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第3話:スライム退治のためにスナガ森に向かう
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さて、あたしとアレックスは宿屋に到着。
とりあえず自分の宿泊している部屋にアレックスを連れていく。
扉を開けると、ケイティがベッドに座って本を読んでいた。
この子、本が好きなんだよなあ。
この村には図書館なんてないので、村役場の貸し出しコーナーから借りてきたみたい。
「ケイティ、この方が新しいメンバーのアレックスよ、ちなみに男性よ」
ケイティがニコニコ顔で挨拶する。
「こんにちは、私はケイティと言います。まだ、見習いですが、よろしくお願いいたします」
「アレックスです、こちらこそよろしくお願いします」
アレックスの美貌や、そして、男であることにびっくりすると思いきや、何だかごく自然に挨拶するお二人。普通、もっと驚かないのかい、ケイティ。
けど、この娘、大人しいから顔には出さないけど、内心ではびっくりしているかもしれないわね。
そして、あたしとケイティが宿泊している部屋と廊下を隔てた三人部屋にアレックスを連れていく。
ケンとカイの部屋が宿泊している。
ボリスがいないので、三人部屋を二人でゆったりと使っているようだ。
いきなり扉を開けたりはしない。
やってるかもしれないから。
まあ、さすがに、二人とも若いとは言え、朝っぱらからやってないだろうなあと思ったが、一応、念のため。
扉をノックする。
すぐに扉が開いて、小柄なケン、その背後に大柄なカイが姿を現した。
何だか、二人とも眠そうだ。
そりゃ、あんな夜中に、湖に落ちてしまうほど激しくボートの上でやりまくったら、そりゃ眠いわよね。
今日も仕事はあるのに大丈夫かしら。
あたしは二人にアレックスを紹介した。
「こちらが新たに加入したアレックス、治癒魔法が使えるヒーラーよ。回復担当ね。ちなみに男性よ」
「こんにちは、ケンさんにカイさん」
アレックスが男と分かっても、別にケンとカイもさほどびっくりしない。
あれ、もうこういう世の中になったのか。
あたしが保守的なだけなのか。
まあ、ケンとカイも同性愛者だけど。
「ああ、よろしく、俺はケン。剣士をやってる。ケンって呼んでいいいよ」
「俺はカイ、弓使いだ、よろしくね。俺もカイでいい」
「よろしくお願いします」
そして、ケンにあたしは聞かれた。
「ところで、マリア、今日の仕事はなんだい」
「村の近くのスナガ森でスライム退治よ」
「またかよ、もうスライムは飽きたよ」
「しょうがないじゃない、それしか仕事が取れなかったんだから」
もう、ケンはわかってんのかなあ、我がパーティーのしょぼくれた状況に。
だいたい、ケンって剣士としては、何だか冴えないんだよなあ。
まあ、まだ若いからこれからの人だろうけど。
そして、私もまだ十九才。
まだまだ、これからよ。
運を使い果たしてはいないわ!
