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6.地方都市にて③

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 昨夜、ルルと夕飯を食べたあとすぐに自室に戻り、色々あった一日を振り返ってすぐに寝た。

 正直まだ魔物に襲われてもいない、自分のクラスとやらも良く分からない。
 頭では徐々に理解が追いついてきたが、実感が湧かない。
 それにもう一つ。

「ルルの言う『我々』っていうのは、多分冒険者の組織とは別だよなぁ」

 ルルが命を受けたという人物。
 仮にその人物が冒険者ならば、今日俺が冒険者登録さえすれば、同業者だ。
 すぐにでも会えるんじゃないか?
 ただ、彼女の口ぶりからはすぐに会わせるような感じもしないし、そもそも会わせることが目的ではなさそうだ。

「俺がこの世界で生きてさえいれば目的が達成されるって……、なんだ?」

 それとも魔法の師匠で、今は遠くの国に居るとかなんだろうか。
 考えても分からない。
 なら、どうしようもない。

 裏があるにしても、全くの無知の状態で何から何まで世話になった人物だ。
 その事実は変わらない。

「若返って体力は戻ったにしても、こっちの世界の社会人経験ゼロだからなぁ」

 とにもかくにも、生きるためには衣食住の確保。
 すなわち、お金が必要だ。
 冒険者、なるしかないよな。

 気合を入れなおしていると、木製のドアがノックされた。 

「ーーハヤト様? ご準備はできまして?」

「ああ、今行くよ」

 この部屋はとりあえず昨日の晩だけの確保だった。
 今日は、冒険者として初依頼をこなし、その報酬を元に自分で手配するつもりだ。

 この世界に着いた時、俺は元の世界と同じ白いシャツに黒いズボンという出で立ちだった。
 服装もこの世界の物に買い替えたいところだ。
 というか冒険者って何が必要なんだ……。
 ルルに聞くしかないな。

 特にまとめる物もない俺は、身なりを簡単に整えて部屋を出た。
 ドアを開けると、麗しのお姉さんが立っている。
 朝から、眩しいっす。

「おはようございます、ハヤト様。よく眠れましたか?」

「ああ、ルルが部屋を手配してくれたおかげだ。ありがとう」

「お役に立てて何よりですわ。下で朝食を食べてからギルドへ行きましょうか」

「あ、朝ご飯も宿泊代に込みなのか。それは嬉しいね」

「ふふ。お気に入りの宿ですの」

 他愛もない話をしながら階段を降りる。
 一階のフロントの両脇には廊下が延びており、片側は客室。
 もう片側には食堂兼酒場が入っていた。

 夜の配置とはまた違うのだろう。
 綺麗に並べられた椅子とテーブルに陣取り、宿のスタッフに声を掛け軽い朝食をもらった。
 パンとスープのようだが、ちょっと薄味だけど美味しい。

「一夜明けて、また聞きたいことも増えたのではないですか?」

「いや、昨日は状況整理で頭がいっぱいだったよ。まぁルルの説明が丁寧だし、一番の心配事は勇者かな」

 これは正直な気持ちだ。

「それなら今日中にケリがつくので大丈夫ですわ」

「え゛」

 さらっと恐ろしいことを口にするルル。
 ケリがつくって、何だ?

「楽しみですわねぇ」

「いや全然……」


 ◆


「おーー」

「立派なものでしょう?」

 一抹の不安を胸に宿を後にした俺は、街へと繰り出し冒険者ギルドを目指していた。
 道中、元の世界では目にしないような光景に胸を躍らせながら、ルルのあとを着いて行った。
 目的地に着くと、いかにも街の重要な施設だと分かる大きさで、四階建て程だろうか?
 どちらかと言うと平面に広く、また人の出入りも多い。

「いよいよだぁ」

 冒険者としての、第一歩。
 元の世界の感覚でいえば、この一歩を踏み出すには途方もない勇気が要るはず。
 しかし、割とのんびり構えていられるのも、俺が一度命を落とした存在だからだろう。
 それよりも今日の寝床に今日のご飯。
 生活の方が心配だ。

「中へ入りますわね」

「あ、ああ。今行く」

 入り口へと差し掛かれば、武具を装備した冒険者らしき人たちと必然的にすれ違う。
 道行く人は皆、ルルと俺(というか、髪?)を交互に見比べながら驚きに満ちているようだ。
 まぁ、未成年ぽい謎の男と有名な美女が歩いてるのもなぁ。

