鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第21話:ヒーラーのローラを採用

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 次の日。
 あたしは、朝から憂鬱。

 昨夜のボリスとケンとカイの三人プレーを見てしまってから、ボリスに対する恋愛感情も一瞬で消し飛んだ。

 ボリスは全然悪くないけどね。
 あたしの単なる片思いですからね。

 三人で仲良くするならいいんじゃない、パーティーの結束も固まってさあ。
 ああ、けど、あたしは空しいわ。

 ベッドでうつらうつらしていたら、ケイティに揺り動かされた。

「マリアさん、もう朝ですよ」
「ああ、おはよう、ケイティ……どうしたの、スライム退治ばっかりやってたから、ついに怒ったスライムの親玉が復讐のために宿屋に乱入してきたのかしら……」

 ベッドで起き上がって、ボーっとしながら下らないことを言うあたしに、ケイティが心配そうに声をかけてきた。

「あの、マリアさん、体調でも悪いんですか」
「えっ……あはは、全然、悪くないわよ、身体は特に悪いってことはないわ」

 精神的には最悪の状態だけどさあ。
 おっと、肉体的にもちょっと悪いんだっけ。

 ひじが痛いのよねえ。
 ケイティとボートに乗ったとき、櫂を落としそうになってひねってしまった。

 アレックスに治癒してもらう前に、彼女は出て行ってしまった。

 いや、彼女じゃなくて、彼か。
 もう、どうでもいいけど。

 ボリスに治してもらおうかしら。
 ああ、けど、なんか今はボリスに近寄りたくないのよねえ。

 不思議ねえ、女心って。
 昨日までは抱き着きたくて仕方がなかったのに。

 今は、何か顔も見るのも嫌になってきたわ。
 別にボリスは全然悪くないんだけど。

 それに、弓使いの力量が全然成長していない。

 よし、私はもう冒険者として、弓矢の修行に専念するわ。
 そう、修行に恋愛は必要ないわ!

 ……必要ないのかなあ。

「マリアさん、ボリスさんが朝食はみんなで食べようって言ってきました」
「あ、そう。わかったわ」

 もう百年の恋も一瞬で消えてしまった。
 まあ、パーティーで仲良く食べましょうね。

 宿屋の食堂で、あたしはボリス、ケイティ、ケンとカイと一緒に朝食を食べる。

 ケンとカイはなんか眠そう。
 昨夜は、ボートの上でお盛んだったようね。

 けど、ボリスは元気だな。
 その元気さを女にも向けてほしかったわね。

 まあ、たとえそうだとしても、あたしのことを相手にしてくれたかどうかわからないけどさあ。

 そんなボリスがパーティーについて、いろいろと言い出した。

「俺は決めたぞ! リーダーとして、組織改革をするぞ!」

 こんな五人しかいないパーティーで組織改革って大げさだなあとあたしは思った。
 あら、あたしって、なんだか、すっかりしらけているぞ。

「まず、以前は報酬は、三分の一を俺が貰って、残りはお前らが等分にして、ケイティには俺からお小遣いという形で支払っていたが、もう、全員、必要経費を引いた残りを公平に等分するぞ」

 前はボリス一人で走りまわっていたようなもんだったから、報酬の三分の一持っていっても、あたしは特に不満はなかった。ケンとカイは渋い顔してたけど、これで不満を言うことはないでしょう。

「但し、報酬は等分にするということはお前たちにも仕事はやってもらわなくてはいかんなあ」
「今までも、一応やってましたけどねえ」

 カイがちょっと嫌味っぽく言った。

「そうだな。しかし、あやふやだったので、これからは俺がリーダーで全体のまとめ役及び交渉担当、マリアが副リーダー兼会計担当、ケンとカイは武器・防具その他備品管理担当、ケイティは情報収集担当だ」

 ケイティちゃんは、仕事を与えてもらって嬉しそうにしているけど、ケンが文句をつけた。

「武器と防具の管理なんて各自がやればいいんじゃないですか」
「いや、この村に倉庫を借りた。実は馬車に乗って帰って来たんだ。この宿屋のすぐ近くだ。この村を拠点にいろんな場所に仕事に行くつもりなんだが、少しずつもっと優れた武器やら防具も買っていくつもりなんだ。その管理を頼む」

