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第35話:ケイティの秘密
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政府の諜報員を名乗るボリスさんがケイティの本当の身分を明かした。
「ケイティさんの本名はアレクサンドラ・サルバンテスと言うんですよ。サルバンテス王国の王族の方ですね」
ケイティがなぜか恥ずかしげに、あたしらにペコリと頭を下げた。
何よ、その偉そうな名前は。
ええ、どうなってんの。
あたしはびっくりして、ボリスさんに聞いた。
「あの、サルバンテス王国の王族は全員、アーチボルトに殺害されたって聞きましたけど。いえ、確か、一人だけお姫様が生き残って、ドラゴンを撃退したけど、結局、その後、病死されたって」
「世間的にはそうですね。けど、実はもうお一人生き残っておりまして、その時、まだ生後ゼロ歳のケイティ、いや、アレクサンドラ様は秘かに召使に抱えられて、サルバンテス王国の城の地下道から脱出、我がアルファポリス王国に保護されたんです」
あら、本格ファンタジー小説みたいな設定ね。
「でも、何で浮浪者に預けるんですか、お姫様を」
「アルファポリス王国の王宮で匿うと、アーチボルトの残党が殺害に来るかもしれないとなって、浮浪者に育てたということにしたんですよ。実際は、その浮浪者は諜報部の職員でした。周りの浮浪者たちも全員そうですね。みんなでアレクサンドラ様を守っていたわけです。そして、いつの日かアーチボルトが活動を再開させた時のために、いろんな武器を訓練していただいたわけです」
あらま、浮浪者との生活で苦労したと思っていたけど、実は大切にされていたのね、ケイティは。いえ、アレクサンドラ様は。
けど、なんだかアレクサンドラって言いにくいわね。
偉そうで。
「けど、そのケイティが何で秘密兵器なんですか」
「魔石を破壊してドラゴンを倒せるのはサルバンテス王国の血筋の方だけのようなんです。そして、その専用の武器もあります」
ボリス諜報員が黒いごっついカバンを開けた。
黄金色のナイフが二本入っている。
「これは魔力が封じ込められているナイフです。弓矢の先端に付けて、前回、最後に残った姫様がドラゴンの魔石に矢を当てて、何とか撃退したんですよ」
「あれ、その時、魔石に当てたけど、結局、ドラゴンは倒せなかったんじゃないですか」
「十三才の方でしたし、普段はほとんど弓矢とか武器を触ったこともない方でしたからね。このナイフは十本あったんですけど、八本を弓矢で射って、やっと一本だけ当てたそうですね。ただ、力が弱くて、魔石にひびが入っただけみたいだったようです。それで、ドラゴンがおかしくなって、制御不能になって、どっかへ行ってしまった。それを見て、アーチボルト一味がうろたえているところを、軍隊が連中を殲滅したみたいですね。本当はその矢が魔石を壊してドラゴンの喉元に刺されば完全にドラゴンを倒せたんですけど」
「ああ、だから、ケイティに弓矢の練習をさせてたんですね。と言うか、もう百発百中って感じでしたけど」
「はい、だからもし今回アーチボルトがドラゴンを召喚して魔石を使って、ドラゴンを操作しようとしても、我が国の秘密兵器ケイティ、いや、アレクサンドラ様がいれば倒せるってことです」
そうなのか。
ケイティは大変な役目を背負ってしまったわけか。
王国の運命を背負ってしまった。
いや、ケイティじゃないや、アレクサンドラ様か。
そして、その高貴なお姫様のお鼻を毎晩、あたしはつまんでいたのか。
下手すりゃ、不敬罪で死刑ね。
これも黙っていようっと。
「そう言うわけで、すでにスミスの邸宅、いや、アーチボルトの家は包囲してありますので、私はそちらへ行きます。皆さんは明日までにはこの村から退去するのをお勧めします」
そこに、ケンがボリス諜報員に訴えた。
「ケイティは俺たちの仲間ですよ。俺たちも腐っても冒険者なんだから、そのドラゴン討伐に参加させてくださいよ」
「いや、申し訳ないが、もう軍隊が来るので冒険者の方々には、ちょっとご遠慮願いたいですね」
確かに、ドラゴンが来るかも知れないっていうのに、このしょぼくれたパーティーがいても何の役にも立たないな。
けど、ケイティ一人を参加させるってのもねえ。
「あの、ボリスさん、遠くから見るだけでもいいですか」
「ああ、それは別にかまわないけど、充分注意してくださいよ」
そして、ボリス諜報員はケイティに言った。
「明日はドラゴンを相手にするかもしれないんですよ。はっきり言ってしまうが、死ぬかもしれない。しかし、怖いかもしれないがアレクサンドラ様が唯一ドラゴンを倒せるんだから、よろしく頼みます。明日、朝にアレクサンドラ様を迎えに来ますので、今日はこの宿屋でゆっくりとしてくれませんか」