と自分に言い聞かせる。
そう、冒険者としての運。
それに恋愛運も。
つーか、恋愛運って、全然使ってないわよ。
「そういうわけで、三十分後に出発よ、二人とも準備して」
あたしはアレックスを、あたしとケイティが泊っている部屋の隣の一人部屋に案内した。
「ここがアレックスの宿泊部屋よ。悪いけど、一人部屋でちょっと狭いけど我慢してね」
「いえ、全然かまいませんわ」
「じゃあ、三十分後出発ね。近いから徒歩です」
「わかりました」
部屋に戻ると、あたしはケイティに聞いた。
「ねえ、ケイティ、アレックスを見てびっくりしなかったの、あの人、男性なのよ」
「そうですね、すごくびっくりしましたね。あんなきれいな人は女性でも見たことがありません」
そうニコニコしながらケイティは答えるが、全然びっくりしていないぞ、この娘。
泰然自若って感じの女の子だ。
まだ、十三才なのに。
大人だなあ。
あたしなんて、何か起きると、すぐにおたおたしてしまうのに。
まあ、いいか。
そして、ケイティから別件で聞かれた。
「リーダー、ご相談があるのですが」
どうも、リーダーって呼ばれるのに慣れないんだよなあ。
そう考えてしまうあたしはリーダーに相応しくないってことかな。
「別にリーダーって呼ばなくてもいいけど。マリアでいいわ」
「わかりました。じゃあ、マリアさん。今回のスライム退治を行うスナガ森って、大きいイノシシがよく出るそうですよ」
「そうなの、何でそんな事を知っているの」
「宿屋の主人のイアンさんから聞いたんです」
「そうなんだ。まあ、イノシシならいいんじゃないの。別に他の強いモンスターと違って特別な装備は要らないでしょう」
「では、ロープを持って行っていいでしょうか」
「何に使うの」
「もしイノシシが現れて、それを倒したら、そのまま縛って持って行って肉屋に売ることが出来るじゃないですか」
「うーん、あたしたちの目的はスライム退治なんだけど。まあ、別に持って行ってもいいけど」
「ありがとうございます。後、もうひとつお願いがありまして」
「何かしら」
「そろそろ、私も見学ではなくて、本格的にパーティーの仕事に参加してよろしいでしょうか。ボリスさんには、俺が戻ってくるまでずっと見学してろって言われていたんですが」
あたしは、ボリスからケイティはまだ子供だからなるべく安全なところから見学、もしくは宿屋で留守番させとけって命令されていた。
お前らだけだと、ケイティが怪我するかもしれないって言われてしまった。
確かに、ボリスがいないあたしたちのパーティーのメンバーの冴えないことと言ったら。
モンスターに襲われたら、自分を守るのに精一杯ではないだろうか。
けど、スライム退治だったら、別にケイティが参加してもいいかな。
「いいわよ、別に。と言っても最弱スライム退治だけどね」
「ありがとうございます、リーダー、じゃなくて、マリアさん」
相変わらず、ニコニコ顔のケイティ。
見学ばかりで退屈だったのかしら。
まあ、相手はスライムだから、さほど危険はないでしょう。
さて、準備も終わり、冒険服を着て、あたしは弓矢を背負う。
あたしたちはスナガ森へ向かった。
歩いて、二十分。
ベスタ湖の近くの森だ。
お、例の湖の東端にある豪邸が見えた。
誰が住んでたっけ。
そう、スミスさんって人が住んでいるって話だわ。
引退して、このど田舎に住みついたって話だけど。
仕事を引退したってことは、けっこうなお年寄りかしらね。
こんな豪邸に住むなんて、すごい金持ちなのかしら、羨ましいわ。
それにしても、今日の仕事はスライム退治。
しょぼいクエストだなあ。
いつもしょぼい仕事ばっかりだけどさあ。
ああ、あたしも冒険者から引退したくなった。
けど、引退してどうすりゃいいの。
実家の農家に帰ろうかしら。
農業やろうかしら。
両親は健在で、あたしとは定期的に連絡は取っているから、温かく迎えてくれそうだけどね。
けど、情けないか。
親の反対を押し切って、冒険者になったんだから。
もう少し頑張るかな。
それに、恋愛についてはまだ全然引退するつもりはないわ。
だいたい、デビューもしてないじゃないの!
男性と手も握ったことが無いってのはまずいぞ。
なぜ、あたしにはそういう機会が全く現れなかったのかしら。
ドラゴンは、いきなりあたしの目の前に現れたって言うのに。
ドラゴンと出会うなんて、滅多にないことよ。
一生、ドラゴンなんて見ない冒険者も多いって言うのに。
なんで、普通の男性でもいいから、あたしの前に現れないの!
なぜなの!
どうなってんのよ、恋愛の神様!
