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3.アシェット夫妻
某日。
手紙を頼りに辿り着いた先は、あまり人気の無い街外れの大きなお屋敷だった。
アシェット伯爵家。
名前は聞いたことはあるが実際に会った事はほとんどない。社交界などでも欠席が多く、事業も何をやっているか今一つ分からないとされている、全てが謎に包まれた家。
「……失礼します」
私はごくりと唾を飲み、それからゆっくりとその扉を叩いた。
「私、バーネット家の長女、シリカ・バーネットと申しま……」
「あらあらあら、ようこそいらっしゃいました」
ホールいっぱいに甲高い女性の声が響く。
何人かの使用人が控えるその中央、人の道を割って現れたのは、個性ある赤い丸眼鏡をかけた細身の女性だった。
ミスティ・アシェット。
何度か見たことがあるアシェット伯爵家夫人だった。
「今日はお招きいただきありがとうございま……」
「ええ、ええ、ええ、そんな固い挨拶はいいの。とりあえず、さあさ中に入って」
「えっ、あっあの」
いつの間にこんなに近づいたのだろう。
気が付くと、私の腕は彼女の手によってしっかりと握られていた。
解こうにもその力は思いの外強く、彼女の成すがままに私の体は連れられていく。
「紅茶は好き?」
「え、ええ」
「アールグレイは?」
「好きです」
「そう、良かった」
結局、ろくに挨拶も出来ないまま、私の体は彼女のこの応接室まで案内されることとなった。
===
「どうぞ、おかけになって」
促されるままひとたび部屋に入ると、甘い香りが鼻をついた。
よく見ると、テーブルにはあり得ないほどのお菓子が並べられている。
「あ、あの」
「あら、嫌いな物でもあった?」
ぐいと前のめりになって顔を近づける夫人。
こう言っちゃなんだが少し怖い。
「いえ、そういう訳ではなくて」
圧に押された私は、少しだけ外へと逸らし、結局、笑顔を作り直して言った。
「なんでもないです」
その答えに満足したのか、夫人は再び席へと座り直す。
「さあ好きなものを召し上がって」
さて、ここからどうしたものか。
確かに私はお茶会に呼ばれた身である、けれど。
「……ミスティ、そうじゃないだろ」
蚊の鳴いたような細々とした声。
私は動きをピタリと止め、夫人もまたピタリと動きを止めた。
「そうじゃないって、どういう事あなた」
『あなた』って事は、そうかこの人が。
「彼女は君にではなく、グレイに会いに来たんだろ? なあ、お嬢さん」
「は、はい」
ミスティ夫人の視線の先、私達が入ってきた扉の入り口に白髪の似合う細身の紳士が立っていた。
彼こそがこの家の主、アーバン・アシェット伯爵。
私は身を引き締めて立ちあがると、彼に向かって深――
「私、バーネット家の長女の……」
「ああいいよ、そういうのは」
本日二回目。
ミスティ夫人同様、またしても私の挨拶は強制終了されてしまったのであった。
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