鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第22話:ゴブリン退治に向かう途中で、またもイライラしているあたし

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 あたしは宿屋にローラを連れていく際にアレックスのことを思い出してしまった。

 女かと思ったら男の娘だったなあ。
 ローラにもつい聞いてしまった。

「あの、ローラ、あなた女性ですよね」
「そうですが、あの、どうしてそのようなことを聞くのですか」

「あ、いや、えーと、普通の冒険服でズボンを履いているんで。ヒーラーってローブを着ている人が多いので」
「あの、貧しくて、これ一番安い冒険服なんです……」

 ああ、そういうことか。
 失礼なことを聞いたのかしら。

 さて、宿屋でとりあえずケイティに紹介。
 いつもの通りニコニコ顔で応対するケイティ。

「ケイティと言います。よろしくお願いいたします」
「ローラです、こちらこそよろしくお願いいたします」

 そう言えば、ケイティって、怒った顔を見たことがないわね。
 さすが、将来の大物。

 ケンとカイは一階の一人部屋から、また、元の二階の三人部屋に戻った。
 ボリスも一緒だもんね。

 いつでもやれるもんね。
 いい気なもんだわ。

 そんな風に考えるあたしはいやらしいのかしら。
 けどさあ、あたしは、まだ子供のケイティのいびきに我慢しつつ、寂しくベッドで一人で寝ているってのに。

 好きな時に出来るんだから、いいわよね。

「ローラと言います」

「ケンだ、よろしく」
「俺はカイ、頑張ろうぜ」

「はい、よろしくお願いいたします」

 ボリスがローラに言った。

「じゃあ、ローラは悪いけど一人部屋でよろしくな」
「わかりました」

 お部屋は、あたしとケイティが使っている隣の部屋。
 アレックスが出奔したので、その部屋が空いているので、ローラの宿泊部屋になった。

「それで、今のケンとカイのコンビだけど、恋人同士だからね」
「え、そうなんですか」

 びっくりするローラ。
 うーん、やっぱり驚くのが普通よねえ。

 アレックスを紹介したときは、みんな無反応だったけど。
 あたしの方がおかしいのかと思ってしまった。

 まあ、別に男同士でもいいけどさあ。
 ただ、みんながそうなったら人類滅亡よ。

「そんなわけで、今日は午後からさっそくモンスター退治よ。と言っても、畑を襲うゴブリン五匹。すぐに終わるでしょう。まあ、あなたは見学で終わっちゃうかもね」
「わかりました、よろしくお願いいたします」

 また丁寧に頭を下げるローラ。
 アレクッスとは違って、礼儀正しいし、雇って正解かしら。

 あたしは部屋に戻ると、ケイティがなにやら左手に手袋をしている。
 いや、手袋じゃなくて、まるで鎧みたい。

「ケイティ、なにそれ」
「この前、ブーメラン型のナイフを投げたじゃないですか」

「ああ、ワイバーンを倒した時ね。フェンリルにも使ったかしら」
「このナイフって、うまくやれば戻って来るんですよ」

 確かにブーメランって戻って来るものよねえ。

「でも、刃物でしょ。それが飛んで戻ってきたら危ないんじゃないの」
「ええ、そうです。だから、この鉄製のグローブを付ければ戻って来ても掴むことができるんです」

 ふーん、この娘、いろんなものを持っているんだよなあ。
 例の元冒険者のお爺さんの遺品かしら。

「ただ、今回はボリスさんが一人で全部倒して終わりになりそうですけど」
「そうよねえ、なんだかえらく張り切っているけどね」

「マリアさんはやる気ないんですか」
「えーと、あの、リーダーの役目から解放されたので、気が抜けているのかしら、あはは」
 
 本当は失恋でやる気ないんだけどさあ。
 ああ、休みたいわ。

 休むも仕事よ。
 あら、いつの間にか、あたしもケンとカイみたいなことを言うようになってきた。

 ああ、空しいわ。

「あの、他の冒険者の方が宿屋の食堂に居たので、ちょっと聞いてみたんです。そしたら、大勢のゴブリンが移動しているのを見たって言ってたんですが」
「あら、そのことをボリスに言ったの」
「はい、報告はしておきました」

