明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄

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心霊探偵はエレガントに〜karma〜

Nightmare/8

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 涼介は両手で白いローブの肩を持ち上げるように押し返した。

「待った! お前、男だろう」

 思いっきり拒絶されると、男はまた春風みたいにふんわりと微笑んで見せて、可愛く小首を傾げた。

「So, are there any problems?/だから、どうしたの?」

 平然と聞き返されて、黒い髪が涼介の顔に次々に落ちてきた。顔を左右に振りながら、払いのけようとする。

「問題、大アリだろう!」

 反論という熱いものも、舞い散る桜の花びらのふりして、雪が降っているようにあっという間に威力をなくしてゆく。

「Why?」
「いや、何で普通に聞き返してるんだ?」

 長い黒髪を縛っていた金の髪飾りがとかれると、男と涼介の間で言葉の応酬が始まる。

「『Such a person』maybe sensational?」
「な、何を言ってるんだ?」

 不思議なことに、涼介は男が何を話しているか、わからなくなっていた。男はシーツに顔を埋めるように近づき、耳元でそっとささやく。

「Why do you think so?」
「今度は何だ?」
「『Such a person』maybe gay?」

 ラピスラズリの腕輪をした手が下へ落ちてゆき、綺麗な男の指先は、涼介のベルトに引っかけられた。

「どうして、急にわからなくなったんだ?」

 魔法にでもかけられたように、昼は夜にとって変わった。銀の月明かりがベッドに斜めに差し込む。

 女性らしさの象徴である長い髪は、慣れた感じでかき上げられ、魔除のローズマリーの香りが体の奥深くをビリビリと刺激する。

「Do you wanna know it?」
「わかる言葉で答えろ」

 蛍火のような淡い桃色の光が、ふたりだけの寝室に飛び回り始めた。男は少しだけ体を離すと、聡明な瑠璃紺色の瞳には、色情という感情はどこにもなかった。

 そうして、くすりと笑って、

「Why didn't you ask so me first?」
「ん?」

 涼介はまた急に、男の言葉がわかるようになっていた。しかしその内容は、なぜ、最初からそう聞かなかったのか、だった。

 淡い桃色の光を頼りに、男の白いローブをよく見ると、金糸の刺繍が施されていた。

 涼介は落ち着きなく視線をあちこちに向けるが、薄闇が幻想的に広がるだけだった。

「何をしてる?」
「Wadaya think happened?」
「何が起きたんだ?」
「Everything maybe a matter of possibility?」
「全ては可能性?」

 どこかで誰かが言っていたような言葉が出てきたが、ベッドに未だ押し倒されている涼介には考える余裕などなかった。

 男は夜色に染まってしまった、涼介の髪を指にくるくると絡ませて弄ぶ。

「Have you not noticed yet?」
「何に気づかないんだ?」
「My attitude from the beginning was strange」
「お前の態度が最初からおかしい?」

 心臓がバクバクと高鳴り出す。自分の中の勘が教えるのだ。この男は危険人物だと――。

 しかし、涼介は同時にこうも思うのだ。どこかで同じことに出会ったことがあると。

 そんなことをしているうちに、男は涼介の髪から手を離した。

「Restraint!」
「んっ! んんっ! う、動けない……」

 手足どころか、指の先さえもいうことが効かなくなってしまった。焦り出す亮介とは対照的に、男は瞬間凍結させるような冷たい瞳で、真摯な眼差しで静かに問いかけた。

「Did you notice this time? Wadaya think happend?」

 体の感覚を全て切断されたみたいに、涼介は何も感じられないどころか、声も出なくなっていた。

(ど、どうなってるんだ?)

 男は何かを諭すように言う、無防備にベッドに横たわったままの涼介に。

「If I’m an enemy, what were you gonna do?」

 世界がぐるぐると回り出す。
 部屋が回る。
 空が回る。
 淡いピンクの明かりが回る。
 風が回る。
 男の聡明な瑠璃紺色の瞳を軸にして、ぐるぐると回り出す。

 何が起きているのかわからないまま、涼介にとどめを刺すような言葉が浴びせられた。

「You’re killed by me」
 キミはボクに殺される――。

 人間の生存本能が最後の言葉を翻訳した。吐き気がするほど、まだぐるぐると回り続ける中で、涼介は目を閉じた。真っ暗になった視界の中で、

「……maybe?」

 男がくすりと笑う息遣いが唇を微かに触れて、夢はそこでぷつりと途切れた――
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