僕はナイチンゲール

いちみやりょう

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咲夜様は

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僕はとりあえず小屋の周りの土を耕すことにした。
マリーゴールドだけでも育てて、ちゃんと育ったら押し花にしよう。
そして外出禁止が解かれたらその押し花を持って謝りに行こう。

僕はその日から仕事終わりに少しずつ小屋の周りの雑草を取ったり土を耕したりした。
仕事中にゴミを捨てる時、柔らかそうなプラスチックの箱を隠しておいて小屋に持ち帰った時はほんの少し達成感を得た。
その持ち帰った箱に穴を開けて中に土と種を入れた。

「芽を出してくれよ~」

そう話しかけた。
花は話しかけるといいと聞いたことがある。
だからこのマリーゴールド達にはたくさん話しかけて育てることにした。

梨乃様に何をされても、言われても、小屋にあるまだ芽も出ていないマリーゴールド達を思うと元気が出た。

しばらくして、仕事終わりに芽が出てたことに気がついた時は感動して夜中なのにはしゃいでしまった。
それからすぐに準備していた花壇に植え替えた。

「きれいになれよ~。さぁ、お水だ」
「きっと君は綺麗になるね」

なんて一人で芽に話しかけた。

以前より監視が厳しくなり、類くんから食事を分けてもらうこともできなくなって僕の体はもっとガリガリになった。
夜中になって僕の足は不思議と咲夜様のところに向かっていた。

離れだし夜中だし誰にも見つからないかもしれない。咲夜様にひと目会いたい。見るだけでいい。そんな気分になっていた。

でも、離れに入って咲夜様の部屋の近くに来てから後悔した。

咲夜様の部屋から梨乃様の喘ぎ声が聞こえて来た。
パンパンと打ち付ける肉の音も。

そっか。そうだよ。
咲夜様にはもう梨乃様がいる。
僕のことなんてもう興味もないんだろう。
何で気がつかなかったんだ僕は。
だってもう何ヶ月も咲夜様に会ってない。
それなのにあの日、自分から咲夜様を突き放したくせに咲夜様がまだ僕を大切に思ってくれてるなんて……。
思いあがって。馬鹿みたい。

僕はまたフラフラと自分の小屋に戻って頭から布団をかぶった。

心の底からショックなはずなのに不思議と涙は出なかった。

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