 あれ? でもクラスが判明してるなら、俺は今十八歳なのか。
 そんでこの世界では成人だから、何の問題もないな。
 うん。……多分。

「あら、ライラット。朝から熱心ね」

 一人で納得していると、前を行くルルが誰かと話し出した。
 若葉色をした髪が印象的な、二十代後半だろうか。物腰のやわらかそうな人物。

「ルル。貴女、無茶したでしょう」

「何のこと? わたくしちゃんとお連れしましたわ」

「はぁ。まぁいいけど」

「?」

 知り合いみたいだが、親しいような、でもどこか距離も置いているような。
 不思議な感じだ。

「初めまして。冒険者ギルド・ランダレスト支部のギルドマスター、ライラットと申します」

「あ、ご丁寧にどうも。ハヤトです」

 とても落ち着いた、さすがはギルドマスターといった感じだ。
 ルルとはまた違った意味で頼れる人物だろう。
 しかし冒険者登録初日に、こんな大物がでてくるなんて。

「貴方が……。すでにたおやかな魔力なのですね、安心いたしました」

「え? ありがとうございます?」

 褒められたのか何なのか、良く分からない反応をされて疑問形になってしまった。

「じゃぁ、ライラット。そういうことだから。蒼炎の森には、わたくしが保護をした。いいわね?」

「ええ、分かってますよ。そのように処理しておきます」

「???」

 分からない。俺の知らない所で話が動いていて、置いてけぼりだ。

「いかにルルと言えど、登録するのはハヤトさんですからね。きちんと並んでくださいね」

「分かってるわよ! もう」

 というかあのルルが子ども扱いされている気がする……。ギルドマスターともなると、大物をなだめる手腕も問われるのか……!?

「ハヤトさん、冒険者にご登録いただくにあたって通常はギルドの職員がご案内しますが、今回は修行も兼ねてルルが一通り案内してくれます。その他分からないことがあれば、いつでもお問い合わせください」

「分からないことだらけだと思うので、今後ともよろしくお願いします」

 一度で覚えきる自信はないので、正直に伝えておこう。

「ふふ、礼儀正しいんですね。では、……ルル。頼みましたよ」

「はいはい、早く行ってちょうだいな」

 何だかんだ言いつつライラットさんもルルを頼りにしてるんだろう。
 頼られる側のルルも満更ではないようだ。

「と、いう訳でハヤト様。本日はわたくしが監督官として案内から依頼の同行まで努めますので、よろしくお願いしますわ」

「お、おう。こちらこそよろしく」

 改めて言われるとちょっと緊張してきたな。
 監督ってことは、依頼がきちんと達成できるか見守る役なんだろうな。

「ではハヤト様。まずは登録の申請が必要ですので、あちらに並びましょう」

 ルルを尊敬のまなざしで見守る冒険者たちを尻目に、冒険者登録の受付らしい列に待機した。
 朝一で来たこともあり、前に並んでいるのは三人だけだ。
 皆十八歳前後なのか?

「待っている間にここから見える範囲を簡単にご説明しておきますわね」

「そうだな、暇だし」

「では、真正面に見えますのはギルドの受付カウンター。登録、依頼の受注、達成報告からパーティー斡旋まで。冒険者の様々な要望にお応えする場所ですわ」

「なるほど、あっちは依頼の受注の列か」

 俺たちが並んでいる場所から少し右に離れた……、カウンターでいうと中央の受付に朝一で依頼を受注に来た冒険者が列を成していた。ならその奥は達成報告や相談用の窓口か。
 ギルドの職員も受注用のカウンターには三人居て、さすがの速さで捌いている。
 混み具合で人員配置も調節するんだろうな。
 
 そんなところに意識がいくなんて、社畜のくせが抜けないな俺。

「続きまして左手奥に見えますのは、冒険者専用の食堂です。その手前は自由に使用できる待機所。……ちなみに目の前のカウンターすぐ左隣の扉は、図書館への入り口ですわ。待機所で読んでも構いませんが、貸出はできません」

「ほうほう」

 なら、調べ物がある時もここを利用すればいいんだな。
 持ち出せないならメモも必須か。

「最後に右手奥の壁。冒険者ランク毎に分けられた依頼書が貼ってあります。ちなみに冒険者ランクは個人につきまして、パーティーを組んだ場合はその平均値をパーティーランクとして依頼を受けれますわ」