 こんなど田舎に拠点を作って儲かるのかしら。
 まあ、どうでもいいや。

 あら、ますますやる気の無いあたし。

 そんなボリスにカイが言った。

「何やら本格的に冒険者って感じですね」
「おいおい、お前、冒険者じゃなかったのかよ」

 みんなで笑ってしまう。
 アレクッスがいなくなって、なんだかパーティーの雰囲気がよくなってきたみたいね。

 これからいい活動が出来そうね。

 あたしはなんだかやる気がないけどさあ。

 仕事はともかく、ああ、あたしの恋愛活動はどうすればいいの。
 どこに拠点を作ればいいのよ!

「それから、パーティーの配置も決めたぞ。前衛左がウォリアーの俺、右が剣士のケン。後衛は左がカイ、右がマリア、どちらも弓使いだな」

 ケイティが少しおどおどしながらボリスに聞く。

「あの、私はどこにいればいいんですか」
「ケイティは、中衛、真ん中だな。俺たち四人の中心にいるわけだ。みんな、ケイティを守ってやれ」

 ケイティは実力があるんで、前衛でもいいんじゃないと思ったけど、やたらボリスが張り切っているので黙っていた。まあ、いいんじゃないかな、真ん中で。それに、ケイティって、我がパーティーの秘密兵器って感じがしないでもない。あたしらの方が守ってもらうんじゃないのかしら。

 しかし、ケンが前衛か。
 ちょっと、危うい感じがするなあ。

 まあ、ボリスが助けてくれるでしょ。

「そういうわけで、今日はゴブリン退治だ」

 あら、もう仕事を取って来てるの。
 仕事が早いわね、ボリスは。

 ケンがボリスに聞いた。

「何匹くらいですか、そのゴブリン退治は」
「五匹くらいが、畑にやってきて作物を盗んでいくらしい。近くにもう廃墟になってしまった遺跡の近くにある畑だな。まあ、大したことはないな。俺一人でも充分なくらいだが、お前たちの実力をみたい」

 張り切っているなあ、ボリスさん。
 まあ、あたしたち、実力は全然上がってないけどね、ケイティ以外は。

 おっと、肝心なことを忘れてた。

「ねえ、ボリス、回復役どうすんの。それを担当していたアレックスが、昨日、突然辞めちゃったのよ。ボリスが兼任するの」
「大丈夫だ、すでに依頼はしてある。それで、冒険者ギルドから連絡があった。名前はローラ。マリア、一緒に面接に来てくれないか」

