8 / 11
暗躍
しおりを挟む
「わたくしに説明できることであればなんなりとご質問ください」
リスベルテスは短く首肯すると、さっそく彼の方から話題を口にする。
「君の話によると私は魅了の呪いによって正妃に心を抱くように仕向けられていた、ということで間違いないか?」
「はい、状況から考えるに、そう捉えてもらって構いません。あくまで魅了対象は術者にのみ適応され、代わりの第三者に好意を向けさせることはできませんから」
「いや、しかしそうなると……」
リスベルテスは過不足なく伝えたつもりだが、どうにもルドリエの反応が薄い。
彼女からの説明になにやら納得がいっていない様子だ。
「どこか気になる点でも?」
「ああ、君の話を訝しんでいるわけではないが、魅了は闇属性の魔法なのだろう? だがセーラは光属性の魔法使いなんだ、だから君の説明と矛盾が生じると思ってな」
今度はリスベルテスが狐につままれたような顔をする番だった。
通常、生まれ持った髪色と異なる属性の魔法を扱うことはできないとされている。
これは他属性同士の結婚によって生まれた子供も例外ではない。
ゆえに複合属性も存在せず、必ず魔力が強い親の方の属性が発露するようになっている。
にも関わらずルドリエが光属性と断言するからには、正妃セーラは白金色の髪を有しているのであろう。光属性ならば当然、反対側に属する闇の魔法は使えない。
光と闇。なるほど、確かにこれではルドリエの言うように矛盾しているではないか。
(正妃の座に収まりつつも子作りを拒絶していることといい、やはり正妃殿下にはなんらかの裏があるようですね)
とりあえず今判明しているのは、彼女の魔力はルドリエのそれを上回っているということだけ。
一見万能そうに思える魔法も、魔力に彼我の差があれば強引に抵抗して魔法効果を打ち消すこともできる。
しかしルドリエが魅了にかけられたということはつまり、彼の魔力が正妃より劣っていた証左に他ならない。
「殿下、この件についてはわたくしに調査を一任させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……君に? 別に構わない、と言いたいところだが、これ以上君の手をわずらわさせるわけにはいかない。セーラの調査が必要とあれば城の者にさせよう」
「いいえ殿下、その、大変申し上げにくいのですが、もしわたくしの推測通りなら向こうは相当な手練と思われます。正妃殿下がなんらかの方法で闇属性の魔法を扱えるのだとしたら、同じく闇の使い手であるわたくしでしたら対処は容易です」
ルドリエの前で正妃のことを言及するのは気が引けたが、万が一ということもある。
だが幸い自分の発言でルドリエが気を悪くした様子は見受けられなかったので、リスベルテスもひとまずはホッとしながら次の言葉を待つ。
「――分かった、君がそこまで言ってくれるのであれば今回の件について一任をさせてもらおう」
「ありがとう存じます、殿下」
ややあって口を開いたルドリエから調査の許可をもらうことができた。
これで堂々と正妃の身辺調査を行える。
「では殿下、夜もふけて参りましたのでわたくしもそろそろお暇したいと存じます。夜遅くに押しかけてしまい、申しわけございませんでした」
「いやなに、気にしないでくれ。色々あったからもうこんな時間になってしまったが、こちらこそ長々と引き止めてしまってすまなかったな」
色々あったの部分にリスベルテスは思わず顔を赤らめたが、ルドリエに気づかれていないことを祈るしかない。
結局「おやすみなさいませ殿下」と逃げるようにルドリエの寝室を後にしてしまった。
「……ふう、本当ならばこのあと一緒のお部屋で朝を迎えることが習わしなのでしょうが、側妃の立場でそこまで願うのは流石に贅沢というもの」
さて、過程はともかく結果的には初夜も終えて見事夜伽の成功を収めたことになる。
とりあえず当初の目標は達成だ、続けて新たにできた目標を達成するべくさっそくリスベルテスは思慮を巡らせ始めた。
リスベルテスは短く首肯すると、さっそく彼の方から話題を口にする。