「なるほどな」

 ってことはソロってよほど強いかベテランじゃないと受けれる依頼が限られるな。

「ランクはEから順に始まりA、そこからSと上がっていきます。ランクアップについてはまた改めて」

「ルルはいくつなんだ?」

 周りの冒険者の様子を見るに、なんだか聞かなくても分かりそうなものだが。

「内緒……と言いたいところですが、ギルド職員でない者が監督を務めるのであればB~Sでないといけませんので」

 つまりSなんだろうな。
 監督できるだけでここまで羨望の眼差しは受けないだろう。

「Eが初心者、Dが駆け出し。CBが中級者でAが上級。Sが特級と言ったところでしょうか」

「クラスみたいだな。でもクラスと違って誰でもS級に上がれるんだろう?」

「実力だけで考えると、ソロでしたら特級以外は不可能でしょうね。ですので、基本的にランクが上がるに連れてパーティーを固定化する人が多いですわよ」

「あ、そっか。パーティか」

 ふむふむ。何となく仕組みは分かってきたぞ。

「ちなみにランク分けする理由はもちろん受注できる依頼の難易度にも影響しますが、アルバ・ダスクでの部隊編成の目安にもなりますの」

「なるほどね、実力を均等にできると」

「冒険者登録時にクラスを把握することで、役割も分担できますし」

 単に実力に伴わない依頼を受けれなくするだけじゃないんだな。
 ん? クラス……。

「俺のクラス、何か未知のクラスって言われたけど大丈夫だろうか?」

「大丈夫ですわ。自分の知らないクラスというものは、多少なりとも存在しますもの。特殊クラスにその傾向が強いですわね」

「なら良かった」

「あら、次ですわね」

 ルルから施設と冒険者の説明を受けていると、ようやく俺の番になった。

「次の方ーーって、ルル様じゃないですか!」

「セレナ、お疲れ様」

 ハキハキとした気持ちの良い話し方をする、ギルドの女性職員。セレナさんというのだろう。
 さすが日々多くの冒険者が利用する受付の担当、ルルに挨拶しながらも俺用の登録用紙を用意したりと口調もさることながら手際も見事だ。

 というかギルド職員からも『様』を付けられるルルは本当に何者なんだ。

「ってことはルル様が監督されるんですね? じゃぁ、こちらの内容を確認いただいて、署名をお願いします」

「えーーっと署名、署名」

 ……ってちょっと待て。
 俺、ここの世界の文字分かるのか!?

「……何で分かるんだ」

「?」

「ふふふ」

 読むのも書くのも、明らかに日本語では無さそうだが、自動変換されるのだろうか。
 全く問題ないようだ。
 これはさすがに転生特典だろう。

「どれどれ?」

 内容を読むと、先程ルルから説明を受けた冒険者ランクや、パーティーについて。死亡した際の財産の受け取り人の指定や、依頼の受注は自己責任など、危険が伴うことへの念書のようなものまで様々だ。

「ご納得いただけましたら、一番下に署名をお願いしますね」

 何かここまできたら苗字がどうの言ってる場合じゃないし、フルネームでいいか。

「ハヤト・カザマ……と」

 あれ、名前が先で良かったよな?

「ハヤトさん、ですね。ご登録ありがとうございます!」

「あ、はい。ありがとうございます」

 特に感動の瞬間! は無かったが、無事登録できて何よりだ。

「この後ルル様よりギルドカードの登録と、実際にEランクの依頼をチェックしてみてくださいね! あ、スタートは皆さんEランクからですのであしからず!」

 髪を見ながら言われると変に期待させているのかもしれないが、飛び級には良い思い入れがないので逆にありがたいんだ。

「ルル様どうぞ」

「ええ、ありがとう」

 セレナさんがルルにカードのようなものを差し出した。
 これがギルドカードか……!

「ハヤトさん、私のことはセレナと呼んでいただいて構いません、これから頑張ってくださいね!」

「どうも」

「ハヤト様、先に依頼を見ましょう?」

 セレナさん、もといセレナの元を離れた俺たちは依頼書の貼ってあるボードの前に来ていた。

「セレナは何かギルドカードがって言ってたけど?」

「少しとはいえ、ハヤト様がここで魔力を出されるのは危険ですわ」

「あぁ、そういう……」

 また魔族に間違われたりでもしたら悲惨だ。
 ここは大人しく従っておこう。

「にしても色々あるな」

 今回は俺に合わせてEランクのボードを見ている。
 さすが初心者というだけあって、内容は俺もゲームで良くやっていた討伐系の依頼はほぼ無く、薬草の採取や野生動物や弱い魔物の素材納品、中にはお使いまで様々だ。

わたくしもハヤト様のクラススキルを見てみたいですので、出来れば街の外に行くものがいいですわねぇ」

 心なしか楽しそうなルル。
 こちらは初依頼でドッキドキなんですが。

「じゃぁ弱い魔物の素材納品にするか? 正直不安だけど」

「まぁ、そんなことありませんわ。そちらにいたしましょう!」

 なぜかルルの方が張り切ってるのは気のせいだと思いたい。

「ていうか魔力の印象強すぎてすっかり忘れてたけど、俺武器ないんだよな」

 恐らく弓を使うんだろうけど、そもそもこの世界に似たようなのあるかな。

「それについては恐らく問題ないですわ。念の為素材を剥ぐナイフを用意しておきましょう」

「何でルルの方が俺のこと詳しいんだ……。まぁ任せるよ」

 ええい、もうなるようになれ、だ!

「ではあちらの列で受付をしましょう、本来は依頼書と共にギルドカードを提示するのですが、ライラットに外ですると伝えてありますので、わたくしが説明しますわ」

「何から何まで……、助かるよ」

 俺はいくつかある素材対象の中から、ベリーエンテが入っているのを見逃さず、依頼書を握りしめて依頼受託の列へと並んだ。

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