第八皇子は人質王子を幸福にしたい

アオウミガメ

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第弐部-Ⅱ:つながる魔法

110.日向 うんといい

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僕は学院の学生になった。
きょうじゅのもぐらの帝国史と、うららのえんしゅうと、なかつのの魔法をやる。
学院で一番小さい学生。

みんなはもぐらの授業をすらすら書くけど、僕はできない。
うららのえんしゅうをみんなは一人でできるけど、僕はできない。
僕の魔法は、誰とも同じじゃなかった。

くやしいね。
僕が小さいも、できないも、ちがうもぜんぶくやしい。

でもうれしかった。
しおうととやと同じ学生。あずまもいっしょ。
ほかの学生と同じことを、僕も一緒にやった。
ちょっとだけど、でも同じが、僕はうれしい。

だけど、やっぱり僕はうまくいかないね。





「また、ねつ、」

僕がいぐもの畑でかぶを引っこ抜いたら、頭がぐらぐらした。
かぶを引っこ抜いたまま、僕が土の上でごろごろしたら、はぎながびっくりして部屋に連れて帰る。
また熱が出て、僕は隠れ家で丸くなった。

「今日は朝から頑張りましたから、」
「もっと、やりたいのに、」
「十分ですよ。文字の練習も、魔力の鍛錬も、柘榴の世話も、カブの収穫もできたでしょう?」

はぎなは、がんばったね、って僕の頭をなでるけど、僕はくやしかった。
僕はちょっとずつしかできるにならないから、いっぱいやりたいのに、いつもできない。
できるがうれしかったのに、またくやしい。仕方ない。
僕の手をぎゅうってする代わりに、うさぎをぎゅうってしたら、はぎなは今度は僕の手をなでた。

「はぎなの、先祖の話、」
「帝国史の予習は、また明日にしましょう、」
「昨日も、また明日って、言った、その前も、」

はぎなが困るが分かるのに、僕はわがままが我慢できない。

「寝るから、お話、する、お願い、」
「子守歌代わりになるような話じゃありませんよ、」
「いい、」

仕方ありませんね、ってはぎなは眉を下げて隠れ家の前に座った。
ごめんね、はぎな。でもやりたい。

はぎなの先祖は、金色の戦士。
はぎなの黄色の目が、時々金色になるは、先祖が金色の戦士だから。
悪い神さまをたおした、金色の戦士。

神さまは、僕としおうの先祖と同じ?って聞いたら、どうでしょう、ってはぎなは言う。
悪い神さまは、黒いからすを連れた黒い神さまだったから、ちがうかもしれない。でも、がくしゃの中には、うんと昔は西佳と尼嶺は同じ国だったから、別れる時のたたかいが、金色の戦士のたたかいだったって言う人もいる。

「尼嶺の神さまは、悪い神さま?」
「良いか悪いかは、見る人によって変わります。尼嶺にとって良い神でも、西佳にとって良くなかった。そういうことは、たくさんありますからね、」
「僕も、同じ、」
「日向様が、ですか、」

僕が学院に行ったを、はぎなは喜んだね。とやもあずまも。
しおうはしんぱいになったけど、でもうれしい、って言った。


「僕が、学院に通うは、ずるい、」


「…誰が、そのようなことを、」
「学院で、聞いたよ、」
「しおうと、とやと、はぎなと、あずまには、良いけど。悪いもある。神さまと同じ、」
「お一人で、ずっと考えていらしたんですか、」
「んーん、」

ずっとは考えない。
だって、学院はうれしいがいっぱいあったし、僕ができないは仕方ない。
ずるい、もきっと僕ができないせい。仕方ない。

「日向様は留学のために帝国へ来ました。元々、学院には籍を置いていますから、通う権利をお持ちです。ずるいことなどありません、」
「うん、見る人に、よって、変わる、だね、」
「…学院へ通うのが、嫌になりませんか、」
「ならない、だいじょぶ、」
「殿下ではありませんが、日向様の大丈夫は、私もあまり信用できません、」

