潮風と夏祭りと、あの日届かなかった声

東京での仕事と恋に疲れて、逃げるように故郷へ帰った日和。
3ヶ月だけのつもりだった——10年ぶりに再会した幼馴染の蓮が、あんな男になっていなければ。

見上げなければ目が合わない身長差。低くなった声。大人の手。
なのに頭を撫でる癖だけは昔のままで、その手が触れるたび、体が勝手に反応する。

蓮は何も言わない。ただ隣にいて、昔の距離感で笑って、日和の好きなものを十年前のまま覚えている。
——それが「優しさ」じゃなく「想い」だと気づいた時、もう引き返せなかった。

「あの約束、まだ覚えてる?」
夏祭りの夜、蓮の声が震えた。届かなかったあの日の言葉が、十年の重さを纏って降ってくる。
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