「はい、わかりました」
そう言いながらも、少し青い顔をしているケイティ。
大丈夫かしら。
こんな女の子に。
まあ、これも貴族の血筋に生まれた運命って感じがするわ。
それに、今までの冒険でわかったけど、この娘、かなりの度胸があるし。
あれ、けど、何かおかしいわね。
あたしもドラゴンを倒したのよ。
それも安物の弓矢で。
なんでだろう。
魔石を破壊してドラゴンを倒せるのはサルバンテス王国の血筋の方だけじゃないのかしら。
あたしもサルバンテス王国の末裔なの。
そんなことないわよねえ。
まあ、あの時は確か、サルバンテス王国のお姫様が魔石にキズをつけるのに成功したから、あたしが射った矢がその隙間にでも挟まって割れたのかしら。
あれ、けど、ドラゴンも墜落死したぞ。
あたしの安物の矢が刺さって死んだぞ、あのドラゴンは。
過労死ですかね。
まあ、考えても仕方がないか。
その夜。
何だか大変なことになったなあ。
眠れないわ。
隣のケイティあらためアレクサンドラ様もいびきをかいていらっしゃらない。
つーか、アレクサンドラって長すぎる。
ケイティでいいや。
本人も気にしないでしょ。
まあ、あたしとしては遠くから見守っているしかないよねえ。
なにせ軍隊が来るんだから。
あたしら貧相な冒険者パーティーには全く出番はないわね。
蚊帳の外ね。
あたしの恋愛と一緒ね。
そんなわけで寝た。
夜中に起きる。
習慣になってしまった。
あれ、ケイティがいない。
と思ったら、扉が開いて、ケイティが戻ってきた。
トイレにでも行ったのかしらね。
まあ、明日はアーチボルトやドラゴンとの決戦があるかもしれないから緊張しても仕方がない。
眠れないのかしら。
けど、ケイティならドラゴンもイチコロって感じがするわ。
今までも、大物モンスターを片端から倒したもんねえ。
まさに「選ばれし者、恍惚と不安、我にあり」って感じかしら。
けど、あたしもドラゴンを倒したことあるのになあ。
あの時は選ばれし者って感じだったけどねえ。
今や、「選ばれない者には不安だけ、我にあり」って感じね。
恋愛でも、誰もあたしを選んでくれないし。
あたしの将来どうなんのって、不安ばっかりよ。
恋愛、恋愛ってしつこいかしらね。
いいや、アーチボルトやドラゴンは軍隊にまかせよっと。
あたしは、もう寝るわ。
「ケイティさんの本名はアレクサンドラ・サルバンテスと言うんですよ。サルバンテス王国の王族の方ですね」
ケイティがなぜか恥ずかしげに、あたしらにペコリと頭を下げた。
何よ、その偉そうな名前は。
ええ、どうなってんの。
あたしはびっくりして、ボリスさんに聞いた。
「あの、サルバンテス王国の王族は全員、アーチボルトに殺害されたって聞きましたけど。いえ、確か、一人だけお姫様が生き残って、ドラゴンを撃退したけど、結局、その後、病死されたって」
「世間的にはそうですね。けど、実はもうお一人生き残っておりまして、その時、まだ生後ゼロ歳のケイティ、いや、アレクサンドラ様は秘かに召使に抱えられて、サルバンテス王国の城の地下道から脱出、我がアルファポリス王国に保護されたんです」
あら、本格ファンタジー小説みたいな設定ね。
「でも、何で浮浪者に預けるんですか、お姫様を」
「アルファポリス王国の王宮で匿うと、アーチボルトの残党が殺害に来るかもしれないとなって、浮浪者に育てたということにしたんですよ。実際は、その浮浪者は諜報部の職員でした。周りの浮浪者たちも全員そうですね。みんなでアレクサンドラ様を守っていたわけです。そして、いつの日かアーチボルトが活動を再開させた時のために、いろんな武器を訓練していただいたわけです」
あらま、浮浪者との生活で苦労したと思っていたけど、実は大切にされていたのね、ケイティは。いえ、アレクサンドラ様は。
けど、なんだかアレクサンドラって言いにくいわね。
偉そうで。
「けど、そのケイティが何で秘密兵器なんですか」
「魔石を破壊してドラゴンを倒せるのはサルバンテス王国の血筋の方だけのようなんです。そして、その専用の武器もあります」
ボリス諜報員が黒いごっついカバンを開けた。
黄金色のナイフが二本入っている。
「これは魔力が封じ込められているナイフです。弓矢の先端に付けて、前回、最後に残った姫様がドラゴンの魔石に矢を当てて、何とか撃退したんですよ」
「あれ、その時、魔石に当てたけど、結局、ドラゴンは倒せなかったんじゃないですか」
