられるなど。嫌だ。
嫌…嫌…嫌…嫌……

コツコツと靴音がして、俯いた視界に軍靴のつま先が入った。

「はあっ…」

リチャード様の重いため息。
びくりと肩が震える。

呆れられてしまった。
これで最後かもしれないのに…。

「はあ…」

もう一度、大きなため息。

「申し…訳…」

「…私が君を、今さら見捨てる訳がないだろう」

小さな呟き。
驚いて顔を上げた。
リチャード様の真っ直ぐな瞳と視線が合う。

「だが覚えておいて欲しい。今日私が君に何を言おうと、それは口先だけのことだ。気持ちなど、欠片もないと」

「はい…はいっ…」

夢中で頷いた。
リチャード様が相手をしてくださるのなら、私は平気だ。
たとえどれだけ辛くても平気だ。
相手がリチャード様ならば…


そう、思っていたのだけれど。
想像していたよりもずっと、この日は辛かった。

リチャード様が、何度も私に囁くのだ。「愛している」と。
キスをしながら。
胸を愛撫しながら。
…挿れて、奥を突きながら。
「愛している」と繰り返すのだ。
何度も。何度も。

胸が切り裂かれたように痛くて。
でも同時に、得も言われぬ喜びが全身を満たした。
何度、「これは姫様に命令されただけなのだから」と自分に言い聞かせても無駄だった。

気持ちなどないと、はっきり告げられていたのに。
涙が止まらなくなるほど嬉しかった。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】花で手繰り寄せる運命

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:51

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:347pt お気に入り:3,963

メシ炊き使用人女は、騎士に拾われ溺愛される

恋愛 / 完結 24h.ポイント:702pt お気に入り:4,894

異種姦マニア

BL / 連載中 24h.ポイント:532pt お気に入り:196

妹にあげるわ。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:148,135pt お気に入り:3,407

処理中です...