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白い結婚宣言されてしまいました 3

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 それからも、王太子の婚約者として、ひどい扱いを受ける度にジェラルド様はそれとなく私のことを慰めてくれた。ジェラルド様は、私よりも二十歳以上も年上だ。だから、それは大人が小さな子どもを可愛がるようなものだったに違いない。

 それでもいつだって、ジェラルド様のそばでだけは、素直に笑うことができた。
 幼い私は単純に、家族よりも、婚約者よりも、ただ私に優しくしてくれる人に夢中になった。
 ジェラルド様の境遇を知りもしないで……。

 ジェラルド様は、いつも優しかった。
 私が成長するにつれて、ジェラルド様が、自分の辛さを表に出さないのだとわかっていく。
 ジェラルド様は、お会いしたとき、怪我をしていることもあれば、疲れ切っていることもある。そしていつだって、私がそのことに気が付かないように細心の注意を払っている。

 私が気が付く前だって、怪我をしていることも、疲れ果てていることもあっただろう。そのことを隠して、いつでも優しく私を慰めてくれていたのだ。

 ジェラルド様を守りたい。その思いは、日に日に強くなって、それが決定的になったのは、王太子殿下に婚約破棄されるほんの少し前のことだ。

「え……。ジェラルド様は、また最前線に行かれたのですか?」

 隣国との関係は、一触即発とも言われ、王国は緊張感を高めていた。
 そんな日々、ジェラルド様はいつも戦場で指揮を執っていた。

 それは、ジェラルド様が強い精霊の加護を持っているからだ。
 初めてお会いしたあの日、王宮の庭園で見た水色の色彩は、ジェラルド様に加護を与える精霊だったらしい。
 大きな馬の形をしているというそれは、現在この王国で人に加護を与える精霊の中で一番強い力を持つ。

 その加護を受けたジェラルド様を国王に、という動きも国王陛下の即位前はあったという。

 十八歳になった私は、いまだにジェラルド様に子ども扱いされている。
 けれど、王太子妃教育のおかげで、国内の情勢や隣国との関係については、王太子の婚約者にふさわしい知識と判断力を身につけていた。

「────ジェラルド様」

 王立学園を卒業が近くなるにつれ、ジェラルド様への許されるはずがない恋心を自覚していった。
 もちろん、ジェラルド様にご迷惑をおかけしたくないから、必死に隠していたけれど。

 一方、王太子であるフェンディル殿下が、王立学園で同じクラスに所属している男爵家令嬢に夢中になっていることは、周知の事実だった。
 すでに、『君のことを愛することはない』と告げられていたから、私たちの関係は義務だけで成り立っていた。
 私が王太子妃になり、いずれ王妃になったときには、ジェラルド様が最前線に送られたりしないようにする。それだけが心の支えだった。

 けれど、婚約破棄は、王立学園の卒業式で、唐突に告げられた。

「――――ステラ・キラリス! 貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」

 卒業式の会場は、あってはならない王太子とその婚約者の醜聞に静まり返った。
 結婚後は、執務だけをこなすお飾りの王太子妃になることを覚悟していた。

 けれど、こんな貴族が集まる場所で婚約破棄されてしまえば、もうそれも叶わないだろう。
 ぐらぐらと床が揺れたような気がして、何も言うことができずに座り込んでしまう。

 その時、卒業式の会場の扉が勢いよく開いた。
 そこにいたのは、いつもの完璧に整えられた姿ではない、野性味あふれるジェラルド様だった。

 昨日までの情報によれば、今日だってまだ前線にいるはずのジェラルド様は、いつも少しの乱れもない髪はボサボサで、髭は整えられることもなく伸びていて、服すら汚れたままだ。
 そんな姿なのに、むしろ男らしくてカッコいいなんて、本当にずるい。

 座り込んだ私とフェンディル殿下の間に割り込んだジェラルド様は、いきなり拳を振り上げた。

「叔父上!? 何をなさるのですか!」

 倒れ込んだまま、頬を押さえて見上げたフェンディル殿下を冷たく見下ろしたジェラルド様。

「……何をだと? 王族の配偶者に選ばれた淑女が、婚約破棄をされた先もわからぬ愚か者が」
「いくら叔父上といえ、王太子である私に不敬が過ぎます!」
「は? いまだ、王太子の地位が自分にあると思っているのか? ……痴れ者が」

 静まり返った会場。私たちに向けられた視線は、好意的なものばかりではない。
 そんな視線など気にもしてないような微笑みを見せて、ジェラルド様は私の前にひざまずいた。

「申し訳ないが、ステラ嬢と年が近い王族には、すでに婚約者がいる……。こんなおじさんが相手など嫌に違いないだろうが、君を救うにはこれしかない」
「えっ、あの……」

 確かに王太子妃教育を受けていた私は、王国の秘密を知りすぎている。
 婚約破棄をされたからには、罪があるないにかかわらず、断頭台、あるいは与えられた毒をあおる以外の道はない。

 私の手の甲に、そっと口づけが落ちてくる。
 髭がチクチク触れるのすら、私の心臓をさらに高鳴らせるばかりだ。

「……私の妻になりなさい。ステラ嬢」

 優しい微笑みとともに告げられたその言葉は、あまりに破壊力が強かった。
 私は、何も考えることができなくなって、ただ首振り人形みたいに首を縦に振るしかできなかった。

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