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17. 弦の音が告げるのは

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『おーーい、ハヤト! 修行がてら討伐系の依頼受けようぜ!』

 朝、目が覚めて野球に誘われるがごとく開口一番にグレイに言われたものの、まぁベリーエンテくらいの依頼なら楽勝……というか。
 クラスレベルもどうやらS級基準らしいし?

 他人事みたいだけど、いけるだろうと。

 そう、簡単に思っていた俺がバカでしたーー。





「グレイさんグレイさん!! これ、修行の域!?」

「ったりめぇだろ! お前なら楽勝だろうが!」

 いや、何か、蜂? みたいな魔物で、一匹一匹はぜんぜん大したことないよ!?
 それは分かるんだけどさ!

「おおすぎいいいい!」

 ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。もとい。
 撃ち落としては魔矢をつがえ、撃ち落としては魔矢をつがえ。

 弱いとは言え、一匹一匹の大きさはサッカーボール一個分くらいある。
 それが視界いっぱいに飛んでいる。
 もう、数えることも放棄した。
 それをするくらいなら手を動かす方が賢明だ、と。
 ……息つく間もないとはこのことだ。

「おらおらぁ!」

 一方グレイはそんなのおかまいなしといった様子で、絶好調。
 そういやこの人、戦闘狂だったわ。

『マジック・ブレイク!』

「おわっ!」

 魔力を剣にまとわせ、魔力を断つ。
 大きい蜂が魔法を使ったのだろうか。グレイの得意技とも言える、クラススキルが発動されたらしい。

 ーーその時、度々聞こえていた謎の「がしゃんっ」とした音が、また聞こえた。

「あ、もしかして。他人のスキル発動の時に、鳴ってる……のか?」

 それにしたって独創的な音色だ。
 なんだか、聞いていて心地よい……訳もなく。

 がしゃん、って。
 何だよ。がしゃん、って。

 でもなーーんか聞き覚えあるし、何なら良い思い入れないんだよなぁ……。
 ん?

「あーーーー!?」

 良い思い入れがある訳ない。
 なぜならそれは、弓道部時代。矢を放つ【離れ】の動作の際。
 洗練された、まるで楽器の絃を弾いた時のような。本来、そんな耳触りのいい音がなるはずの弦音つるね

 しかし、『早気はやけ』に苦しんでいた俺の【離れ】の動作は、自身の予期せぬタイミングで矢を放つため、「がしゃんっ」ともつれた音がしていた。

 当時は部員の綺麗なフォームや弦音を、うらやましいと思っていたっけね……。


【EXスキル:会・無明むみょう


「へ?」

 今、クラススキル覚えるポイント……あった?
 いったいどんな効果なんだ? というか、イーエックス?
 
 蜂たちは何でか知らないけどグレイに夢中なので、こっちに来ない。
 今の隙に確認しよう。

「えーーっと、ステータス」

 どれどれ?


【EXスキル:会・無明むみょう
【光のないところには、闇もまた存在できない】


 なるほど、ーーさっぱり分からん。
 というかこんな抽象的な説明、他のスキルにはなかったよな?

「あれか、こんだけ前世の早気で恩恵得てるから、たまにはデバフ的な?」

 覚えたタイミングとの関連性は不明だが、まぁ確かに転生してから順調すぎる。
 自分の力を過信しないようにせねば。

「っしゃあ!」

 そんなことを考えていると、戦闘狂……もとい、グレイが勝利の雄叫びをあげていた。

「お、お疲れ様……」

「おう、楽勝だな!」

 元気だなぁ、おい。

 あれだけの数の蜂さんを相手に、全然息があがっていない。
 さすが、と言ったところだろう。
 ……そういえば。

「あれか? 前に言ってた、敵は任せろ~みたいなのは、スキル?」

「良く分かったな? 魔物にだけ有効な『挑発』ってスキルだぜ」

「へぇ。どうりでそっちにばかり敵が向かってたんだな」

 ゲームでいう壁役……敵の攻撃を一手に引き受ける役割の人が良く持ってるイメージのスキルだな。
 といっても、グレイの場合は自身でその敵を撃破できるほどの力がある訳だけど。

 やっぱ特級クラスって、強さもスキル自体も別格だよな。

「さーーて、帰るか」

 今回の依頼は、蜂さんーーワイルドビーが異常に繁殖しているので、間引きして欲しいという依頼だった。
 もちろん人の生活圏外ではわざわざそんなことはしないだろうが、ここは街と街を結ぶ街道のすぐそば。

 冒険者はおろか、クラス持ちではない旅人にも危険が及ぶためだ。

「ほとんどグレイがやっちゃったけどね」

「何言ってんだ、お前の手数のがすごかっただろ」

「まぁ、練習にはなった……かな?」

 自分のユニークスキル【早気はやけ】を生かして、戦闘中魔矢の補充には事欠かない。
 身に危険が迫れば、【足踏あしぶみ・疾風はやて】ですぐ離脱でき、グレイの後ろへと控え体勢を整える。

 結構、理想の魔弓師ってやつが出来ているかもしれない。

「何にせよ、グレイのおかげだよな」

「お、謙虚だねぇ」

 グレイは照れ隠しのように俺の頭をわしゃわしゃとなでる。
 やっぱ子ども扱いされてる……よなぁ。

「順調にやれてるし、近々昇格もできるだろ。……それより自分の手に余りそうなその力、モノにする方が先決だな」

「たしかに。まだまだ発展途上って感じだしな」

 スキルの効果はステータスでの確認と、実戦での体感で何となくは理解できる。
 だが、それを差し引いても俺の魔力は相当にスゴイ……らしい。
 いくら転生特典だからといって、良いことばかりであるはずがない。

 一つ一つ、確実にしていかないとな。
 ……さっきのデバフっぽいスキルも良く分からないし。

 改めて自分の力を過信しないことを誓いつつ、ギルドへ戻った。

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