鴉天狗と贄の愛し方─重なり合ったふたつの孤独─
大正十一年、代々政治家の家庭に生まれた梅小路椿は、毎日が重圧と緊張、そして退屈な日々を送っていた。嫡男として政治家を継がなければならず、それは将来がないものと等しかった。
そんな毎日の中、一頭の鴉が迷い込んできた。羽が折れ曲がり、目も開かない。息絶えそうな鴉を看病すると、次第に元気になっていく。鴉も椿へ懐き、椿の心には暖かなものが芽生え始めていた。椿にとって、初めての感情だった。
学校から帰ると鴉はいなくなっていた。家政婦の文子は「捨てた」と残酷な言葉を吐き捨てた。日頃、文子からの冷たい態度も相まって、椿は再び空虚感を感じた。
あるとき、椿の部屋の窓に一通の手紙が挟まっていた。内容は感謝を告げるものだった。人懐っこい鴉は人に飼われていたもので、飼い主との秘密の文通は続いていった。
そんな生活が続いていく中、父が暗殺されたという知らせが届いた。愛する妹と離れ離れになり、椿は伯父の家へ引き取られることになる。
ことあるごとに伯父は椿の身体に触れようとする。そのたびに椿は逃げるように部屋へ閉じこもり、脅える日々が続いた。
部屋へ入ってきた伯父から襲われそうになったとき、窓から入ってきたのは天狗のお面をつけた男だった。
ちょうどそのとき、大きな地震が起こり、椿は瀕死の重傷を負ってしまう。
数か月後、目覚めた椿は、助けてくれた男の家にいた。
彼は人間ではなく、あのとき助けてもらった鴉天狗だと言う。
家を失った椿は、人間の姿になった鴉天狗の花蘭とともに新しい生活を始めることになった──。
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