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7.譲らない想い
「やる事が無い……」
アシェット家の人達との歓談が終わって、夕飯までにはまだ時間がある。私は気分転換に庭を歩いてみることにした。
庭はほどよく広く、シンプルながらも綺麗に整えられていた。
私はなんてことなしに、薔薇のアーチを抜け奥へと進んでいく。進んで行ったその先に、白い柵で囲まれた、こじんまりとした謎のスペースを見つけた。
「これは……畑?」
ぼそぼそと覆われた地面には、ちょぼちょぼと草が生えていた。手入れされたこの家の庭と比較すると、あまりにも似つかわしくない。
私はそっと屈むと、生えていた雑草と思しき草を摘んだ。
「勿体無いなあ」
「何しているんだ?」
「!!」
急に声をかけられた。
本日二回目。
このパターンはつい先ほども経験したから分かっている。
「グレイ……さん」
私は恐る恐る振り返った。
するとそこにはやはり顔立ちのいい男が立っていた。自分の部屋に戻ったはずなのに。
「どうしてここに」
「僕が先に何をしているのかって聞いてるんだけど」
「さ、散歩です」
「ふーん」
自分で訊ねたくせに面白くなさそうな反応である。失礼だな。
気を取り直して、私は先ほどの疑問をもう一度投げかけてみることにした。
「あの、ここは?」
「見れば分かるだろ。畑だよ」
「畑」
やっぱり畑だったらしい。
彼の姿を見上げると、彼は面白くなさそうに口を尖らせた。
「研究でね、薬にする材料を育てようと種を蒔いたんだけど、なんでかな、全然育たない。いい土を買って、いい肥料も用意したんだけどね」
「て、手入れは?」
「手入れ? ああ、特に何もしてないよ。いい素材は用意したんだ。あとは苗が自由に伸び伸び育てばいいだろう?」
「……」
なんて放任主義。これは間違いなく、私を婚約者にしたときの態度と全く同じである。人間はまだしも、植物にそれは駄目だろう。
グレイは私の隣にちょこんと座るとヨレヨレになった草の葉を指でつついた。
「なんでこんなに貧弱にしか育たないんだろうなぁ」
「……」
ちなみに今、彼がつついているのは植えた苗ではなく、たぶん雑草だ。これはまずい。このままでは天下のアシェット家ご子息が、雑草の区別もつかない残念な男になってしまう。
「……やります」
「は?」
「あの、私でよければこの畑のお手入れやります」
「いや別に君の手を借りなくても、たぶんそのうち」
「いいえ、これはもう、そのうちだなんて言ってる状況じゃありません! どう見ても、死に際です!」
「死に際って」
「私のことは好きにしていいって言いましたよね? じゃあ畑のお手入れ、やらせてくれませんか?」
じゃないと、このままじゃアシェット家の素敵な庭に、死地をぶちまけたかのような地獄の空間が広がってしまう。そんなのアシェット夫妻が可哀想だ。
「グレイさん」
彼をじっと見つめると、少しの間だけ微妙な表情を浮かべた彼は、観念したように頷いた。
「……分かったよ、好きにすればいい」
「ありがとうございます」
こうして、私には明日からやる仕事が一つ増えた。
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