はぎなが言うから、僕は笑った。
この間、しおうのしんぱいがかなしくて僕が泣いた時はしおうに叱ったのに、今ははぎながうんとしんぱい。
ごめんね、はぎな。

でも、大丈夫。

くやしいけど、できるが増えるが僕はうれしい。
僕は悪いもあるけど、はぎなは良いって言う。
僕ができないは、もうわかったから、僕はくやしくても、ちょっとずつやる。

うんといい。
何もできなかった時より、今はうんといい。

「くらより、いい、」

うんとやさしく頭をなでたはぎなの手が冷たくて、気持ちよかった。
大丈夫、って言ったけど、声はでなくて、僕は寝る。



くらの夢を見た。


真っ暗で、寒くて、一人ぼっちの場所。
僕はすみっこで小さくなって、足音が聞こえませんように、って祈ってた。
くもがかさかさ歩いて、時々、ねずみがちゅうって鳴く。
小さい窓から見える空が暗くなって、ほーほーが鳴いて、夜中になったら、もう誰も来ない。

そしたら、くらの重い扉を押して、ご飯をさがした。
扉は開いてる時もあるけど、開かない時もある。
開かなかったら、ご飯は食べない。何日も開かなかったら、僕は真っ暗になる。

今日は開いたね。
頑張って押して、くらから出たら、月がまん丸だった。
明るいは困る。僕は見つかるかもしれない。

でも、お腹が空いた。

見つけないで、誰も僕に気づかないで。

うんと耳を澄まして、ぜんぶ聞き逃さないように歩いたら、うんと向こうから足音がするがわかった。
おぼろだ。
おぼろの足音。

どうしよう、って思ったのに、僕は動かない。

足音が近くなって、影が見えて、黒い影が、僕に手を伸ばす。
玩具をしまい忘れたな、っておぼろが言った。
動かない僕を引きずって、くらに持っていく。

助けて、しおう。
助けて、とや。
助けて、はぎな。


そう思ったら、僕をぎゅうって、しおうが抱っこした。
大丈夫だよ、ってしおうが言うと、昼になる。
太陽の神さま。

おぼろが何か言ったら、はぎながおぼろをやっつけた。
金色の戦士。

僕がびっくりする間に、おぼろは消えて、くらも消えて、離宮に帰った。



「…どんな夢を見てたんだ、」

目が開いたら、隠れ家の扉が開いて、しおうが不思議な顔で僕を見てた。
なあに、って聞くと僕の額にくっついた髪をしおうがはがす。

「うなされてると思ったら、急に笑うからびっくりした、」
「覚え、ない、」
「忘れたか、」
「うん、」

夕食を食べるか、ってしおうが言うから隠れ家をでたら、外が真っ暗だった。
ホーホーが鳴いていて、僕は少し怖いになる。

「つらいか、」
「んーん、だいじょぶ、」
「お前の大丈夫は信用ならないんだって、」
「しおうがいたら、だいじょぶだった、」
「そうか、」

うつぎが僕を着替えたら、しおうの膝でご飯を食べた。
黄色のスープと、白いパン。
僕はちょっとぼんやりしたから、しおうが僕の口にぜんぶ入れた。
食べたら、えらいなって頭をなでた後、しおうは僕をぎゅうってする。


「…お前は、本当に何でも聞いてるんだな、」


なあに、って聞いたら、はぎなから聞いたよって言った。

「学院の嫌な噂を、お前の耳に入れたくはなかった、」
「だいじょぶ、」
「大丈夫じゃないから、熱が出るんだろ。頼むから、お前が辛いことはちゃんと教えて。俺が心配するのが嫌なのはわかるけど、何も知らずに後で知らされるのは、もっと心配になる、」
「だいじょぶ、だよ、」
「日向、」
「うれしいがいっぱいで、わかんなかった。はぎなとしゃべったら、思い出した、けど、おぼえなかった、」

しおうのけはいが、うんとたくさんしんぱいになるから、僕はかなしくなる。
しおうがしんぱいするは、僕が大好きだからって分かるから、うれしいはずなのに、僕は今はかなしい。

大丈夫だよ、しおう。
くらより、うんといい。


「だいじょぶ、」


泣きそうなしおうをなでて、ちゅうってした。
しんぱいしないで、しおう。


学院で、僕は一番小さかったけど、学生になれた。
みんなみたいに、すらすら書けないけど、書けるが増えた。
えんしゅうを一人でできないけど、今日はざくろの世話をはぎなとしたよ。
魔力を抑える鍛錬が、僕はうんと上手になったって、たちいろもほめた。

くやしいがいっぱい。
でも、うれしいもいっぱい。
うまくいかないもいっぱいあるけど、きっと大丈夫。

できないより、うんといい。
くらより、うんといい。
だから、大丈夫。


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