「君の話によると私は魅了の呪いによって正妃に心を抱くように仕向けられていた、ということで間違いないか?」
「はい、状況から考えるに、そう捉えてもらって構いません。あくまで魅了対象は術者にのみ適応され、代わりの第三者に好意を向けさせることはできませんから」
「いや、しかしそうなると……」
リスベルテスは過不足なく伝えたつもりだが、どうにもルドリエの反応が薄い。
彼女からの説明になにやら納得がいっていない様子だ。
「どこか気になる点でも?」
「ああ、君の話を訝しんでいるわけではないが、魅了は闇属性の魔法なのだろう? だがセーラは光属性の魔法使いなんだ、だから君の説明と矛盾が生じると思ってな」
今度はリスベルテスが狐につままれたような顔をする番だった。
通常、生まれ持った髪色と異なる属性の魔法を扱うことはできないとされている。
これは他属性同士の結婚によって生まれた子供も例外ではない。
ゆえに複合属性も存在せず、必ず魔力が強い親の方の属性が発露するようになっている。
にも関わらずルドリエが光属性と断言するからには、正妃セーラは白金色の髪を有しているのであろう。光属性ならば当然、反対側に属する闇の魔法は使えない。
光と闇。なるほど、確かにこれではルドリエの言うように矛盾しているではないか。
(正妃の座に収まりつつも子作りを拒絶していることといい、やはり正妃殿下にはなんらかの裏があるようですね)
とりあえず今判明しているのは、彼女の魔力はルドリエのそれを上回っているということだけ。
一見万能そうに思える魔法も、魔力に彼我の差があれば強引に抵抗して魔法効果を打ち消すこともできる。
しかしルドリエが魅了にかけられたということはつまり、彼の魔力が正妃より劣っていた証左に他ならない。
「殿下、この件についてはわたくしに調査を一任させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……君に? 別に構わない、と言いたいところだが、これ以上君の手をわずらわさせるわけにはいかない。セーラの調査が必要とあれば城の者にさせよう」
「いいえ殿下、その、大変申し上げにくいのですが、もしわたくしの推測通りなら向こうは相当な手練と思われます。正妃殿下がなんらかの方法で闇属性の魔法を扱えるのだとしたら、同じく闇の使い手であるわたくしでしたら対処は容易です」
ルドリエの前で正妃のことを言及するのは気が引けたが、万が一ということもある。
だが幸い自分の発言でルドリエが気を悪くした様子は見受けられなかったので、リスベルテスもひとまずはホッとしながら次の言葉を待つ。
「――分かった、君がそこまで言ってくれるのであれば今回の件について一任をさせてもらおう」
「ありがとう存じます、殿下」
ややあって口を開いたルドリエから調査の許可をもらうことができた。
これで堂々と正妃の身辺調査を行える。
「では殿下、夜もふけて参りましたのでわたくしもそろそろお暇したいと存じます。夜遅くに押しかけてしまい、申しわけございませんでした」
「いやなに、気にしないでくれ。色々あったからもうこんな時間になってしまったが、こちらこそ長々と引き止めてしまってすまなかったな」
色々あったの部分にリスベルテスは思わず顔を赤らめたが、ルドリエに気づかれていないことを祈るしかない。
結局「おやすみなさいませ殿下」と逃げるようにルドリエの寝室を後にしてしまった。
「……ふう、本当ならばこのあと一緒のお部屋で朝を迎えることが習わしなのでしょうが、側妃の立場でそこまで願うのは流石に贅沢というもの」
さて、過程はともかく結果的には初夜も終えて見事夜伽の成功を収めたことになる。
とりあえず当初の目標は達成だ、続けて新たにできた目標を達成するべくさっそくリスベルテスは思慮を巡らせ始めた。
応援ありがとうございます!
348
お気に入りに追加
1,100
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる