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 ウェルリフ伯爵の経歴を、私は信じられなかった。
 五件の殺人が、全て正当防衛。それを簡単に信じることは、できそうにない。

「信じられませんか?」
「ええ……」
「まあ、そうでしょうね……一件でも衝撃的なことでしょうから、五件もとなると、にわかには信じられないと思います。でも、僕は現にこうして普通に暮らしている訳ですから」
「それは……そうですね」

 事実として、ウェルリフ伯爵は普通に暮らしている。
 ということは、彼は本当に裁きを受けていないということだ。
 殺人が嘘ということは考えられない。周りから血塗れ伯爵と呼ばれているのだから、彼は明確に殺人を犯しているのだろう。
 それなのに、自由の身。考えられるのは、彼が言っていることが本当だということになるのだろう。
 しかし、どうしても、納得できない。本当にそんなことがあるのだろうかと思ってしまうのだ。

「伯爵家の権力を使って、罪を逃れた。そういう可能性もあると思ってしまいます」
「話を聞いただけなら、そう思うのも無理はありませんね。しかも、事実として、多少は権力を行使しましたから、あなたのその言葉を否定することはできません」
「そう、ですか……」

 ウェルリフ伯爵は、私の言葉を否定しなかった。
 慌てて否定してくれれば、図星だとわかるのだが、そういう風に言われると、私の推測が間違っているように思える。

「まあ、最終的にはあなたの判断ということになるでしょう。僕が人を殺したのか、殺人鬼なのか、正当防衛なのか。あなたの好きなように結論を出してください」
「好きなように……ですか。それは、中々……難しいことですね」

 結論を任せられるのは、正直言ってとても困った。
 こんなのは、判断のしようがないからだ。
 結論を今の彼の言葉だけで出すことはできない。全面的に信用することも、全面的に否定することもできないからである。

「判断できませんか?」
「ええ……」
「それなら、それが今の結論ということでしょうか。そこから先に進むかどうかは、またあなたの判断ということになるでしょう」
「……」

 判断ができない。確かに、それも一つの結論なのかもしれない。
 ここから先に進むには、事件のことを調べる必要がある。私としては、それを調べたいと思っている。今は彼のことが気になって仕方ないのだ。
 彼には、そんな魅力がある。未知の生物を発見した研究者とは、こういう気持ちなのだろうか。彼のことをもっと知りたい。その全てを解き明かしたい。そういう欲求が、私の中に芽生えているのだ。
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