文字の大きさ
大
中
小
537 / 2,093
最終章 前編 〈王都編〉
閑話 〈王妃の子 その2〉
――シノビ・カゲマルの手によって連れ去られた王妃の子供はカゲマルが隠れ家としている廃屋へ閉じ込められ、両手と両足を拘束した状態で地面に横たわっていた。だが、普通の子供ならば攫われた時点で取り乱すのだが、王妃の子供は至って冷静に自分を見張るカゲマルに話しかける。
「誘拐犯さん、これから僕はどうなるんですか?」
「……静かにしていろ」
「お願いです、どうか僕の話を聞いて下さい」
腕を組んだまま柱に背を預けるカゲマルにレアは怯えもせずに話しかけ、そんな彼の様子にカゲマルは訝し気な表情を浮かべながらも王城の様子を伺う。カゲマルはどうにか王子であるレアを誘拐した後、彼の部屋に手紙を残してきた。
王子の命が惜しければヨツバ王国で拘束しているマリアを解放しろ、この返事に従う場合は夜が明ける前に王城の全ての旗を白旗に返る事を記した手紙を置いてきた。今頃は既に王妃の元にも手紙の内容が伝わっているはずだが、一向に王城に変化はない。
カゲマルは王妃が自分の子供の命が惜しくないのかと考えたが、第一王子は彼女がバルトロス王国を支配するために必要不可欠な王位後継者であるため、易々と見捨てるはずがないと考えていた。だが、結果は夜が明けても王城側からの反応はなく、白旗は掲げられなかった。
「……時間切れだ。貴様の親はお前を見捨てたようだな」
「ああ……そうですか」
夜明を迎え、遂に朝日が差しても王城に変化がない事を確認したカゲマルはレアと向き合う。母親が自分の事を見捨てたにも関わらずにレアは取り乱す事もなく、少し落ち込んだ表情を浮かべる。そんな彼の反応にカゲマルは疑問を抱き、これから自分がどんな目に遭うのか理解していないのかと考えた。
「これから俺はお前を殺すかもしれないんだぞ。なのにどうして冷静でいられる?」
「冷静というか、諦めというか……もう、どうでもいいやと思いました」
「何?」
「やっぱり、母上は俺の事を何とも思っていなかった……そう考えると何だか全部どうでもよくなりました」
レアは母親が自分の存在をもう必要としていない事を悟り、全てを諦めたように横になる。そんな彼の姿にカゲマルは無言で近づき、刃物を構える。
「おい、逃げなければお前は死ぬんだぞ」
「どうでもいいですよ……殺すなら殺してください」
「お前、死ぬのが怖くないのか?」
「怖い……とは思います。でも、それ以上にもう面倒くさいんです」
母親に自分の存在を認めてもらうために頑張ってきたレアだが、結局どれだけ努力しても母親は自分に見向きすらしなかったという事実にこれまでの努力が馬鹿らしくなり、黙ってカゲマルを見つめる。あまりにも無気力な視線を向けてくるレアに対してカゲマルは戸惑い、過去の自分と重ね合わせる。
――十数年前、一流の暗殺者として父親から育て上げられたカゲマルはある依頼人からマリアの暗殺を命じられた。カゲマルは持てる力を尽くしてマリアに挑むが、結局は彼女を殺す事は出来ず、逆に生け捕りになってしまう。
隙があれば自害しようとするカゲマルに対してマリアは決して許さず、あろうことかカゲマルの父親と取引をして彼の事を引き取った。どうして自分にそこまで執着するのかとカゲマルが問いただしたとき、マリアはこう答えた。
『貴方の顔を見て放っておけなかったのよ。勝手に絶望して勝手に自分の人生を諦めようとする人間ほど苛立つ存在はいないわ』
そのマリアの言葉を聞いた時のカゲマルは意味が分からなかったが、彼女の元で拾われてからマリアの側近として仕え続ける事で人としての心を持つようになった。
カゲマルの目の前に存在するレアは十数年前の自分自身の姿と重なり、そんな彼を見てカゲマルは刃物を下ろす。自分を殺すつもりではなかったのかとレアは驚くが、そんな彼にカゲマルは告げる。
「お前の人生はまだ終わっていない。これからは好きに生きろ……だが、王妃の元に戻るのならば容赦はしない」
「あっ……」
レアの拘束を解くとカゲマルは廃屋から立ち去り、残されたレアはカゲマルが残した小太刀を拾い上げ、自分がこれからどうするべきなのか分からず、黙って空を見上げた。
※息子とはいえ、レアも王妃の被害者なので悲しい終わり方は描きたくありませんでした。
「誘拐犯さん、これから僕はどうなるんですか?」
「……静かにしていろ」
「お願いです、どうか僕の話を聞いて下さい」
腕を組んだまま柱に背を預けるカゲマルにレアは怯えもせずに話しかけ、そんな彼の様子にカゲマルは訝し気な表情を浮かべながらも王城の様子を伺う。カゲマルはどうにか王子であるレアを誘拐した後、彼の部屋に手紙を残してきた。
王子の命が惜しければヨツバ王国で拘束しているマリアを解放しろ、この返事に従う場合は夜が明ける前に王城の全ての旗を白旗に返る事を記した手紙を置いてきた。今頃は既に王妃の元にも手紙の内容が伝わっているはずだが、一向に王城に変化はない。
カゲマルは王妃が自分の子供の命が惜しくないのかと考えたが、第一王子は彼女がバルトロス王国を支配するために必要不可欠な王位後継者であるため、易々と見捨てるはずがないと考えていた。だが、結果は夜が明けても王城側からの反応はなく、白旗は掲げられなかった。
「……時間切れだ。貴様の親はお前を見捨てたようだな」
「ああ……そうですか」
夜明を迎え、遂に朝日が差しても王城に変化がない事を確認したカゲマルはレアと向き合う。母親が自分の事を見捨てたにも関わらずにレアは取り乱す事もなく、少し落ち込んだ表情を浮かべる。そんな彼の反応にカゲマルは疑問を抱き、これから自分がどんな目に遭うのか理解していないのかと考えた。