と、心の中で喚き散らすあたし。
そして、冒険者として生活していこうとあらためて心に誓うあたし。
田舎の農家で働くより、男性と出会いが多いと思うの。
おっと、恋愛が主目的じゃないわよ。
とにかく、冒険者として、もう一度花を咲かせたいわ。
ああ、それにしても、巨大ドラゴンを倒したときの、あの栄光が忘れられないなあ。
今や、毎日のようにスライム退治に明け暮れ、糊口をしのぐ始末。
時折、空しいのはこのせいかなあ。
なんか胸がぽっかりと空いている気分が続いているのよねえ。
スライム退治ばっかりやっているからかしら。
ドラゴンキラーからスライムキラーに降格。
がっかりよ。
もっと冒険したいわ。
まだ、大丈夫よね、十九才なんだから。
そして、また考えてしまう。
恋愛よ、恋愛。
また、恋愛のこと。
頭の中で同じことを何度も考えてしまう。
けど、これもまだ十九才なんだから大丈夫よね。
こっちの方は、かなり強く自分に言い聞かせるあたし。
先を仲良さそうに歩くケンとカイを見ながらそう思うあたし。
二人の昨夜のボートでの行為を思い出してしまった。
ちょっと顔が赤くなるあたし。
どんなんだろう、気持ちいいのかなあ。
したことないからわからないけど。
男の人に抱きしめられるのってどんな気分になるんだろう。
お互い裸になって、そして、あそこに入れられたらどんな感じなのかなあ。
なんてことを考えていたら、道の大きい石につまずいて、地面にスっ転ぶあたし。
「イタタ!」
「おいおい、大丈夫かよ、マリア」
後ろに振り返ったケンに言われたが、あたしはすぐに立ち上がる。
別に怪我はしなかったが、正直、リーダーとして情けない。
「ぜ、全然、大丈夫よ!」
アレックスが心配そうな顔であたしに言った。
「マリア、回復魔法をかけましょうか」
「あ、いえ、大丈夫、全然痛くないから」
本当は、ちょっと、痛いけど。
すると、ケンが笑いながらあたしに言った。
「なんか、マリアってあまり冒険者らしくないなあ。ドラゴンキラーとは思えないなあ」
「うるさいわねえ、考え事をしていたの」
「何を考えていたんだよ」
ケンがニヤニヤ笑っている。
カイも同様。
ケイティはちょっとあたしを心配そうに見ている。
ああ、恥ずかしい。
いっそのこと、昨夜、あんたらが湖に浮かべたボートでやっていたことを考えていたのよって言いたくなったが、我慢する。
覗きをしていたいやらしい女と思われてしまう。
それにしても、ドラゴンキラーの称号も、今や尊敬から揶揄の対象になってしまったような気がするわ。
何とか言い訳を考えるあたし。
「ちょっとパーティーの行く末を考えてたのよ」
「どんなことを考えていたんだ」
つまんなそうにケンに聞かれた。
「このままだと、あたしたちのパーティーはスライム退治で終わってしまうかもしれないってことよ」
「心配すんなよ、ボリスが帰って来れば、またうまくいくさ」
あんまり先の事を考えてないようなケンにあたしは少しイラついた。
「あのね、成功する人ってのは、常に失敗した時のことも考えているのよ、うまくいかなかった時のことも。この場合、ボリスの親御さんがかなり調子が悪くて、ボリスが当分帰って来れない、または冒険者を辞めてしまった場合とかよ」
ケンがまたつまんなそうな顔をして言った。
