鋼鉄の処女マリアの冒険

守 秀斗

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第29話:ケンに聞いてみる

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 あたしはケンが寝ている部屋をノックして入った。
 部屋にはケン一人だけだ。

 幸い、カイは、ボリスが借りた例の倉庫にいって、中を整理しているらしい。
 ボリスも村の仕事から、まだ帰ってきていない。

「ねえ、ケン、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん、なんだい」

 さて、何から聞こうかしら。
 とりあえず、先にボリスについて聞いてみよう。

「あのさあ、ボリスって、あなたとカイ、三人でボートの上でしてたじゃない」
「あれ、何で知ってるの」

「部屋の窓から見たのよ」
「なあ、マリア、いくら趣味だからと言って、覗きはやめてほしいなあ」

「覗きじゃないわよ、あたしはそんな趣味は持ってないんだから。偶然見ちゃったの!」
「本当かよ、まあ、ボリスとは遊びみたいなもんだけどね」

 どうも覗きが趣味の変態女って認定されてしまったのか、あたしは。
 ドラゴンキラーからピーピングマリア。
 えらい落ちようね。

「とにかく、ボリスってさあ、男が好きなんじゃないの」
「いや、あの人、各地に愛人がいるみたいだよ、男も女も含めてね」

 なにー! 知らなかった。
 よく各地に一人で行くことがあったけど、愛人巡りをしていたのか。

 本当に、エロ親父じゃないの。

 まだ三十五才だけど。
 いや、三十五才だと、やはりもうオヤジか。

 全く、ろくでもないおっさんね。
 もう、恋愛どころか、すっかり冒険者としての尊敬の念も冷めてしまったあたし。

「ところで何で、マリアはそんなこと聞くの」

 どうしようかしら、ローラをエロ親父から守らなくてはいけないわ。
 この件はケンに言ってもいいだろう。

「あの、秘密にしてくれるかしら。どうもローラがボリスに食事に誘われたみたいで困っているみたいなの」
「ああ、愛人にしたいんじゃないの。あれだけ美人ならね。ボリスってかなりの面食いだからなあ。美女や美男子に目が無いんだよ。だから、ローラが回復魔法がいまいちでも雇ったんじゃないの」

 ふーん、面食いね。
 あたしなんて、全く誘われたこともないけどね。

 そりゃ、ボリスが「モンスター面食い男」じゃあ、あたしなんて相手にするわけないわね。

「けど、ローラからすれば断りにくいじゃないの。雇ってくれた人に対して、あまり強く出られないじゃない。あの人、貧しいらしいし。ボリスのやってることは一種のセクハラよ!」
「うーん、そうだよね。まあ、ボリスも下半身は冷静に行動できないみたいだな、あはは」

 笑ってる場合じゃないでしょうが。
 これはこのパーティーの存続にも関わる重大な事件よ。

「とにかく、これはあたしからボリスに釘をさしてやるわ」
「まあ、その件はマリアにまかすよ。副リーダーだし、気が強いしね」

「それにしても、男も女も愛人にするってろくでもない人ね。せめて、どちらか一方にしろっていいたくなるわ」
「うーん、どうなんだろうねえ。いや、それがさあ、俺も最近ちょっと心境の変化があってさあ」

「え、どういうこと」
「それがさあ、最近、やっぱり俺、女の方が好きなのかなあって思いはじめてさあ。おっと、安心してくれ、マリアのことが好きになったわけじゃないからさ」
 
 何よ、安心しろって。
 あたしは恋愛対象外、いや、そもそも女扱いされてないってことなの。
 失礼ね。

 けど、なんだか事態が複雑になってきたわ。

「まあ、俺は受けだったんだけど。アレックスとやったらさあ、あの人、ほとんど女と変わらないじゃん。それで、なんか気持ち良くてねえ。あれ、もしかして俺って女性の方が好きなのかなあって」
「ちょっと、カイはどうすんのよ」

「いや、カイはいい奴だ。だから友人関係は壊したくない。けど、どうもなあ、やっぱり俺は女性の方が好きなのかもしれないなあ、もともと、女性としてたんだけど、ある日、カイに告白されてさあ、この世界に入ってしまったんだけどね」

「じゃあ、もし誰か女性があなたに告白したら、ケン、あなたはどう答えるの」
「……いや、悪いけど、マリア、君はいい人だけど、うーん、ちょっと俺のタイプじゃないなあ、ごめん」