「これから俺はお前を殺すかもしれないんだぞ。なのにどうして冷静でいられる?」
「冷静というか、諦めというか……もう、どうでもいいやと思いました」
「何?」
「やっぱり、母上は俺の事を何とも思っていなかった……そう考えると何だか全部どうでもよくなりました」
レアは母親が自分の存在をもう必要としていない事を悟り、全てを諦めたように横になる。そんな彼の姿にカゲマルは無言で近づき、刃物を構える。
「おい、逃げなければお前は死ぬんだぞ」
「どうでもいいですよ……殺すなら殺してください」
「お前、死ぬのが怖くないのか?」
「怖い……とは思います。でも、それ以上にもう面倒くさいんです」
母親に自分の存在を認めてもらうために頑張ってきたレアだが、結局どれだけ努力しても母親は自分に見向きすらしなかったという事実にこれまでの努力が馬鹿らしくなり、黙ってカゲマルを見つめる。あまりにも無気力な視線を向けてくるレアに対してカゲマルは戸惑い、過去の自分と重ね合わせる。
――十数年前、一流の暗殺者として父親から育て上げられたカゲマルはある依頼人からマリアの暗殺を命じられた。カゲマルは持てる力を尽くしてマリアに挑むが、結局は彼女を殺す事は出来ず、逆に生け捕りになってしまう。
隙があれば自害しようとするカゲマルに対してマリアは決して許さず、あろうことかカゲマルの父親と取引をして彼の事を引き取った。どうして自分にそこまで執着するのかとカゲマルが問いただしたとき、マリアはこう答えた。
『貴方の顔を見て放っておけなかったのよ。勝手に絶望して勝手に自分の人生を諦めようとする人間ほど苛立つ存在はいないわ』
そのマリアの言葉を聞いた時のカゲマルは意味が分からなかったが、彼女の元で拾われてからマリアの側近として仕え続ける事で人としての心を持つようになった。
カゲマルの目の前に存在するレアは十数年前の自分自身の姿と重なり、そんな彼を見てカゲマルは刃物を下ろす。自分を殺すつもりではなかったのかとレアは驚くが、そんな彼にカゲマルは告げる。
「お前の人生はまだ終わっていない。これからは好きに生きろ……だが、王妃の元に戻るのならば容赦はしない」
「あっ……」
レアの拘束を解くとカゲマルは廃屋から立ち去り、残されたレアはカゲマルが残した小太刀を拾い上げ、自分がこれからどうするべきなのか分からず、黙って空を見上げた。
※息子とはいえ、レアも王妃の被害者なので悲しい終わり方は描きたくありませんでした。
感想 5,097
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
スキルを奪われてお詫びチートをもらったので余生を楽しく……過ごさせてくれ
異世界に召喚されたその日、巻き込まれた青年に俺が得るはずだったスキルを奪われた。
お詫びとしてチートスキルを授かった俺は、第二の人生くらい好きに生きようと旅に出る。
行き着いた先は、寂れた町の場末の酒場だ。
なぜか客は男ばかりだが、日雇い冒険者や恐妻家の肉屋たちとの気楽な毎日は悪くない。
……ただ一人、どう見ても貴族のような美青年がこの地味な酒場へ通ってくる理由だけは、さっぱりわからない。
「お前らツケはやめろ」
そんな穏やかな日々を送っていたはずなのに、ある日、酒場へ厄介な依頼が舞い込んできた――。
他サイトでも掲載しています。
不定期更新です。
真の皇帝は俺です ~面倒だから幼なじみに帝位を任せていたら、婚約者に捨てられました。正体を明かしたら全員後悔してももう遅い~
皇帝の仕事が面倒だったレインは、信頼する幼なじみアレクシスに表向きの皇帝を任せ、自身は陰から帝国を支えていた。
だがある日、婚約者エミリアは「権力も将来性もない」と彼を見限り婚約破棄を宣言する。
しかし彼女は知らなかった。
帝国を動かしていた真の支配者が誰なのかを。
これは全てを持ちながら隠していた男と、見るべきものを見失った者たちの後悔の物語。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
祝 書籍化決定!!
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
コミカライズ企画進行中です!!
3巻発売です!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&3巻出版!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、コミカライズ決定いたしました!現在企画進行中!!そしてオリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
12日には、楽天koboにおいてファンタジー5位となりました!皆様のおかげです!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(3巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
夏にはいよいよコミカライズ連載開始予定です!乞うご期待!!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
オリコンランキングライトノベル 週間BOOKランキング 18位(2025年9月29日付)