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 私は、中庭でソルバン様のお兄様であるゼノルス様と出会っていた。
 ゼノルス様は、しばらく私を観察して驚いていた。イルリナとだけ会ったことがある彼にとって、私が別の人物であるということは信じられないのだろう。

「まったく見分けがつかないが、あんたは本当に姉の方なんだな?」
「そうです、姉の方です」
「そうか……妹の方なら、少し文句を言おうかと思っていたんだが、姉の方ならそれを言っても仕方ないか……」
「文句?」

 ゼノルス様の言葉に、私は少し不安になった。
 妹に、文句があるとはどういうことなのだろう。イルリナが、会食の際に何かしたのだろうか。

「ああ、何故、俺に手紙を出さなかったということさ。俺でも良かったのに、ソルバンに出したとはどういうことなのか、聞いてみたかったのさ」
「え?」
「俺だって、同じ手紙を受け取っていれば、同じようにしただろうに……まったく、見る目がないというか、なんというか、俺は悲しいんだよ」

 ゼノルス様は、少し大袈裟にそのように言ってきた。
 こちらの王族とイルリナは全員会っている。その中で、ソルバン様を選んだイルリナの目を、私は素晴らしいものだと思っていた。
 しかし、彼は納得できていないようだ。確かに、選ばれなかったことを、悲しく思う人がいてもおかしくはない。

「ゼノルス兄さんは、根は真面目だけど、そういう風に振る舞っているから、勘違いされたんじゃないかな?」
「そういうことなのかね? でも、表向きも真面目で、裏も真面目だとは限らないだろうよ。まあ、お前はそういう人間だった訳だが……」

 ソルバン様とゼノルス様は、楽しそうに話していた。
 どうやら、二人は仲が良い兄弟であるようだ。
 その光景を見ていると、イルリナのことを思い出す。私達も、この二人のようにもう一度笑い合いたいものである。

「そうだ……兄として、あんたの行動は素晴らしいものだと思っているぜ?」
「え?」
「下の兄弟を思う気持ち、俺もわからない訳ではないからな。あんたの決断を見ていると、俺も頑張ろうという気になった。そのことには、感謝しておこうかね」
「それは……ありがとうございます」
「おいおい、感謝しているのは俺だぜ」

 ゼノルス様は、きっととてもいいお兄様なのだろう。
 だから、私の行動に対して、このように好意的な解釈をしてくれるのだ。
 しかし、あの時の私に、妹を思う気持ちがあったのだろうか。ない訳ではなかったと思うが、あれは自身のための行動という気がしてならない。
 私は、褒められるような人間ではないだろう。自分勝手な人間なのだ。
 だから、もう一度妹に会いたい。その謝罪と、今の私の気持ちを伝えたいからだ。
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