【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~彼氏~

拓海

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「… … …」

視線の先には、私が全く予想もしないほどに…顔に、満面の笑みを浮かべた拓海が立っていた。

「たく、み…」

電話の反応からして、拓海が絶対に不機嫌だと思っていた私はその笑顔に驚き…意図せず声を潜めてしまう…。

拓海の態度が、余計に怖い…

だけどふと…思い直す。

今ここにいるのは私だけではない。
拓海だって、子供、そのものではない…。
杉崎さんが横にいるから、拓海は一応社会人として、きちんと振舞ってくれているのかもしれない。

きっと内心では、長時間私の家に上がれず、待たされたことに怒っているか…
私が積極的に、杉崎さんとの出張の話を拓海にしなかったことを…面白くないと思っているに違いない。

「やっほ、葉月。」

拓海はひらひらと手を振りながら、少しずつ私の方に近付いてきた。

その距離、あと3メートルほどで、「どうも、こんばんは。」

拓海が先に、私のほんの少し後ろに立っていた杉崎さんの方に向き直り、そう、声をかけた。

「こんばんは、ご無沙汰しています。」

杉崎さんは拓海に軽く会釈をして、そんな風に、言葉を返した。

明らかに、前とは違う…
以前、偶然に家の近所の居酒屋で林さんも含めて会った時に…4人で一緒に食事をした時とは、空気感が全く違う…。
なんとなく、空気が重い… 

拓海と杉崎さんは、私より頭ひとつ以上高い位置で…しばらくお互いの顔をじっと見ているように、見えた。

そのまましばらく沈黙が続きそうになり、私は堪らずに声を発する。

「あ、の!拓海…ごめんね、わざわざ迎えに来てもらって…本当に、良かったのに…」

「いや、全然。出張で疲れ切って帰ってくる彼女を迎えに来るのは、彼氏として当然のことだろ?」

彼女と、彼氏…
拓海の発したそんな言葉が、今となってはなんとなく、私の心に影を落とす…。
 
「あ…う、ん…でもそんな…疲れ切ってるわけでも…な」
「そうそう!!」

私がまだ話を続けている最中、拓海が言葉をかぶせてくる。
「えっと…杉崎さん。すみません、葉月が色々と、お世話になりました。出張先でコイツ、何か…やらかさなかったですか…?一生懸命過ぎるがゆえに、失敗しがちで…不器用でおっちょこちょいなとこ、あるんで、昔から、葉月は…なあ、葉月…おまえ、マジで大丈夫だった…?」

「…そ、れは…」
拓海の発言に動揺しながらも、なんとか否定をしようとする私を横に、

「いえ、そんなことは、全然。」
杉崎さんが静かに答える。

コイツ、だとか…
不器用とか、おっちょこちょいとか、杉崎さんの前で、そんな風に言われたくはない…

心の中でそんな風に思った矢先「え、あっ…拓海っ!…、なっ…!」

いきなり、正面から拓海にぐいと腕を引かれて、よろめく。

突然のことで体勢を直せず…よろけて、拓海の胸のあたりに頭がコツンと触れ…思わず、言葉をなくす。

「何、するっ…たく、みっ…」

後ろ向きで…杉崎さんの顔は見えない… 

拓海は、突然のことで驚いて拓海を見上げる私の顔をニヤニヤと笑って見下ろしてくる…

こんなことを…人前でしてくるなんて… 
私は愕然とする…。

やはり、子供だ…
これでは、子供…そのものではないかと思った…。
 
そのままくしゃくしゃと拓海の大きな手で…私の髪を撫でまわされ、さすがに私は強めに、拓海の手を払いのける。

「…や、やめ…拓海、人前で何、する…の … あの、すみません…杉崎さん…」

慌てて振り返り、杉崎さんを見上げる…

ドキリとした…。

見たこともない、表情…  
なんといえばいいか、わからない… 
表情が見えない…表情で、杉崎さんは薄く、微笑んでいた…。

「あ… あの… 」

駄目だ…何と言えば言いのか、わからない…
自然に、言葉を続けることが出来ない…。  

「… …じゃあ、俺はこれで。水無月さん、ホントにお疲れ様でした。また、会社でね。」
「はい…ありがとうございました。お疲れ様でした…」

その後、杉崎さんは私たちに背を向けて、ゆっくりと歩き出した…。

「葉月の世話、どうもです…。じゃあ…家に帰るべ、葉月…俺、完全に、葉月不足…」

杉崎さんにまだ聞こえてしまいそうな位置で、拓海が発した言葉に、眩暈がしてくる…。

とにかくこの場を去りたい…早く、帰りたい… 

「…、拓海… 声、大きい…帰ろう… 」

さっきとは真逆の感情で…私は拓海とともに、足早にその場を後にした…。









 















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