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61.帰路

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「血を集めろ!」

 俺は必死に血を集めた。
 集めれるだけ集めた。

 ヒロも一緒になって集めたのだ。
 コイツはどちらかと言うと王女様の為。

 話を聞いたところによると、召喚された時にはピンピンしていたらしい。
 突然目を覚まさなくなったのだとか。
 毒を盛られたのか。

 ヒロは少しそれを疑っているが、俺が前に城に行った感じだと、やりそうな奴がいた。
 明らかにうるさいヤツが。
 魔王を討伐されては困るといった感じのやつがいた。

「こんだけあれば充分かな?」

「そうだな。後は素材に使えそうな物は持っていこう」

 ドラゴンの三つの頭やら胴体部分の爪。
 その他にも火炎袋などがあった。
 全部希少なものだろう。

 持って行けるものは持って行く。
 みんな荷物がパンパンになるくらい持った。
 重いが、これもいい鍛錬だ。

 そろそろいいだろうか。
 そう思った時、ヒロが報告をすると言い出した。

「王様に通信魔道具で報告しておこうかな!」

 魔道具を持ち起動しようとする。
 バシッと俺ははじき飛ばした。

「やめた方がいいぞ」

「テツ!? 何すんの!?」

「俺が思うに、王女様が寝たきりになったのには誰かの思惑が絡んでいると思う」

「えっ!? そんな……」

 それを聞いていた騎士団長は聞き捨てならなかったのだろう。
 興奮した様子で息巻いて近寄ってきた。

「我が国に王女様を貶めようとする者なぞ、いませんよ!?」

「例えば、王女が死んで得をするのは誰だ? 王様は子供は一人か?」

「はい……一人です。王女様がもしお亡くなりになった場合、王様が亡くなった後に跡を継ぐのは……筆頭格の大臣……ゲーハ大臣か!」

 騎士団長が、回答を導き出した。
 そして俺が怪しいと思ったのもそいつだ。
 そいつの気配は闇が濃かった。

 闇属性になってからというもの、人の闇の部分が敏感に分かるようになった。
 これは役に立つ能力だと思っている。

「テツ!? 気付いてたの!?」

「アイツは闇が濃かったんだ。俺はそれでコイツには何かあると、そう思った」

「ふーん。闇属性ならではか……」

 闇属性なら皆がそうなるのでは無いだろうかと思うが、同じ闇属性が居ないので分からない。

「それなら、連絡するのはやめておいた方がいいね。何も連絡しないで突然帰ろう」

「あぁ。その方がいい。連絡して回復の目処がたった場合、恐らく物理的に命を狙いに来ると思う」

「……それは、穏やかじゃないね。なるべく急いで戻ろう」

 騎士団達も表情が曇る。
 まさかそんな事態に陥ろうとは思ってもみなかっただろう。 
 しかし、現実的な話として急いだ方がいい事はたしかだ。

◇◆◇

 ここまで何とか急いで三週間かかった所を二週間で通過してきた。
 聖都まであと一週間というところまで来た。

 強行すれば三日で着くだろう。
 最後の踏ん張りだ。

「後ちょっとだね。必要最低限の補給をしたらすぐ出よう。食料が限界だから補給しない訳にもいかないしね」

「あぁ。俺達が倒れたんじゃ話にならないからな」

「そうですな! もうひと踏ん張り頑張りましょう!」

 騎士団長もまだまだ元気である。
 流石に体力がある。

 最後の補給地により、食料を買う。
 必要最低限の物を買い、街の入口に集合。
 皆が集まったところで出発した。

 皆は気づいていないようだが。
 俺達を追ってきている者がいる。
 しかも、闇の気配が深いものが。

 しばらく進んで森に入る。
 恐らくここで仕掛けてくるだろう。

 森を少し進むと火球が後ろから飛んできた。

「伏せろ!」

 俺以外が伏せる。
 俺は闇の弾を放って応戦する。

「敵襲!」

 荷物を下ろして両手にナイフを抜き放ち構える。
 何者かは分からないが。
 ただの盗賊ということも無さそうだ。

「こんな所で何者だ!? こちらは聖都の騎士団だぞ!?」

 ゾロゾロと五人が取り囲むように広がった。
 皆それなりの武装をしている。
 盗賊よりは統率が取れているような。 

「ヘッヘッヘッ。そうか。合ってたな。連絡がねぇから死んだかと思えば戻ってきやがって……見張っててよかったぜ。お得意様にドヤされるところだったわ」

 直感が感じだ。
 俺の前世の稼業と同じだ。
 殺し屋。

「誰に雇われた?」

「ヘッヘッヘッ。ここで命を落とすんだから知ってもしょうがねぇだろ?」

「ほう。魔王を倒して帰還した俺達に勝てると思うのか?」

「ふん。魔物と人間相手じゃ違うだろ?」

 俺にはどちらも害をなすもの。
 どちらも変わらない。
 魔物の方が狩りやすいと言いたいのだろうか。

「同じだ」

 俺は踏み込んで喋っていたリーダーらしき者に肉薄する。
 即座に首にナイフ叩き込もうとする。
 両手で防がれた。

 胴がガラ空きだぞ。
 横からの回し蹴りを放つ。
 ドッという音と共に少し体が曲がった。

 下がった頭に膝を打ち込み頭をかち上げる。
 上を見上げて露わになった喉を、切り裂いた。

「グフッ……グッ……」

 喉を抑えて倒れ込む。
 周りを見る。
 みんな戦闘が続いている。

 ヒロは……大丈夫だな。
 ショウも大丈夫。
 騎士団は二人相手にしていて数的には有利だが押されている。

 一人が包囲網を抜け出してレイの元へ駆け寄った。首にナイフを突き立てて人質をとる作戦に出たようだ。

 騎士団の方を向いていて俺には側頭部が丸見え。騎士団はオロオロと狼狽えている。
 こんな状況は無いだろうからな。
 どう対処したらいいか分からないだろう。

 俺は、指に闇の弾を出現させて構えた。
 騎士団が武器を地面に置いた。
 レイにナイフを向けていた男がニヤニヤしながらナイフを下ろした。

 ドッという音の後。
 男は頭から血を流して倒れた。
 やはりこの弾は便利だ。

 闇の魔法は使いこなせているのだが、ここ数日、なんか体の中で違和感があるのだ。
 何か使えていないエネルギーのようなものがある気がする。
 一体なんだろうか。
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