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5.予想外の理由
しおりを挟むストップと言われた時はどうしたものかと思ったけれど、目の前にいる男性は、あまりそんな事を言いそうにない、綺麗な顔をした青年だった。まるでお伽話に出て来る王子様みたい。にこりと微笑んで花束でも差し出してきそうだ。
「あ、あの」
戸惑いながらも私は彼と目が合った。
青い色の瞳がじっとこちらを捉えている。
「うん」
そう言って彼はにこりと微笑んだ。
よし、今度こそ自己紹介するチャンス。
「私は」
「何度も言うようだけど」
私の言葉に重ねるように彼の優しげな声色の言葉が重なり合う。
「自己紹介は大丈夫。不要、不必要」
「え、でも」
「安心してくれ。君が妹の代わりにここに来たのは知っている。君はあれだろ、バーネット家の長女、シリカ・バーネット」
「そ、そうです」
こくこくと首を振る私に、彼は極めて冷静な視線を向けた。
「シリカ、君に最初に言っておこう。僕は別に君だろうが妹だろうが、どっちだって問題ないと思っている」
「どっちでも問題がない?」
「そう」
それはどういう意味だろう。
外見的にどちらも嫌いな容姿ではないから問題ないってことだろうか。いや、そんな訳ないか。
私が小さな考えを張り巡らせている中、別段なんて事ない会話をするように、グレイは言葉を淡々と続けた。
「だってこの結婚は世間体のために行うものであって、別段恋愛感情を必要とするものではないと思っているからね。そうだ、なんなら大事にならない範囲で、僕以外の男性と親密な関係を築いて貰ってもいい」
「な」
なんてこと言うんだ、この人は。
出会ってものの数秒で、こんなにあっさりと妻をお飾り宣言。いや、うん、妹と差し替えで婚約者になった手前、文句を言っていい立場じゃないってのは分かるんだけど。
「そんな訳で、僕としてはこれ以上、君の情報はいらないんだ」
「……」
「ああごめん、いきなりこんな事言われて驚いたかな?」
驚きましたよ、かなり。
さっきまで、王子様だとか思っていたのが嘘のよう。
その表情は相変わらず優しい笑みを浮かべているけれど、さっきの言葉を聞いた後だと、ただの腹黒い笑みにしか見えない。
「ま、これからよろしくね。えっとソリカ? シリカ? セリカさん?」
つい数分前まで、私の名前を言っていたのに、さすがにそれはワザとだろう。そう思ったけど言い返すことは出来なかった。
ポンと肩に手を乗せる彼の右手を振り払う事も出来ず、ただ呆然と彼の綺麗な横顔を見つめていた。
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