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元凶

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 ハベリア家に帰宅したデナリスは、伯爵のエドニアに報告した。
 支度金を夜会の後に送ると、ジョシュアが語っていたことを。

 「おお、そうか! よくやったぞデナリス!」
 「お褒めに与り恐縮です」

 ジョシュアの言葉に踊らされているとも知らず、エドニアは浮足立つ。
 これで当面の資金不足は解決された。
 今後も公爵家の後ろ盾があれば、何かと便利だろう。

 「ジョシュア公爵は、マイアについて何と?」
 「さんざんな言い様でしたよ。どんくさいだの、無礼だの……婚約者に向ける言葉とは思えませんね。さすがは噂の冷酷公爵と言ったところでしょうか。かなりの女嫌いなのでしょうね」
 「ふ、ふむ……まあいいだろう」

 エドニアも若干腑に落ちない点はあったが、これ以上の言及はやめておく。
 今はとにかく金の問題を優先だ。

 「夜会といえば一週間後だったか?」
 「そうですね。王侯貴族のみが参加する夜会ですから、我々には関係ありませんが」

 そのとき、執務室の扉が勢いよく開いた。
 姿を現したのはコルディア。

 「お父様! その夜会、私も行くわ!」

 唐突な宣言に、エドニアとデナリスは固まった。
 盗み聞きをされていたこともそうだが、高位の貴族が集まる夜会に伯爵令嬢ごときが参加できるわけないだろうと。

 「コルディア……さすがにそれは無理だ」
 「どうしてよ? お姉様だって参加するのでしょう?
 それに、私には公爵家のお友達もいるわ! 上手く夜会に参加できれば、王族の方々とも縁を結べるかもしれないでしょう?」

 いくら友人に公爵家の者がいたとしても、血縁者などでなければ参加することは難しい。その夜会は上流貴族が交流するための場所であり、コルディアは場違いなのだ。

 「いいか、コルディア。今回ばかりはどうしようもない。これ以上、ハベリア家の家格を下げるわけにはいかんのだ」
 「家格を下げているのはお姉様よ! 私は色々な貴族と交流を広げて、素敵な殿方からも好かれているのだから!」

 コルディアは好かれているのではなく、あしらわれているのだ。
 面と向かって「あなたが嫌いだ」などと言う貴族はいないだろう。
 それを自覚できていないから、未だに婚約者も見つからないし、マイアの評判を犠牲にしなければならなかった。

 「とにかく、私は行くわ! お姉様の血縁者で、ジョシュア公爵とも関わりがあるもの。門兵ごときが夜会の入場を拒めるわけないでしょう?」

 そう告げて、コルディアは足早に去って行った。
 エドニアが頭を抱えたのも束の間。
 入れ替わるように妻のシャニアがやってくる。

 「あなた、ちょっとよろしい? 新しいドレスのことなんだけど……」
 「後にしてくれ」

 浪費する妻に娘。
 これでは財政が逼迫するのも無理はない。

 シャニアは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 「ちょっと、何ですかその態度? どうしてもドレスが必要なので……」
 「後にしてくれと言ってるだろう!!」

 エドニアは怒鳴りつけて机を叩く。
 普段は見ない夫の側面に、思わずシャニアも肩をびくりと震わせた。

 「わ、わかりました……」

 おずおずと退室していくシャニア。
 そんな彼女を見つめ、デナリスは嘆息した。

 「うーむ……せめて奥様が浪費家でなければ……」
 「結婚当初はまともな奴だったのだ。今にして思えば、シャニアもコルディアも、私が甘やかしすぎたのかもしれんな」
 「とにかく、夜会後の支度金を待ちましょう。諸々の問題はその後に考えます」
 「ああ、頼んだぞ……」

 肩を落とすエドニアに一礼し、デナリスはその場を去った。
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