海の向こう側には何かがあるって君の言葉が、ようやく僕には分かった。

君は、少しだけ足を濡らしながら、海の向こうを見ている。


朝日に照らされた向こう側を、夕日に映し出された向こう側を。

真っ暗で不明瞭な境界線を。


僕はそんな君を眺める。


白い足首に波紋を作る波を、風に揺れる白いワンピースを。

キラキラと輝いた、向こう側を見つめる視線を。


中学二年生の時、一度だけ、彼女が言った。

『この海の向こう側に、何かがあるんだ。
私はね、それを見てみたいの。』

『そりゃあるでしょ。
大陸が。』

彼女は、不貞腐れたみたいな声色の笑顔だった。

『分かってないなあ、君は。』

そう言って、君はまた海の向こう側を見た。


君の隣で見るのは恥ずかしくて、君がいなくなってしまった後に、僕は海の向こう側を見たんだ。

「やっぱり、僕にはわからないよ。」

全部、真っ暗に見えてしまって。
やっぱり、僕は、君を見ていなきゃ、ダメなんだ。



海岸沿いに住む二人のお話
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