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12 皇太子の秘密

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 レイナルトの伝書魔鳥から、見舞いの紅茶と焼き菓子が届いた。
 ミスティナはテラスにお茶の席を用意してもらう。
 誘ったのは侍女のリンと彼女にそっくりな双子の弟、魔鳥を連れてきたレイナルトの従者ロンだ。

「いい天気ね」

 庭先は花々に彩られて美しく、白雲の浮かぶ大空も遠くまで広がっている。
 古城周辺にはほとんど兵を配備していないため、のどかな一方無防備にも思えた。
 しかし景色を『視』れば、それは杞憂だとわかる。

「ねぇロン、この周辺の空って目に映らないだけで、堅固な要塞にも劣らない魔術防壁が張りめぐらされているわよね?」

「ミスティナ様、お気づきになられましたか!」

 この魔術防壁の他にも、古城周辺には数々の魔術防衛が施されている。
 そのためレイナルトが不在でも鉄壁の守りだと、ロンは胸を張った。
 ミスティナは改めて、天才と名高い魔術師レイナルトの才能を目の当たりにする。

(レイナルト殿下の魔術の力があれば、広大な帝国内でもアランを見つけることができるかもしれないわ)

 ミスティナはレイナルトから贈られた輪切りのオレンジが載ったケーキを頬張る。
 そのしっとりとした生地の甘さと柑橘の爽やかさに目尻を下げた。

「おいしいわね!」

「ええ、とても。でも……!」

 リンは納得いかないらしく、口を尖らせてロンにつっかかった。

「レイナルト様、今日に限って用事があって来れるかわからないなんて! ミスティナ様はレイナルト様と会うためにお着替えして、こんなに素敵になったのに!」

「たしかにお美しい……レイナルト様、がっかりするだろうなぁ」

「がっかりしているのはこっちの方だわ。ミスティナ様がレイナルト様に会いたがっていらっしゃるのよ!」

「そんなこと知ったら、心の底からがっかりするだろうなぁ」

「ミスティナ様のお見舞いより大事な外出なんて、いったいどこにいらっしゃるのかしら!」

 ぷりぷり怒っているリンに、ミスティナは焼き菓子をすすめる。

「リン、私なら大丈夫よ。ロンも気にしなくていいからね。レイナルト殿下がご多忙なことは少し心配だけど」

(もしかして、アランを捜すために無理をしているのかしら)

 ミスティナが表情を曇らせると、ロンは慌てて謝った。

「すみません。リンがミスティナ様を好きすぎて不躾な態度をとって……。って、それもですが、レイナルト殿下は半年ほど前から、転移魔術で毎日どこかへ外出しているんです」

「半年ほど前……」

 リンも先ほど、レイナルトは毎日どこかへ出かけていると言っていたことを思い出す。

(私がアランを捜すのを頼んだのは数日前だから、別の件ということよね)

 レイナルトは外出から早く帰ってくる日もあれば、とても時間がかかることもあるという。
 彼がどこへ行っているのか、古城内の使用人は誰も知らない。

 ミスティナはマフィンをもぐもぐするリンとロンを見て、少し声をひそめる。

「でも今日はうっかり、外出先の地域を明かしているかもしれないわ」

「「えっ!? どうしてそう思うんですか?」」

「それよ」

 ミスティナはリンとロンが同時に手を伸ばしたクッキーに視線を向けた。

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