 ほー、さすが。
 これまた仕事が早いわね、ボリスさん。

 と言うわけで、あたしは冒険者ギルドに新人さんに会いに行った。

 朝早く、湖畔をボリスと歩く。
 静かな湖畔の風景を見回しながらボリスが言った。

「いやあ、なかなか爽やかな気分になるなあ」

 昨夜、やりまくって、すっかり爽快な気分ですね、ボリスさんと言おうと思ったがやめた。
 それに、ボリスはケンとカイと違って、カミングアウトしてないもんなあ。

 何で隠してんのかなあ。
 最初から言ってくれたら、あたしがショックを受けることもなかったのに。

 でかい倉庫がある。
 これがボリスが借りた倉庫ね。

 あら、その隣に畜舎があって、お馬さんが飼葉を食べてる。

「今朝、早朝に馬にエサをやりにいったんだ」

 あら、朝早くからお仕事してたのね。
 張り切ってますね、ボリスさん。
 
 そして、少し歩くと、例のボートがあった。

 先端にロウソクの跡。
 やれやれ、みんな、このボートで愛し合ってるのよねえ。

 なんでみんなこのボートを使うのかわからないけどさあ。
 ったく、やりまくって楽しみやがって。

 なんで、あたしにはこのボートに縁がないのよ。
 おっと、昼間にケイティと乗ったか。

 いや、あれは全然関係ないぞ。
 釣りをしただけじゃないの。

 ああ、空しいわ。

 すっかりしらけているあたし。
 おっと、いかん、今はお仕事中。

 そうよ、恋愛も大事だけど、仕事も大事よね。
 気合いれるぞ。

 さて、冒険者ギルドに到着。
 ローブ姿の女性は見当たらないわね。

 まあ、まだ約束の時間よりだいぶ早いけど。

 なんて考えていたら、冒険服を着たズボン姿のミディアムヘアの金髪美人さんが声をかけてきた。
 腰に剣を差している。
 
「あの、ボリスさんですか」
「ああ、そうだが、もしかして、あなたがローラさん」
「はい、そうです」

 へー、ヒーラーってローブを着ている人が多いんだけど、このローラさん冒険服ね。
 まあ、格好はどうでもいいか。

「いつから待ってたんだね」
「一時間前くらいです」

 あら、真面目な方ね。
 おまけに美人。

 アレックスほどではないけど、かなりの美人さんだなあ。
 ああ、羨ましい。

 だいたい、うちのパーティーってケンとカイもイケメンだし、ケイティちゃんはかわいいし、ボリスも無精ひげだらけだけど、実はいい男なんだよなあ。

 なんで、あたしだけ平凡顔なのよ。
 不公平だ!

 と心の中でわめくあたし。

 おっと、私情はともかく。

「ローラさんはおいくつですか」
「十七才です」

 おお、十七才にしては大人っぽい。
 あたしより背も高いし。
 あたしが子供っぽいだけか。

 あれ、アレックスの時もそう思ったな。
 けど、あたしはローラの剣が気になった。

「ヒーラーなのに、なんで剣を持っているんですか」
「ああ、これは護身用ですね」

 まあ、これだけ美人なら男に襲われる警戒もしなくてはいけないわね。

 あたしは全然警戒する必要がないけどね。
 ちょっと卑下し過ぎかしら。

「じゃあ、ボリス、ちょっとローラさんをテストさせてもらいましょうか」
「うーん、テストか。そうだな、ただどうやってテストしようか」

「あたし、ちょうど少しひじが痛いんですよ、ローラさん、お願いしていいかしら」
「はい、わかりました。あと、ローラでいいです」

 そんなわけで、冒険者ギルドの隅っこのテーブルに座って、あたしは痛めた右ひじをローラに治癒してもらう。
 ローラの手から光が出る。

 スッと痛みが……あれ、痛みが消えない。
 うーん、いや、少しはよくなったかな。

 いや、よくないぞ。
 ちゃんと動くようにはなったんだけど。

 痛い。

 ローラは一生懸命にやっているんだけど。
 うーん、前任のアレックスなんて、あたしの一年間続いていたひじの痛みを一瞬で治したけど。

 いまいちかなあ。
 
「ちょっと、席を外していいかしら、ローラ」
「はい、わかりました」

 大人しくテーブルに座っているローラをそのままに、ボリスと一緒に、一旦、冒険者ギルドを出る。

「どうだった、ローラの能力は」
「それが、一応、効果はあるんですけどね。ちゃんと動くようにはなったんですけど、なんだかまだ痛いんですよ」

「そうかあ、うーん、困ったなあ」
「彼女には申し訳ないけど、断りましょうか」

「いや、もう採用は決めているんだ」
「え、なんで」

「彼女は両親が病気で働けないんだよ。だから彼女が稼がなくてはいけないんだ」
「どっから聞いたんですか、その情報」
「冒険者ギルドからさ」

 ボリスは人情家だからなあ。
 まあ、しょうがないかな。
 
 それに、あたしたちのパーティーって、ケンとカイもあたしも冴えないもんなあ。
 ローラの悪口は言えないわね。

 なにせ、十三才のケイティが一番実力があるんだから。
 それに、いざとなったらボリスも治癒魔法は使えるし。
 
「まあ、まだ若いし、若いと言うことは伸びしろがあるということだ。そういうわけで、とりあえずローラは採用だ」

 まあ、いいんじゃないの。
 ああ、どうも最近投げやりなあたし。

 これも失恋のせいかしら。
 ボリスが悪い!

 そんなことはないわね。
 やれやれ。

 冒険者ギルドに戻って、ローラに採用の件を言うと大喜び。

「よろしくお願いいたします」

 深々と頭を下げるローラ。
 あら、礼儀正しい人ね。
 性格は良さそう。

 てなわけで、あたしとボリスはローラを宿屋に連れて行くことにした。
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