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正妃

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「せ、セイラか、まったく驚かせないでくれ。私ならいつもの日課をこなしに行くところだ」

 内心の動揺がどうかバレないようにと祈りつつルドリエは答えた。

「ふうん……?」

 すると正妃――セイラはズイッと一歩前に踏み出し、金色の髪を半ばながらこちらの顔を覗き込んでくる。
 そのおりのように黒く濁った瞳はまるでなにかを見透かそうとするかのようにすがめられた。

「どうした、この顔になにかついているのか? 君のように美しい女性にそうも見つめられたら私とて照れてしまうよ」

 今度は上手く取り繕えた気がする。というよりここでバレたらすべてが水の泡だ。

「それともなにか、私が魔法の鍛錬に向かう前に応援にでも駆けつけてくれたのか? だとしたら愛する女性が見送りにきてくれて嬉しい気持ちでいっぱいなのだけれどね」

 しばらくこちらの様子を伺っていたセイラだが不意に興味を無くしたように顔をそらし、

「べっつにぃ。今度の側妃の属性が闇って聞いたからわざわざ顔を見に来てあげたけど、やっぱりあたしの杞憂だったみたい。まああので有名なシュヴァルツ家の人間って聞いてたから正直そこまで心配してなかったけどぉ、ほら相手が雑魚でも確認は自分の目でしておかないとね。うーんあたしってば偉い!」
「……言ってることの意味は分からないが、流石は私の妻である素晴らしき女性だ」

 いや、どう考えてもリスベルテスは落ちこぼれではないし、仮にそんな女性に負けた自分は雑魚以下の存在なのだが、ここは黙っておく。

「その深慮、敬服に値する。君にふさわしい男となるべく私も更なる自己研鑽に励もうと思う」
「でしょ、でしょー! ふふん、もっとあたしに惚れていいのよルドリエ。そして早くこのなってよね? そうしたらアンタ待望の小作りエッチしてあげるわ、もちろんみたいな行為逆レ○プじゃなくてちゃんと愛のあるやつをね。◯◯ピー◯◯ピーして◯◯ピー◯◯ピーってお互い気持ちいいわよぉ」

 ぐふふふふと下卑た笑い声を上げながら、その醜く肥え太った体をこれでもかとくねらせる。
 どうやらセイラによるものらしい魅了が解けたことはバレてないようで、ベラベラと聞かされる方がおぞましくなる内容を平気で口にした。

「そ、その時を楽しみにしている。……では私はこれで失礼する」
「はぁい、せいぜい頑張ってねぇ。んーチュッ」

 まるでご褒美と言わんばかりの投げキッス。
 込み上げてきた吐き気に耐えかね、多少強引にこの場を後にすることにしたルドリエ。
 我が身が目の前の女によって一方的に汚されていたことを知り、とてもではないがいても立ってもいられなくなったのだ。

(なぜ私はこのような品に欠ける女性にあれほどまでに心奪われていたのだろう。……これが魅了の恐ろしさというものか? そして自分が彼女になにをされたのかも考えたくない)
 
 一応セイラと図らずも対峙したことで得られた情報もあった。
 そしてこう確信する。彼女にはリスベルテスの言うように、やはりなにか腹に一物があるということを。
 それがなんなのかまではまだ判然としないが、よからぬことだけは確かだ。
 故にリスベルテスとは極秘裏に話をする必要があるだろう。
 ――数日後、リスベルテスからまさかの真実がもたらされたのであった。
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