 まあ、ゴブリン相手ならボリスが無双して終わりじゃないの。
 あたしはとにかくやる気がないのよ。

 さて、午後に村の近くの畑に行く。

「いいか、たとえ相手がゴブリンでも手を抜かないように」

 でかい斧を持って、辺りを警戒しつつ先頭を歩くボリス。
 久々のモンスター退治で、やる気満々ね。

 その隣をケンがいまいちやる気なさそうに歩いている。
 後ろのカイなんて、あくびしているわ。

 やる気なさそう。
 ローラは少し緊張しているかしら。

 ケイティはいつもの通りニコニコ顔。
 そして、あたしは全然やる気無し。

 途中で廃墟になった遺跡を通り過ぎる。
 なぜか、ボリスが辺りを見回している。

 ケンがボリスに聞いている。

「何か、この遺跡にあるんですか、ボリス」
「うーん、いや、何でもないよ、この廃墟はあまりちゃんと見た事がなかったんでねえ」

 なんだか、廃墟を熱心に眺めているけど、観光気分なのか、ボリスは。

 私は今、心が廃墟なんだけど。

 そして、なぜかアレクッスが言ったことを思い出す。

『私って、毎日男性と寝ないと疲れが取れないんです』

 あたしは男と寝るどころかキスもしたことがないわよ。
 いや、指一本触れたことがないんじゃないの。
 子供の頃のお遊戯とか除いて。

『マリアは二人だけで楽しむのがお好きってわけね、それともお一人かしら』

 うるさい! 相手がいなけりゃ一人でやるしかないじゃん。

『マリアはこういうことにすごく興味あるんでしょ、一度しましょうよ。こういう経験ないから、妙な妄想をして、あなたはいつもイライラしてるのよ。誰でも初めてはあるのよ。女性は一応対象外なんだけど、私がしてあげてもいいわよ。別に大したことじゃないわよ、気にする必要はないわ。気持ちのいいことをするんだから、それであなたも落ち着くわ。あなたのことを心配して言ってるのよ。別に馬鹿にしているわけじゃなくてよ』

 興味あるわよ! 
 けど、相手がいないのよ!

『出し惜しみはあまりよくなくてよ、マリア、仕事にも人生にも、そして恋愛にも』

 何よ、出し惜しみって、全然、出し惜しみなんてしてないわよ。
 相手がいれば、大盤振る舞いしてやるわよ、盛大にボートに乗ってさあ。

 あんな小舟じゃなくて、でっかいマストを広げた巨大帆船でさあ。
 盛大にやりまくってやるわよ。

 って、何を考えているのかしら、あたしは。

 ああ、イライラする。
 けど、なぜ、あたしは恋愛に目を向けなかったのだろうか。

 不思議だ。
 勉強、実家の農業の手伝い、弓矢の訓練。

 全然、男に縁がない。

 けど、まだ大丈夫よね、なにせ、まだ十九才なんだから。
 そうだ! まだ、若いぞ!

 しかし、今までの人生、全く、男性と指一本触れてないってまずいよね。
 ああ、もうすぐ十代が終わってしまうわ。

 輝かしい青春時代が終わってしまう!

 ああ、イライラする。
 お、何か知らないけど、上空を変な鳥が飛んでいるわ。

 あたしはその鳥に向かって、弓矢を構える。
 射るつもりはないけど。
 イライラしているので、思いっ切り両腕に力を入れた。

 イテテ。

 おっと、痛い、ひじが痛いわ。
 あら、矢を放ってしまった。

 矢がすごい勢いでその鳥に当たった。
 墜落してくる。

 ありゃ、かわいそうなことをしたかと思いきや。
 けっこうでかい。

 ドスンッと音がして地面に落ちる。
 なんだかニワトリみたいな外見ね。
 けど、前後に頭がある、変な鳥だなあとあたしが思っているとボリスが驚いている。

「おいおい、マリア、これアムフィシーンじゃないか、最近は滅多に見ないぞ」

 え、なんかすごいモンスターなのかしら。

「こいつは死角がないんだぞ、おまけにこいつに睨まれたら石になってしまうんだ。おい、すごいモンスターを退治したなあ、マリア、相当、実力あげたなあ」

 ローラがあたしに向かって感心しながら言った。

「マリアさんって凄腕なんですね」

 え、違うけど。

 けど、最近、フェンリルを倒したなあ。
 まあ、あの時は、ケイティを助けようと必死だったからだけど。

 けど、あたしの実力じゃあ、倒せないわ、このモンスター。
 実力以上だわ。

 思い出してしまった。

『戦いに出る時、男性はその前にしないほうが実力以上に出せる。女性はした方が実力以上に出せる』

 してないわ、あたし。
 ええ、あたしって男なの。

 いや、ちょっと待てい!

 つーか、その前に一度もやったことないわよ!
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