上 下
10 / 38

10.気安く接して

しおりを挟む
「疑ってしまって、申し訳なかったな」
「ああいえ、別に構いません」
「……ああ、もちろん俺は君が誰とどうなろうと構わないと思っている。その点に関しては、君と同じだ。その意思を尊重しよう」
「そうですか……」

 少し落ち込んでいた私は、マグナス様の言葉に生返事を返していた。
 しかしよく考えてみれば、彼もすごいことを言っている。浮気してもいいなんて夫が言ってくるなんて、とんでもないことだろう。
 だが、それが私達の関係性だ。そこはお互いに納得しているのだから、気にするべき点ではない。

 ただ、考えれば考える程少し変な気持ちになってきた。
 やはり仮に一年後に終わるとしても、浮気は良くないのではないだろうか。そんな風に考えてしまう。

「……あれ? そういえば、マグナス様はご自分のことを俺と言っていたでしょうか?」
「む……?」
「確か以前は、私と仰っていたような気がするのですけれど……」

 そこで私は、とあることに気付きそれを指摘した。
 マグナス様の一人称が、変わっているのだ。今まで気付いていなかったが、それは結構大きな変化であるような気がする。

「何か心境の変化でもあったのですか?」
「……そうなのかもしれないな」
「曖昧ですね?」
「いや、自分でも気付いていなかったのだ。言われてみれば、俺は少し素が出ているらしい」
「素ですか?」

 マグナス様は、驚いたような顔をしていた。
 どうやら、意識して一人称を変えた訳ではないらしい。そちらの方が素ということは、私に少し気を許してくれたということなのだろうか。

「君に対して、気安く接してしまっているか……」
「ああ、いえ、それは構いませんよ。別に悪いことではないでしょう?」
「なるほど、それならこのままでいいだろうか」
「ええ、いいですとも」

 別にマグナス様の一人称に不満はない。一年の期限付きではあるが、私達は夫婦だ。気安く接する方が、むしろそれらしいとさえいえるだろう。

「それなら、君も態度を改めてくれないか?」
「私、ですか?」
「ああ、君もそれが素という訳ではないのだろう。別に俺に遠慮する必要はない。そうだな……ラナーシャに接するように、接してくれないだろうか?」
「えっと……」

 マグナス様の提案に、私は言葉を詰まらせることになった。
 色々と聞いてから、私はラナーシャに砕けた態度で接している。ただそれは、彼女に親近感を抱いていて、年下でもあるからだ。

 その態度をマグナス様に向けるというのは難しい。ただきっと彼はそういうことが言いたい訳ではないのだろう。
 それを理解して、私はなんとか心を決める。

「それじゃあ、遠慮なくこんな感じでいいのかしら?」
「ああ、それでいい。我々は対等なのだからな」
「対等……ふふ、それは良い言葉ね」

 私とマグナス様は、そんなことを言いながら笑い合った。
 なんというか、彼とかなり打ち解けられたような気がする。それはきっと、いいことなのだろう。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:685

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

どうやら、我慢する必要はなかったみたいです。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:70,025pt お気に入り:4,167

妹と違って無能な姉だと蔑まれてきましたが、実際は逆でした

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,405pt お気に入り:5,369

脇役転生者は主人公にさっさと旅立って欲しい

BL / 連載中 24h.ポイント:14,211pt お気に入り:271

愛してる、なんて言えない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:460

処理中です...