【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~密室~

回避

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「お待たせしました。どうぞ…」

「ありがとう…いい香りだね…」

ことりと、
珈琲カップとチョコレートを乗せたお皿を杉崎さんの前のテーブルに置く。

最後に、自身の珈琲カップをテーブルに置き…私は杉崎さんの正面にゆっくりと座った。

      ドクン …  ドクン …

さきほどから、胸の鼓動が止まらない…。

密室…自分の部屋に杉崎さん… 
信じられない気持ちで、杉崎さんを盗み見る…。

変わらず、整った顔立ち… 綺麗な瞳… 
カップの中の珈琲を見つめる瞳に、男性にしてはとても長い睫毛がかかり、下まぶたに影をつくっている…

「いただきます… …あ、美味しい… あったまるね…」

「はい… …あの、チョコレートも…ごく普通ので申し訳ないんですけど…良かったらどうぞ」

「うん…頂くね。」

かさと…銀色に光る包み紙を開いて…杉崎さんがチョコを形の良い唇に運ぶ…。

「実はこのチョコ、俺も好きだよ…美味しいよねここの。うちの会社が販売してるのもまあ美味しいとは思うけど、正直、ここの味の方が好み…なんだろう…まろやかっていうか、なんていうか…」

「…ですよね…私も実は密かにそう思ってました…同じで良かったです。」  

どこのデパートの物でもない…
本当に、私がスーパーなどで買って普段から食べている市販の自分好みの、少し甘めのチョコレート…。

こんなことなら…
杉崎さんが家に来ることが事前にわかっていたなら、絶対、デパートなどで扱うもっとちゃんとした素敵なお菓子を買っておいたのにと、思ってしまう…。

シンとした室内…

何か、話題を探さなきゃと思いつつも、何も浮かばない…。

仕事の話… テレビドラマの話…  

そんな風に頭を巡らせている時に「… 部屋… 」杉崎さんが静かに呟いた。

「え… … ?」杉崎さんを見る。

「水無月さんの部屋…さ…」
杉崎さんが部屋の中を、ゆっくりと見渡す…。

唐突に、部屋と言われて、ドキリとする…。

何か…気になるところがあったのだろうか…
杉崎さんの視線の先が、ベッドを素早く通り過ぎたにも関わらず…なぜだか気恥ずかしさが、増す…。

「は… はい… ?」

「…いや…あの、部屋がさ…すごく片付いてるなって感心してる…普段も水無月さんのデスク回りはスッキリ片付いているから…やっぱ、共通しているのかなって…私生活と…。」

「…あ…いえ…そんなことは…仕事で残業が続いたり…忙しかったりすると…もっと、荒れてたりしますよ…今日はたまたま…本当にたまたま、片付いているだけで…たまたま、杉崎さんを家に上げることができただけです…」

「そうか…じゃあもしかしたらタイミングによっては今日の俺の訪問も、無理ですごめんなさい、だったわけだ…」

「… そう、ですね…少しだけ悩みましたが…でも…私も…そんな気に、なってしまって…」

「え… ?… 」杉崎さんが驚いたように、私を見つめる…。

「あ…いえ…私も…杉崎さんと、珈琲を飲みたいなって思って…しまって…」

「ああ…そう、だね…食後はやっぱり、飲みたくなるよね…珈琲…」

「はい… … 」 

ごくり… 
熱くて…少し、いつもより苦めの珈琲を、再び口に運ぶ。

「… … … 」

駄目だ…何の話も、膨らませることができない… 
どうして、私はこんな時に限って…
こんなにも…不器用な会話しかできないのだろう…

そう、思った… 

でもその後、杉崎さんの発した言葉で…私は否応なく、口を開くことになった…。

杉崎さんの質問は、私が今一番…避けたかったこと…回避したかったこと…。 

やっぱり…

  今の私が一番、恐れていたことだった。 















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