「そんな事、いくら心配しても仕方がないぞ。先の事なんて誰にもわからないよ、先がわからないから楽しいんだ。これが冒険者生活の醍醐味さ」
「いや、だからいろんな対策を考えておこうってことよ」
「そんな事をいくら考えても無駄さ。失敗したことまで考えていたら、本当に失敗しちまうぜ」
「いや、だから万全の準備をしておこうって話よ」
「まあ、とりあえずスライム退治に専念しようぜ。それにボリスなら帰って来るよ、あの人が帰ってきたら問題解決さ」
「何でそう言い切れるの」
「何となくそう思うだけさ」
ケンは楽天家か、もしくは何も考えていないかのどちらかだなあとあたしは思った。
とりあえず自分の宿泊している部屋にアレックスを連れていく。
扉を開けると、ケイティがベッドに座って本を読んでいた。
この子、本が好きなんだよなあ。
この村には図書館なんてないので、村役場の貸し出しコーナーから借りてきたみたい。
「ケイティ、この方が新しいメンバーのアレックスよ、ちなみに男性よ」
ケイティがニコニコ顔で挨拶する。
「こんにちは、私はケイティと言います。まだ、見習いですが、よろしくお願いいたします」
「アレックスです、こちらこそよろしくお願いします」
アレックスの美貌や、そして、男であることにびっくりすると思いきや、何だかごく自然に挨拶するお二人。普通、もっと驚かないのかい、ケイティ。
けど、この娘、大人しいから顔には出さないけど、内心ではびっくりしているかもしれないわね。
そして、あたしとケイティが宿泊している部屋と廊下を隔てた三人部屋にアレックスを連れていく。
ケンとカイの部屋が宿泊している。
ボリスがいないので、三人部屋を二人でゆったりと使っているようだ。
いきなり扉を開けたりはしない。
やってるかもしれないから。
まあ、さすがに、二人とも若いとは言え、朝っぱらからやってないだろうなあと思ったが、一応、念のため。
扉をノックする。
すぐに扉が開いて、小柄なケン、その背後に大柄なカイが姿を現した。
何だか、二人とも眠そうだ。
そりゃ、あんな夜中に、湖に落ちてしまうほど激しくボートの上でやりまくったら、そりゃ眠いわよね。
今日も仕事はあるのに大丈夫かしら。
あたしは二人にアレックスを紹介した。
「こちらが新たに加入したアレックス、治癒魔法が使えるヒーラーよ。回復担当ね。ちなみに男性よ」
「こんにちは、ケンさんにカイさん」
アレックスが男と分かっても、別にケンとカイもさほどびっくりしない。
あれ、もうこういう世の中になったのか。
あたしが保守的なだけなのか。
まあ、ケンとカイも同性愛者だけど。
「ああ、よろしく、俺はケン。剣士をやってる。ケンって呼んでいいいよ」
「俺はカイ、弓使いだ、よろしくね。俺もカイでいい」
「よろしくお願いします」
そして、ケンにあたしは聞かれた。
「ところで、マリア、今日の仕事はなんだい」
「村の近くのスナガ森でスライム退治よ」
「またかよ、もうスライムは飽きたよ」
「しょうがないじゃない、それしか仕事が取れなかったんだから」
もう、ケンはわかってんのかなあ、我がパーティーのしょぼくれた状況に。
だいたい、ケンって剣士としては、何だか冴えないんだよなあ。
まあ、まだ若いからこれからの人だろうけど。
そして、私もまだ十九才。
まだまだ、これからよ。
運を使い果たしてはいないわ!
