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8.俺のこと好き?
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「わっ」
ワンピースを胸元に抱えているせいで自由がきかず、そのまま背後に倒れ込んだ。啓斗の手のひらが後頭部を守ってくれたから、マットに受け止められて軽くバウンドしただけで衝撃はない。
「脱がす余地残しといてくれたんだ」
からかいまじりの囁きに耳が熱くなる。しがみつくようにワンピースを抱え込んだけれど、いたずらな指に肩をなぞられ腕を浮かせた隙に抜き取られてしまった。
下着だけの姿にされた心もとなさにまつ毛を伏せる。温かな手のひらが肩先を回り込んできて背中を持ち上げた。すぐに胸元の締めつけがなくなり、ホックを外されたのだとわかる。
緊張に跳ねた肩口に啓斗の唇が触れた。音もなく触れては離れるだけの柔らかなキスは慈しむようで、素肌と胸の奥がそわそわとした。
くすぐったくて落ち着かなくて、それでいてもっとしてほしいと求めてしまう。恥ずかしくて今はまだ言えないけれど、思いに応えたくて代わりに啓斗の腕に触れてみる。
筋が浮いてしっかり日に焼けた肌は少しだけ汗ばんでいて、手のひらがぴたりと吸い付いた。
肩から胸の中心に向かって移動してきた唇が動きを止めて、ふっと息を吐く。接した肌は触れた直後はひんやりしていると思ったのに、すでに熱が生じていた。
「可愛いことするね」
目元を隠す前髪越しに、啓斗の口の端が上がっているのが見えた。からかわれているのか、それとも本心からそう思っているのだろうか。
手のひらに筋肉の収縮が伝わって、啓斗が深く屈んできた。
「そのまま触ってて」
耳の縁に唇が触れる距離で囁かれ、ぞくっと背筋が粟立った。別に腕に触るくらい何でもないことのはずなのに、すごくいけないことをしているような気になってくる。
「……やらしい言い方しないで」
苦し紛れに呟いた途端、吐息がが耳に吹きかけられた。こぼれそうになる悲鳴をどうにかしてやり過ごすと、愉悦まじりに啓斗が囁いた。
「今からいっぱいやらしいことするのに言葉くらいどうってことないだろ」
「だからそういうの、や――」
言葉尻をキスに飲み込まれ、うやむやになる。熱っぽい舌で口内を舐められると、そうしたいわけじゃないのにひとりでに体が揺れ動いてしまう。
くぐもった息にまじって漏れる声が自分のものじゃないみたいに蕩けて聞こえた。やらしいことの始まりを告げる濡れたキスに翻弄される。
「んっ、んぅ……」
唇を重ねることに夢中になっているうちに啓斗の手が残った下着に伸びてきた。縁をなぞられて自然と腰を浮かせてしまう。気がついた時には脱がされていて、その手際の良さに目を見張る。
けれど際どい場所に指がかすめ、すぐに考え事をする余裕は消えた。触れるか触れないかのごく弱い力で敏感になった所を往復されて、喉を鳴らす。
荒い息づかいにも煽られて、たまらず広い肩に腕を回した。体温の高い体はエアコンの風で冷えた素肌に心地いい。
「もー、不意打ちやめろよな」
困ったような、それでいて喜びをにじませながら啓斗がぎゅっと抱きしめ返してくれる。温かな腕に包まれる幸せを感じながら、啓斗の肩を自分の方に引き寄せた。
抱きしめ合っていた時間はそんなに長くなかったはずだ。
「なあ、いい?」
主語も動詞も目的語も足りないけれど、その表情を見れば求められていることは明らかだった。余裕がなさそうなのにこうして許可を取ろうとする律儀さが好ましくて頬が緩む。
「うん、いいよ」
そう答えながらもずっと友達だった相手とこんな関係になるなんて、いまだに信じられない。ただ、啓斗の腕の中にいることに慣れつつある。
抱きしめる腕の力強さや高い体温、時々肌に触れる少し硬めの毛先の感触、いつも使っている嗅ぎ慣れたシャンプーの香りが啓斗からするのも初めてのはずなのに、なぜか違和感なく受け入れている自分がいた。
比べるなんて失礼だとわかっているけれど、抱きしめられてこんなに充足した気持ちになるのは初めてだった。
「紗矢」
咎めるように名前を呼ばれて、意識を戻す。視線を受けたことを確認して、啓斗が私の足の片方をそっと持ち上げた。壊れ物を扱うような丁寧な手つき。それから開いた足の間に手を差し込まれて、濡れた場所に指が這う。
「ひ、ぅ……」
上擦った声を笑われるかと思ったけれど、返ってきたのは色めいたため息だけだった。
すでに濡れている場所に潤みを広げる優しい触れ方に私の口からも湿った息が漏れる。
じっくりと解された後、ようやく啓斗と一つになれた。甘やかすような緩い揺さぶりに体の奥がぐずぐずと溶けてしまいそうな心地だ。
室温は設定二十五度のままだから十分に涼しいはずなのに、肌がすっかり汗ばんでいる。啓斗のこめかみからも雫が滴って、私の胸元で細かく砕け散った。感覚だけで、ありありとその様子が頭の中に思い浮かぶ。
「……俺のこと好き?」
送り込まれる律動に今にも理性を攫われそうになっている最中、不意に問いが向けられた。迷うことなく頷くと、啓斗の親指が下唇を這う。
「言って」
「すき」
求められるままに告げた言葉ごと飲み込むようにキスをされる。
「俺も好き。大好き」
