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25.(ライアン視点)

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「――兄上、そもそも好意とは――、その人を妻とし、一生を共にしたいと思うようなことですよね。俺は、ソフィアに対してそこまでは――、確かに良いですし、色々と力になりたいとは思っていますが……」

 好意、好意と頭の中で言葉を反芻し、何とかそう言うと、今度は兄が「――は?」と声を上ずらせた。

「お前はどこまで硬いんだ……、いや、俺のせいで小さい頃から山奥に行かせてしまったせいか……」

 可哀そうなものを見るような目で兄は俺を見た。

「好意というのは、女性として相手を好ましく思っていれば十分だろう」

「女性として好ましく……ですか」

 俺は首を傾げる。
 確かに、ソフィアは知っている女性の中では人間として好ましく思う相手ではあるが。
 兄は面倒くさそうに「ええい」と呟いた。

「例えばだ、彼女が別の男と親しくしていたら不満に思うとかは、ないのか」

 俺は黙り込んだ。
 ソフィアが別の男……、例えばレオと親しくしていたら……嫌か?

 想像して眉間に皺が寄った。

 ――嫌だな。でもそれはレオがよく街に出ては、街娘を引っかけているような軽薄なやつだから、ではないだろうか。

「まぁ、とにかく」

 黙り込んだ俺を見て、兄上はため息交じりに言った。

「アリス嬢との話については、お前にはその気がないことを俺からも母上と父上には重ねて伝えておこう。お前もこの後、自分の口から話に行け。そのソフィア嬢の話はまた別だ。父上と母上に話すかどうかはお前に任せよう。まぁ、話せば、ではそちらと婚約を、とその気になるだろうがな」

 トントンっと俺の背中を叩いて兄は部屋を出て行った。

 ――ソフィアのことはとりあえず置いておいて、母上と父上にははっきり言わねば。

 俺も後を追うように部屋を出た。

***

「まぁまぁ、何が気に入らないと言うのです」

 母は「婚約話を進める気はない」という俺の言葉に立ち上がって気色けしきばんだ。

「あなたと来たら、ろくにお話もせずにすぐに席を立ってしまって……、それでお相手の何がわかると言うんですか。お断りするにしろ、それなりの理由が必要よ」

 それはその通りなのだが……、ソフィアの話をしようと思って俺は言葉を飲み込んだ。
 『そちらと婚約を、とその気になるだろう』という兄の言葉が思い浮かぶ。
 その話をすれば、この母はすぐにソフィアを連れてきなさいというようなことを言うだろう。こちらでそんな話を勝手にされても、ソフィアに迷惑なはずだ。

 ――ちょっと待て、例えば本当にソフィアとの婚約話が出たとしてソフィアにとって迷惑かもとは思うが……俺としては別に良いのか?

 自問自答している俺に、父親が声をかけた。

「ライアン――お前の母親の言う通りだぞ。少し話したくらいで何がわかる。ローレンス公爵もお前の態度に困ってらした。あれでは失礼であろう」

「それは、悪かったと思っておりますが――」

「ローレンス公爵は明日もここに滞在する。お前はアリスに城下町でも案内をしてあげなさい」

「――はい?」

 聞き返してから渋々「はい」と頷いた。父親に言われたことを無下に断ることもできない。

「ゆっくり話してみて、それでも断りたいというのであれば、無理は言わん」

 父親はため息交じりにそう言った。
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