 ……何だと。

「だから、あたしのことじゃないわよ!!!」
「ああ、そうなの、すまん。そうだなあ、まあ、好きなタイプの女性ならいいかもなあ」

 まったく、このうぬぼれ屋め。
 まあ、確かにケンはかなりのイケメンではあるけど。

 しかし、あれ、じゃあ、ローラにもチャンスがあるってことか。
 けど、ローラの方が勘違いしている可能性もあるのよねえ。
 献身と恋愛の勘違い。

「けど、そうなったら、カイはどうすんの」
「そうなんだよなあ、まあ、その時にならないとわからないなあ」

 うーん、これ以上踏み込んで聞くのはやめとくか。

 とりあえず、ケンの部屋から出て、一旦、自分の部屋に戻って考えるあたし。
 とにかくローラへのセクハラの件はボリスにきつく言ってやらねばいかん。

 そう、考えていたら、ボリスが部屋に入って来た。
 村のお仕事は終わったらしい。

「ああ、マリア、スミスさんの家のスライム退治ご苦労。冒険者ギルドで聞いたんだが、百匹もいたんだって」
「そうですね、まあ、最弱スライムですから、簡単でしたけど」

「それで、例の図面はどうした」
「ああ、ちゃんと書きましたよ」

 あたしはスミスさんの豪邸の地下室で書いた図面を持ってきて、ボリスに見せる。

「おお、なかなか、よく書いてあるじゃないか」

 カイがもうやめようって言ったから、最後の方は適当な図面だけどね。
 けど、なぜかボリスはじっくりと図面を見ている。

「廊下しかない変な地下室だったんですけど」
「そうか、まあ、これは練習だからな」

 すると、ケイティがボリスに近づいてきた。

「あの、これ、スミスさんからいただいたチョコの詰め合わせなんです。ボリスさんもおひとついかがでしょうか」
「おお、実は俺、甘いものが好きなんだ。ありがとう、ケイティ」

 そして、チョコの詰め合わせの入った箱や紙袋をしげしげと見ているボリス。

「あ、これはかなり高級なチョコレートじゃないか。ブランドものだぞ。スミスさんも甘い物好きなのかなあ」
「そうみたいですよ、自分でも甘い物が好きだって言ってました」

「スミスさんって、どんな人だったんだ」
「六十代くらいの、白髪頭で背の高いやさしい感じの人でした」

 なぜかチョコの包装紙を眺めながら、感心しているかのような態度のボリス。

「これは外国製のチョコレートだぞ、サルバンテス王国の有名チョコブランド品だなあ」
「アルファポリス王国にも有名なブランドチョコがありましたよねえ」
「そうなんだよな、このチョコのライバル社だな」
 
 なんだかチョコ談義で盛り上がるボリスとケイティ。
 チョコの話をしている場合じゃないぞ、我がパーティーは。

 さて、チョコやらスライム退治のことより、ボリスに言わなくてはいけない。

 何から言おうかしら。
 とりあえず、ケイティの件を言うか。

「ちょっと、ボリス、大事な話があるんで、一階のロビーに来てよ」
「ああ、いいよ」

 一階に下りて、玄関前のロビーにあるソファに座る。
 あたしはケイティの駆け落ちの件を話した。

「おいおい、十三才で駆け落ちかよ。ケイティもいつの間にか大人なったんだなあ、ガハハ」

 豪快に笑うボリス。
 以前はこの豪快な笑いも頼もしく映ったものだが、今は、おっさんが威張っている風にしか見えない。
 ああ、恋は盲目だったのね。

 今やボリスもただのエロ親父。
 まだ、三十五才だけど。
 いや、やっぱり三十五才は親父かな。

「それで、ボリス、あなたはこのベスタ村でけっこう一目置かれているじゃない。だから、サム君の親御さんを説得してほしいの。ケイティちゃん、いい娘じゃないの。あたしと一緒に地主さんの家に行ってほしいんだけど」
「いや、それはまずいなあ」

「え、なんで」
「俺のあの地主の奥さんに嫌われているんだよ」

「どういうこと」
「いやあ、ちょっと食事に誘ったことがあってさあ。あの奥さん、まだ若くてさあ。独身と思ったんだけどなあ。まさか、地主の奥さんとは思わなかったよ、ガハハ」

 やれやれ。
 全く、本当にとんだエロ親父だなあ。

 もう、すっかり幻滅。
 こうなったら、ローラの事も言ってやる。

「あのさあ、あなたにローラも食事に誘われたようなんだけど」
「え! いやあ、彼女もまだ新人だしさあ、リーダーとして、心配してるんだよ。何だか回復役としての技量について本人が悩んでいそうだからさあ」

「雇ってくれた人から誘われたら断りづらいじゃないの。これはセクハラよ、ボリス」
「いやいや、そんな下心はないぞ。あくまで、リーダーとして心配しているんだよ」

「じゃあ、あたしやケイティ、ケンとカイも連れていってくれるかしら、その高級レストランへ」
「うーん、わかったよ。今度連れていくよ、パーティー全員でな、ガハハ」

 ああ、疲れた。
 しかし、本当に連れて行ってくれるのかしら、このおっさんは。

 けど、ケイティの件、どうしようかなあ。
 ボリスを連れて行ったら、逆効果になるのか。

 仕方がない、あたし一人で行くしかないわね。
 ただ、いきなりあたしが行っても相手にしてくれるわけないか。

「ねえ、ボリス、あなたからうまく村長さんを通じて、サム君の親に言ってくれないかしら。あたしがケイティについて伺うってことを」
「おう、まかしとけ、ガハハ」

 大丈夫かなあ、このエロ親父に頼んで。
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