と自分に言い聞かせる。
そう、冒険者としての運。
それに恋愛運も。
つーか、恋愛運って、全然使ってないわよ。
「そういうわけで、三十分後に出発よ、二人とも準備して」
あたしはアレックスを、あたしとケイティが泊っている部屋の隣の一人部屋に案内した。
「ここがアレックスの宿泊部屋よ。悪いけど、一人部屋でちょっと狭いけど我慢してね」
「いえ、全然かまいませんわ」
「じゃあ、三十分後出発ね。近いから徒歩です」
「わかりました」
部屋に戻ると、あたしはケイティに聞いた。
「ねえ、ケイティ、アレックスを見てびっくりしなかったの、あの人、男性なのよ」
「そうですね、すごくびっくりしましたね。あんなきれいな人は女性でも見たことがありません」
そうニコニコしながらケイティは答えるが、全然びっくりしていないぞ、この娘。
泰然自若って感じの女の子だ。
まだ、十三才なのに。
大人だなあ。
あたしなんて、何か起きると、すぐにおたおたしてしまうのに。
まあ、いいか。
そして、ケイティから別件で聞かれた。
「リーダー、ご相談があるのですが」
どうも、リーダーって呼ばれるのに慣れないんだよなあ。
そう考えてしまうあたしはリーダーに相応しくないってことかな。
「別にリーダーって呼ばなくてもいいけど。マリアでいいわ」
「わかりました。じゃあ、マリアさん。今回のスライム退治を行うスナガ森って、大きいイノシシがよく出るそうですよ」
「そうなの、何でそんな事を知っているの」
「宿屋の主人のイアンさんから聞いたんです」
「そうなんだ。まあ、イノシシならいいんじゃないの。別に他の強いモンスターと違って特別な装備は要らないでしょう」
「では、ロープを持って行っていいでしょうか」
「何に使うの」
「もしイノシシが現れて、それを倒したら、そのまま縛って持って行って肉屋に売ることが出来るじゃないですか」
「うーん、あたしたちの目的はスライム退治なんだけど。まあ、別に持って行ってもいいけど」
「ありがとうございます。後、もうひとつお願いがありまして」
「何かしら」
「そろそろ、私も見学ではなくて、本格的にパーティーの仕事に参加してよろしいでしょうか。ボリスさんには、俺が戻ってくるまでずっと見学してろって言われていたんですが」
あたしは、ボリスからケイティはまだ子供だからなるべく安全なところから見学、もしくは宿屋で留守番させとけって命令されていた。
お前らだけだと、ケイティが怪我するかもしれないって言われてしまった。
確かに、ボリスがいないあたしたちのパーティーのメンバーの冴えないことと言ったら。
モンスターに襲われたら、自分を守るのに精一杯ではないだろうか。
けど、スライム退治だったら、別にケイティが参加してもいいかな。
「いいわよ、別に。と言っても最弱スライム退治だけどね」
「ありがとうございます、リーダー、じゃなくて、マリアさん」
相変わらず、ニコニコ顔のケイティ。
見学ばかりで退屈だったのかしら。
まあ、相手はスライムだから、さほど危険はないでしょう。
さて、準備も終わり、冒険服を着て、あたしは弓矢を背負う。
あたしたちはスナガ森へ向かった。
歩いて、二十分。
ベスタ湖の近くの森だ。
お、例の湖の東端にある豪邸が見えた。
誰が住んでたっけ。
そう、スミスさんって人が住んでいるって話だわ。
引退して、このど田舎に住みついたって話だけど。
仕事を引退したってことは、けっこうなお年寄りかしらね。
こんな豪邸に住むなんて、すごい金持ちなのかしら、羨ましいわ。
それにしても、今日の仕事はスライム退治。
しょぼいクエストだなあ。
いつもしょぼい仕事ばっかりだけどさあ。
ああ、あたしも冒険者から引退したくなった。
けど、引退してどうすりゃいいの。
実家の農家に帰ろうかしら。
農業やろうかしら。
両親は健在で、あたしとは定期的に連絡は取っているから、温かく迎えてくれそうだけどね。
けど、情けないか。
親の反対を押し切って、冒険者になったんだから。
もう少し頑張るかな。
それに、恋愛についてはまだ全然引退するつもりはないわ。
だいたい、デビューもしてないじゃないの!
男性と手も握ったことが無いってのはまずいぞ。
なぜ、あたしにはそういう機会が全く現れなかったのかしら。
ドラゴンは、いきなりあたしの目の前に現れたって言うのに。
ドラゴンと出会うなんて、滅多にないことよ。
一生、ドラゴンなんて見ない冒険者も多いって言うのに。
なんで、普通の男性でもいいから、あたしの前に現れないの!
なぜなの!
どうなってんのよ、恋愛の神様!
