ちゃんと座れていますから

有名商会で会計を任されるバネッサは、帳簿だけではなく荷運びまで押しつけられる毎日を送っていた。
 断れない。頼まれればやってしまう。
 気づけば、肩にはいつも力が入っていた。

 ある雨の夜。
 壊れた帳簿を拾ってくれたのは、近くの家具工房の親方・マシューだった。

「……力が入りすぎてる」

 ぶっきらぼうで無愛想。
 けれど彼は、椅子ひとつで人の身体が変わることを知っている男だった。

 高さ三十ミリ。
 肘掛けの位置。
 肩の力の抜き方。

 少しずつ、“無理をしない座り方”を教えられていくうちに、バネッサは初めて気づく。

 ――断っても、世界は壊れないのだと。

 これは、壊れるまで頑張ってしまった女性が、静かな工房で少しずつ居場所を見つけていく、大人の恋愛短編。
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