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2.悪意なき妹
しおりを挟む婚約解消を言い渡された私といえば、その後特に変化はなく、いつも通りの日常を送っていた。
勉強や習い事は真剣に、他人には親切に。
崩れることのないそのルーティンは、今日この日をもってしても変わることは無かった。
「お姉さま! 今日、ルイス様が来るの!」
小鳥のようにはしゃぐミーナ。
私の婚約解消が決まっても、ミーナがその事について言及することは無かった。
ただいつもと同じように、無邪気に明るく笑って話しかける。
「そう、良かったわね」
別に争いを生みたい訳では無い私は、静かにその事を受け入れていた。
不思議なことに、私と婚約解消(妹との婚約成立)が決まってから、ルイス様とやらの我が家に訪問する頻度は飛躍的に上がっていた。
これが愛の持つ力なのかと、私は心底感動した。
「ルイス様、最近本を読むんですって」
「あら、そうなの」
最近ってことは今まで読んでいなかったのかと、彼の教養程度に一瞬疑問を抱いたがそこは口にしなかった。
「それでね、もし良ければ、この間お姉さまの作った四葉のクローバーのしおりを貰いたいの」
「あのしおり?」
私は首を捻った。
あれは私が暇な時、たまたま庭で見つけたクローバーを加工して作った素朴な物だ。
「あれをプレゼントしたらきっと喜ぶかなって。手作りって愛情籠ってる感じするし」
手作りのプレゼント、確かにそれは好感度が上がりそうだ。
けれど、妹よ、籠ってる愛情が別人の物だけどいいのかそれで。
「自分で作った方がいいんじゃないかしら?」
私がそう訊ねると、ミーナは唇を尖らせて答えた。
「でも、私不器用だし。お姉さまの作る物ってなんでも上手だし。だからお願い。私に頂戴!」
うーん、この褒め上手め。
「いいわよ」
「やったあ。ありがとう!」
ミーナは大げさに飛び跳ねて喜んだ。
「今度はお姉さま達も一緒にお茶しましょ!」
そう言葉を残して、颯爽と私のしおりを持って去っていった。
「あー、いや……まあ、いいか」
開けっ放しになっていた書棚の扉を閉め、私はゆっくりと椅子に腰かけた。
四葉のクローバーのしおり。
あれはただのしおりじゃない。
私が力を込めて作った特殊なしおり。
私には昔から不思議な力が備わっていた。
祝福を与える力。
私が願った物や事には、祝福が付いてまわるのだ。
ある者は事業に成功し、ある者は子宝に恵まれる。そしてある者は巨万の富を手に入れる。
ただ一つ残念な事に、その祝福は私に向くことはない。
「さてと」
私は机の中にしまっていた一枚の手紙を取り出した。
差出人はグレイ・アシェット。
妹の代わりに私が婚約することになった相手。
手紙を開くとそこには丁寧に『お茶会のお知らせ』との文字が書かれていた。
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