と、心の中で喚き散らすあたし。
そして、冒険者として生活していこうとあらためて心に誓うあたし。
田舎の農家で働くより、男性と出会いが多いと思うの。
おっと、恋愛が主目的じゃないわよ。
とにかく、冒険者として、もう一度花を咲かせたいわ。
ああ、それにしても、巨大ドラゴンを倒したときの、あの栄光が忘れられないなあ。
今や、毎日のようにスライム退治に明け暮れ、糊口をしのぐ始末。
時折、空しいのはこのせいかなあ。
なんか胸がぽっかりと空いている気分が続いているのよねえ。
スライム退治ばっかりやっているからかしら。
ドラゴンキラーからスライムキラーに降格。
がっかりよ。
もっと冒険したいわ。
まだ、大丈夫よね、十九才なんだから。
そして、また考えてしまう。
恋愛よ、恋愛。
また、恋愛のこと。
頭の中で同じことを何度も考えてしまう。
けど、これもまだ十九才なんだから大丈夫よね。
こっちの方は、かなり強く自分に言い聞かせるあたし。
先を仲良さそうに歩くケンとカイを見ながらそう思うあたし。
二人の昨夜のボートでの行為を思い出してしまった。
ちょっと顔が赤くなるあたし。
どんなんだろう、気持ちいいのかなあ。
したことないからわからないけど。
男の人に抱きしめられるのってどんな気分になるんだろう。
お互い裸になって、そして、あそこに入れられたらどんな感じなのかなあ。
なんてことを考えていたら、道の大きい石につまずいて、地面にスっ転ぶあたし。
「イタタ!」
「おいおい、大丈夫かよ、マリア」
後ろに振り返ったケンに言われたが、あたしはすぐに立ち上がる。
別に怪我はしなかったが、正直、リーダーとして情けない。
「ぜ、全然、大丈夫よ!」
アレックスが心配そうな顔であたしに言った。
「マリア、回復魔法をかけましょうか」
「あ、いえ、大丈夫、全然痛くないから」
本当は、ちょっと、痛いけど。
すると、ケンが笑いながらあたしに言った。
「なんか、マリアってあまり冒険者らしくないなあ。ドラゴンキラーとは思えないなあ」
「うるさいわねえ、考え事をしていたの」
「何を考えていたんだよ」
ケンがニヤニヤ笑っている。
カイも同様。
ケイティはちょっとあたしを心配そうに見ている。
ああ、恥ずかしい。
いっそのこと、昨夜、あんたらが湖に浮かべたボートでやっていたことを考えていたのよって言いたくなったが、我慢する。
覗きをしていたいやらしい女と思われてしまう。
それにしても、ドラゴンキラーの称号も、今や尊敬から揶揄の対象になってしまったような気がするわ。
何とか言い訳を考えるあたし。
「ちょっとパーティーの行く末を考えてたのよ」
「どんなことを考えていたんだ」
つまんなそうにケンに聞かれた。
「このままだと、あたしたちのパーティーはスライム退治で終わってしまうかもしれないってことよ」
「心配すんなよ、ボリスが帰って来れば、またうまくいくさ」
あんまり先の事を考えてないようなケンにあたしは少しイラついた。
「あのね、成功する人ってのは、常に失敗した時のことも考えているのよ、うまくいかなかった時のことも。この場合、ボリスの親御さんがかなり調子が悪くて、ボリスが当分帰って来れない、または冒険者を辞めてしまった場合とかよ」
ケンがまたつまんなそうな顔をして言った。
「そんな事、いくら心配しても仕方がないぞ。先の事なんて誰にもわからないよ、先がわからないから楽しいんだ。これが冒険者生活の醍醐味さ」
「いや、だからいろんな対策を考えておこうってことよ」
「そんな事をいくら考えても無駄さ。失敗したことまで考えていたら、本当に失敗しちまうぜ」
「いや、だから万全の準備をしておこうって話よ」
「まあ、とりあえずスライム退治に専念しようぜ。それにボリスなら帰って来るよ、あの人が帰ってきたら問題解決さ」
「何でそう言い切れるの」
「何となくそう思うだけさ」
ケンは楽天家か、もしくは何も考えていないかのどちらかだなあとあたしは思った。
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