寝癖と塩と金平糖

三冬月マヨ

文字の大きさ
上 下
70 / 124
僕から君へ

贈り物【十一】

しおりを挟む
 風呂から上がり、浴衣に着替えた瑞樹みずきは敷いた布団の上で正座をして、カチカチに固まっていた。
 首にある襟巻きをひたすらに指先で弄り倒している。
 男同士の交わり方は、みくと天野から教わった。天野は瑞樹達に背中を向け部屋の隅で膝を抱え、そこに顔を埋めていたが。
 とにかく、受け入れる側の身体の負担が大きいと。だから、準備は入念に、と。
 未だ先の事と、瑞樹は思っていた。
 自分が強くなったら、そう自信を持って言える日が来たのなら、その時にと思っていた。
 それが、まさか、こんな突然にやって来るとは思ってもみなかった。

「…ケツに挿れるんだよな…」

 そっと腰を浮かし、そろそろと浴衣の上から尻穴に指を近付けて行くが。

「…無理…っ…!!」

 瑞樹は顔を赤くして、パッと尻から手を離して、顔面から布団に倒れ込んでしまう。

「怖い怖い…」

 右手は布団を掴み、左手では襟巻きを掴み、瑞樹は布団の上で藻掻く。

 こんな処に、優士ゆうじのアレが挿入はいるとか無理だろう?
 天野副隊長は身体がデカいから良いけど、俺、普通だし。

 と、バシバシと右手で布団を叩いてふと気付く。

「…そう云えば…優士のアレ…今はどれぐらいの大きさなんだろ…」

 幼い頃は、一緒に風呂に入ったりもした。
 同じ様な大きさだったと思う。
 思うが、成長した今も、同じ大きさとは限らないのだ。

「…取り敢えず…優士が来たら見せて貰おう…」

 それからどうしようか決めよう…。

 と、途轍もなく及び腰になっていた処で、カチャリとした音が玄関から聞こえて来た。
 その音に布団の上で蹲っていた瑞樹が慌てて上体を起こし、再びカチカチに固まって正座をした。

「…待たせたな」

 呟きながら玄関の戸を開け、顔を覗かせた優士の顔は赤い。風呂上がりだからだろうか? それとも瑞樹と同じ様に緊張をしているからなのか。
 急ぐ訳でもゆっくりとした訳でもない動作で、優士が顔だけで無く、全身も顕にする。濃い藍色の浴衣の合わせ目から除く首元も、赤く染まっている。手には風呂敷包みと雪緒ゆきおから渡された紙袋がある。風呂敷の方は着替えだろう。
 何故だか、それが艶めかしく思えて、瑞樹は咄嗟に下を向いた。
 再びカチャリと音がして、戸が閉められ鍵が掛けられたのだと瑞樹は悟った。

「…緊張しているのか?」

「…そりゃ、するだろ…あの…灯り…消してくれよ…」

 布団の傍まで来た優士の裸足の足を見ながらもごもごと言えば、カチリと音がして、灯りは頼りない橙色の豆電球だけとなった。

「…暗いな」

 優士は呟いて窓際まで歩いて行き、閉じられたカーテンを開けた。そうすれば、白い月の光が薄暗い室内を照らす。

「…っ、だ、誰かに見られたら…っ…!!」 

「ここは二階だ。誰が見ると言うんだ?」

 咄嗟に顔を上げて瑞樹がそれを咎めれば、優士は何て事の無い様に、塩な声で言った。

「う"」

 喉を詰まらす瑞樹に優士は軽く肩を竦め、窓から離れて敷かれた布団の傍へと歩いて行く。

「良いか?」

 こくりと瑞樹が頷けば、優士は布団に上がり身体を固くする瑞樹の正面へと腰を下ろした。瑞樹と同じ様に脚を揃えてきっちりと正座をする。

「あまり緊張しないで欲しい。楽にしてくれ」

「お、う、あ、う、ん」

 カッチカチに固まった瑞樹は、優士が目の前に座った事で、更にガチガチになり、顔を上げる事も出来ない。右手は膝の上できつく握られ、左手では襟巻きを忙しなく弄っている。

「…瑞樹」

 緊張を解す方が先かと、優士は瑞樹の頬を両手で包んだ。

「ん、な、んりゃ?」

 固くなった頬を緩ませ様と、包んだ掌に優士が力を入れれば、瑞樹の唇がひょっとこの様に押し出された。

「ひゅ、じゅ~~~~~~っ!?」

 う"じゅる"う"ぅぅぅ~と、音を立てて瑞樹の唇が優士の口に吸われて行く。
 月明かりと、橙色が混じった灯火の中で。
 ちゅぽんと音を立てて優士が口を離せば、瑞樹は顔を真っ赤に染め上げ、襟巻きを口元まで手繰り寄せて、目に涙を浮かべてくぐもった声を出す。

「んが、んが、んがっ!!」

 はっきりとした言葉にはなっていないが、不満はありありと伝わって来る。
 恐らくは情緒が無いとか言いたいのだろうが、緊張を解すのに情緒もへったくれもない。

「緊張は解けたか?」

「いくらなんでも吸引は無いだろっ!!」

 するりと両頬を撫でてから手を離す優士に、瑞樹は襟巻きから手を離して、両手で優士の襟元を掴んで引っ張る。
 情緒も何も無いこの塩に、仕返しをしてやろうとしたのだが。

「んなっ!?」

 瑞樹の頬から離れた優士の手は、さわさわと瑞樹の内腿を撫でていた。

「…こちらはまだ緊張中か…?」

 内腿を撫でていた手は鼠径部そけいぶを這い、やがて、まだ柔らかいそこへと触れた。

「ゆ、じ…っ…!!」

 その探る様な動きに、瑞樹の身体が揺れる。
 優士の手を想像しながら自身を慰めていたが、実際に着物の上からとは云え、触られるのは初めての事だ。
 前戯も当然教わったが、話に聞くのと実際にされるのとでは、訳が違う。

「…硬く…なって来たか?」

(いや、実況しなくて良いからっ!)