唇をくっつけたまま愛を告げられて、くらくらするような幸福を実感した――
ワンピースを胸元に抱えているせいで自由がきかず、そのまま背後に倒れ込んだ。啓斗の手のひらが後頭部を守ってくれたから、マットに受け止められて軽くバウンドしただけで衝撃はない。
「脱がす余地残しといてくれたんだ」
からかいまじりの囁きに耳が熱くなる。しがみつくようにワンピースを抱え込んだけれど、いたずらな指に肩をなぞられ腕を浮かせた隙に抜き取られてしまった。
下着だけの姿にされた心もとなさにまつ毛を伏せる。温かな手のひらが肩先を回り込んできて背中を持ち上げた。すぐに胸元の締めつけがなくなり、ホックを外されたのだとわかる。
緊張に跳ねた肩口に啓斗の唇が触れた。音もなく触れては離れるだけの柔らかなキスは慈しむようで、素肌と胸の奥がそわそわとした。
くすぐったくて落ち着かなくて、それでいてもっとしてほしいと求めてしまう。恥ずかしくて今はまだ言えないけれど、思いに応えたくて代わりに啓斗の腕に触れてみる。
筋が浮いてしっかり日に焼けた肌は少しだけ汗ばんでいて、手のひらがぴたりと吸い付いた。
肩から胸の中心に向かって移動してきた唇が動きを止めて、ふっと息を吐く。接した肌は触れた直後はひんやりしていると思ったのに、すでに熱が生じていた。
「可愛いことするね」
目元を隠す前髪越しに、啓斗の口の端が上がっているのが見えた。からかわれているのか、それとも本心からそう思っているのだろうか。
手のひらに筋肉の収縮が伝わって、啓斗が深く屈んできた。
「そのまま触ってて」
耳の縁に唇が触れる距離で囁かれ、ぞくっと背筋が粟立った。別に腕に触るくらい何でもないことのはずなのに、すごくいけないことをしているような気になってくる。
「……やらしい言い方しないで」
苦し紛れに呟いた途端、吐息がが耳に吹きかけられた。こぼれそうになる悲鳴をどうにかしてやり過ごすと、愉悦まじりに啓斗が囁いた。
「今からいっぱいやらしいことするのに言葉くらいどうってことないだろ」
「だからそういうの、や――」
言葉尻をキスに飲み込まれ、うやむやになる。熱っぽい舌で口内を舐められると、そうしたいわけじゃないのにひとりでに体が揺れ動いてしまう。
くぐもった息にまじって漏れる声が自分のものじゃないみたいに蕩けて聞こえた。やらしいことの始まりを告げる濡れたキスに翻弄される。
「んっ、んぅ……」
唇を重ねることに夢中になっているうちに啓斗の手が残った下着に伸びてきた。縁をなぞられて自然と腰を浮かせてしまう。気がついた時には脱がされていて、その手際の良さに目を見張る。
けれど際どい場所に指がかすめ、すぐに考え事をする余裕は消えた。触れるか触れないかのごく弱い力で敏感になった所を往復されて、喉を鳴らす。
荒い息づかいにも煽られて、たまらず広い肩に腕を回した。体温の高い体はエアコンの風で冷えた素肌に心地いい。
「もー、不意打ちやめろよな」
困ったような、それでいて喜びをにじませながら啓斗がぎゅっと抱きしめ返してくれる。温かな腕に包まれる幸せを感じながら、啓斗の肩を自分の方に引き寄せた。
抱きしめ合っていた時間はそんなに長くなかったはずだ。
「なあ、いい?」
主語も動詞も目的語も足りないけれど、その表情を見れば求められていることは明らかだった。余裕がなさそうなのにこうして許可を取ろうとする律儀さが好ましくて頬が緩む。
「うん、いいよ」
そう答えながらもずっと友達だった相手とこんな関係になるなんて、いまだに信じられない。ただ、啓斗の腕の中にいることに慣れつつある。
抱きしめる腕の力強さや高い体温、時々肌に触れる少し硬めの毛先の感触、いつも使っている嗅ぎ慣れたシャンプーの香りが啓斗からするのも初めてのはずなのに、なぜか違和感なく受け入れている自分がいた。
比べるなんて失礼だとわかっているけれど、抱きしめられてこんなに充足した気持ちになるのは初めてだった。
「紗矢」
咎めるように名前を呼ばれて、意識を戻す。視線を受けたことを確認して、啓斗が私の足の片方をそっと持ち上げた。壊れ物を扱うような丁寧な手つき。それから開いた足の間に手を差し込まれて、濡れた場所に指が這う。
「ひ、ぅ……」
上擦った声を笑われるかと思ったけれど、返ってきたのは色めいたため息だけだった。
すでに濡れている場所に潤みを広げる優しい触れ方に私の口からも湿った息が漏れる。
じっくりと解された後、ようやく啓斗と一つになれた。甘やかすような緩い揺さぶりに体の奥がぐずぐずと溶けてしまいそうな心地だ。
室温は設定二十五度のままだから十分に涼しいはずなのに、肌がすっかり汗ばんでいる。啓斗のこめかみからも雫が滴って、私の胸元で細かく砕け散った。感覚だけで、ありありとその様子が頭の中に思い浮かぶ。
「……俺のこと好き?」
送り込まれる律動に今にも理性を攫われそうになっている最中、不意に問いが向けられた。迷うことなく頷くと、啓斗の親指が下唇を這う。
「言って」
「すき」
求められるままに告げた言葉ごと飲み込むようにキスをされる。
「俺も好き。大好き」
唇をくっつけたまま愛を告げられて、くらくらするような幸福を実感した――
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