「十三才の方でしたし、普段はほとんど弓矢とか武器を触ったこともない方でしたからね。このナイフは十本あったんですけど、八本を弓矢で射って、やっと一本だけ当てたそうですね。ただ、力が弱くて、魔石にひびが入っただけみたいだったようです。それで、ドラゴンがおかしくなって、制御不能になって、どっかへ行ってしまった。それを見て、アーチボルト一味がうろたえているところを、軍隊が連中を殲滅したみたいですね。本当はその矢が魔石を壊してドラゴンの喉元に刺されば完全にドラゴンを倒せたんですけど」
「ああ、だから、ケイティに弓矢の練習をさせてたんですね。と言うか、もう百発百中って感じでしたけど」
「はい、だからもし今回アーチボルトがドラゴンを召喚して魔石を使って、ドラゴンを操作しようとしても、我が国の秘密兵器ケイティ、いや、アレクサンドラ様がいれば倒せるってことです」
そうなのか。
ケイティは大変な役目を背負ってしまったわけか。
王国の運命を背負ってしまった。
いや、ケイティじゃないや、アレクサンドラ様か。
そして、その高貴なお姫様のお鼻を毎晩、あたしはつまんでいたのか。
下手すりゃ、不敬罪で死刑ね。
これも黙っていようっと。
「そう言うわけで、すでにスミスの邸宅、いや、アーチボルトの家は包囲してありますので、私はそちらへ行きます。皆さんは明日までにはこの村から退去するのをお勧めします」
そこに、ケンがボリス諜報員に訴えた。
「ケイティは俺たちの仲間ですよ。俺たちも腐っても冒険者なんだから、そのドラゴン討伐に参加させてくださいよ」
「いや、申し訳ないが、もう軍隊が来るので冒険者の方々には、ちょっとご遠慮願いたいですね」
確かに、ドラゴンが来るかも知れないっていうのに、このしょぼくれたパーティーがいても何の役にも立たないな。
けど、ケイティ一人を参加させるってのもねえ。
「あの、ボリスさん、遠くから見るだけでもいいですか」
「ああ、それは別にかまわないけど、充分注意してくださいよ」
そして、ボリス諜報員はケイティに言った。
「明日はドラゴンを相手にするかもしれないんですよ。はっきり言ってしまうが、死ぬかもしれない。しかし、怖いかもしれないがアレクサンドラ様が唯一ドラゴンを倒せるんだから、よろしく頼みます。明日、朝にアレクサンドラ様を迎えに来ますので、今日はこの宿屋でゆっくりとしてくれませんか」
「はい、わかりました」
そう言いながらも、少し青い顔をしているケイティ。
大丈夫かしら。
こんな女の子に。
まあ、これも貴族の血筋に生まれた運命って感じがするわ。
それに、今までの冒険でわかったけど、この娘、かなりの度胸があるし。
あれ、けど、何かおかしいわね。
あたしもドラゴンを倒したのよ。
それも安物の弓矢で。
なんでだろう。
魔石を破壊してドラゴンを倒せるのはサルバンテス王国の血筋の方だけじゃないのかしら。
あたしもサルバンテス王国の末裔なの。
そんなことないわよねえ。
まあ、あの時は確か、サルバンテス王国のお姫様が魔石にキズをつけるのに成功したから、あたしが射った矢がその隙間にでも挟まって割れたのかしら。
あれ、けど、ドラゴンも墜落死したぞ。
あたしの安物の矢が刺さって死んだぞ、あのドラゴンは。
過労死ですかね。
まあ、考えても仕方がないか。
その夜。
何だか大変なことになったなあ。
眠れないわ。
隣のケイティあらためアレクサンドラ様もいびきをかいていらっしゃらない。
つーか、アレクサンドラって長すぎる。
ケイティでいいや。
本人も気にしないでしょ。
まあ、あたしとしては遠くから見守っているしかないよねえ。
なにせ軍隊が来るんだから。
あたしら貧相な冒険者パーティーには全く出番はないわね。
蚊帳の外ね。
あたしの恋愛と一緒ね。
そんなわけで寝た。
夜中に起きる。
習慣になってしまった。
あれ、ケイティがいない。
と思ったら、扉が開いて、ケイティが戻ってきた。
トイレにでも行ったのかしらね。
まあ、明日はアーチボルトやドラゴンとの決戦があるかもしれないから緊張しても仕方がない。
眠れないのかしら。
けど、ケイティならドラゴンもイチコロって感じがするわ。
今までも、大物モンスターを片端から倒したもんねえ。
まさに「選ばれし者、恍惚と不安、我にあり」って感じかしら。
けど、あたしもドラゴンを倒したことあるのになあ。
あの時は選ばれし者って感じだったけどねえ。
今や、「選ばれない者には不安だけ、我にあり」って感じね。
恋愛でも、誰もあたしを選んでくれないし。
あたしの将来どうなんのって、不安ばっかりよ。
恋愛、恋愛ってしつこいかしらね。
いいや、アーチボルトやドラゴンは軍隊にまかせよっと。
あたしは、もう寝るわ。
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