「優士が触るからだろっ!」

「そうか」

 顔を赤く染め上げた瑞樹の言葉に頷くと、優士は瑞樹の浴衣の帯を緩め始めた。

「え!?」

「何を驚く? 僕の手で感じていると知れたんだ。直に触りたいと思うだろう。それとも、触られるのは嫌か?」

「い、いや…」

 触られたいに決まってるし、自分だって触りたいし、優士の今の現物を見たい。
 と、瑞樹は言いたかったが、恥ずかしくてとても言葉に出来ない。
 その間にも優士の手は動き、帯を外し、着物を開け、瑞樹の素肌を露わにした。
 そして、少しだけ褌の布を押し上げているそれを、そっと指先でなぞる。

「う、わ…っ…!?」

 ただなぞられただけなのに、大した事の無い刺激の筈なのに、瑞樹は身体を震わせた。

(…っ…、自分で触るのと違う…っ…!)

 ギュッと両目を閉じて、掴んでいた優士の浴衣の襟首を持つ指にも瑞樹は力を入れた。
 ふるふると身体を震わせる瑞樹に、優士は小さく笑い、褌の紐を緩めて行く。
ど うせ脱ぐのだから、身に着けなくても良いのにと思いながら。白い布に真新しく出来た染みをなぞれば『…あ…っ…』と、小さな声が瑞樹の口から漏れた。
 顔を赤くして震える瑞樹に、優士はまた目を細めて小さく笑う。
 わざとらしく、ゆっくりと白い布をそこから剥がして行く。透明なそれが、白と橙の光に照らされ、光った様に見えたのは気のせいだろうか?

「…う、ん…っ…」

 先端から溢れて来る雫を掬い、指に絡めながら竿に触れれば、瑞樹の口から熱い息が溢れる。
 さわさわとやわやわとゆっくりと、焦れったい程にゆっくりと優士は瑞樹の竿を撫でて行く。

「…っ、や、ゆ、じ…っ…!」

 きつく閉じられた瑞樹の目の端に涙が滲み、それが堪えきれずに溢れ、頬を伝って行く。
 もどかしいのだろう。
 足りないのだろう。
 虐めたい訳では無い。
 苦しい思いをさせたい訳では無い。
 しかし、もっと泣かせてみたいと思ってしまう。
 こんな自分は、瑞樹が言う様にやはり塩なのだろうなと、優士は苦笑してしまう。
 右手では陰嚢をやわやわと揉みしだきながら、左手では瑞樹の顎を持ち上げた。

「…ん、うぅ…」

 瑞樹の頬を流れる涙を優士の舌が絡め取って行く。
 ゆっくりとゆっくりと。
 下へ下へと下りて行く。

「…瑞樹…舌を出せ」

「…ん、べ~?」

 優士の言葉に、瑞樹は目を閉じたままであっかんべーをした。
 違う、そうじゃない。
 舌を使った接吻の仕方もみくが教えてくれた。いや、嫌がる天野と実演してくれた。その後の天野は即身仏の様になっていたが。
 まあ、良いかと、優士は差し出された瑞樹の舌に自分の舌でちょんと触れれば、びくりと震えた舌が口の中へ引っ込もうとしたから、唇で挟んで捕まえた。

「んん~~~!?」

 驚いた瑞樹が口を開いたので、すかさず唇を重ね、舌を捩じ込む。
 ギュッと掴まれた襟首を持つ瑞樹の指が震える。
 今は鈴口を弄る優士の指も手も、そこから溢れる物で濡れ、ぐちゅぐちゅとした音を立てていた。

「あ、あ…っ…」

 空気を求め、開いたり閉じたりする瑞樹の唇を食み、だらし無くちょこんと出た舌に、優士は自分の舌を絡ませて行く。
 瑞樹の腰が揺らめく。
 優士の手に捉えられた性器を、そこへ擦り付けて行く。
 昇り詰め様としているのか。
 しかし。

「…させない」

「…え…?」

 もう力の入っていない、縋り付くだけの襟首を掴む瑞樹の手を離し、優士自身も瑞樹の性器を掴む手を離し、トンと優士は瑞樹の胸を押し、布団の上へと倒す。ふわりと瑞樹の首の襟巻きが舞い、するりと逃げる様に、布団の上に静かに落ちて行った。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ペントハウスでイケメンスパダリ紳士に甘やかされています

BL / 完結 24h.ポイント:234pt お気に入り:979

色褪せない幸福を

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:13

いつか、君とさよなら

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:721

すれ違い夫夫は発情期にしか素直になれない

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:757

【BL】欠陥Ωのシンデレラストーリー

BL / 連載中 24h.ポイント:463pt お気に入り:1,330

My Dear Bear~はじめての恋をしました

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:64

処理中です...