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魔法使いと地獄の大喜利

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 私、アルティ。
 魔法使いで、非力だからこそ思う、一回斧とか使ってみたい。

 何か豪快に敵とかなぎ倒したら楽しそうじゃない?
 私の力じゃまず持ち上がらないけどね。

 いや、それはいいのよ。

 今日は本でも読んでゆっくりしようと考えていた。
 誰にも邪魔されないよう、自室に閉じこもって本を読み漁る、そんな覚悟を決めていた。
 ハスタとか睡眠メイユだったら対応するけど、それ以外の誰かがドアをノックしても、居留守を決めこもうとも決意してたのよ。

 それなのに、リリアがノックもしないで、合鍵とかがあるのかな? 鍵も普通に開けて入ってきた。

「やっほー! アルティ、遊びに来たよー!」
「やっほー、じゃないのよ。何なの? 何ふざけたことをしてくれてるの?」
「え? あー、じゃあ……ヤフー」
「いや、発音が悪いから怒ってるわけじゃなくてね。何で普通に侵入してきてるのよ?」
「合鍵あるから」
「あるから、じゃないわよ。あったとて不法侵入が許されるわけじゃないのよ」
「まあでもアルティいるだろうから大丈夫だろうなって」
「いたら大丈夫って感覚がわからないけど、まあいいわ。いなかったらどうしてたのよ?」
「アルティってインドア派だから、ほとんど外出することはないでしょ」
「ぐうの音も出ねえよ、ちくしょう」

 というやり取りを経て、リリアが我が部屋に居座ってしまった。

「アルティは今日は本が読みたいんだね。じゃあ読書の邪魔にならないように遊んでおくよ」

 とか言ってるんだけど、私の横で何か色々と変なポーズをとりはじめた。
 いや、何の儀式だよ、それは。
 ていうか、よく見ると右手にドSナールの入った瓶を持っている。
 ドSナールがどうこうの件はこの間終わっただろう、何で普通に持ち歩いてるんだよ。

「……リリア。何回も変なポーズを決めてるけど、それは何?」
「え? いや、威嚇のポーズを考えようかなって。私、そんなに強くないから、敵と遭遇した時に怯ませようと思って」
「リリアが何か変な宗教にはまったのかな? って、私達が怯むから即刻やめなさい。あと、何で今日もドSナール持ってるのよ?」
「ああ、これね。寝てる時のメイユに言われて、一応使うのやめとこうって思ったけど、もし好機があった時に手元になかったら後悔するかなーって思って」
「全然反省してないじゃない」
「だから今後は、持つだけ持っておこうと思ってね。使うかどうかはまた別だよ」
「……え? じゃあこれからずっと持ってるの? あんたのキャラ紹介する時に、ドSナールに絶対に触れなきゃいけないの?」

 こんな感じで、さっそく邪魔になってくれてる。
 いやアルティの方から話しかけてるじゃん、って思うかもしれないけど、ツッコミどころが多いんだよ。
 友達の部屋に遊びに行って、威嚇のポーズの練習するって、何?
 こんなもの反応するでしょ、普通。
 だから私は悪くない、リリアが邪魔してるの。

 まったく、本をどこまで読んだかもわからなくなったわよ。

 変なポーズを指摘されたリリアは、今度はオリジナルの歌でも作ってるのかな、聞いたこともないメロディを鼻歌でふんふん歌い始めた。
 だから読書の邪魔なんだって、自室に帰って一人でやれよ、もう。

 そういう感じでイライラしてると、またも誰かがやってきた。

「アッちゃん、入りますよー」

 という声が部屋の外から聞こえたんだけど、ドアが開く様子がない。
 その代わりというか、何かガンッ、ガンッ、ていう音が聞こえだした。
 ……これ、ドアに体当たりしてねえか?
 そう思って、

「ちょ、ちょっと待ちなさい。止まりなさい。ストップ、ストップ」

 慌てて動きを止めるよう指示して、音が止まったのを確認してからドアを開けた。
 するとそこには、体当たりするような姿勢で止まってるダイヤの姿があった。

「あんた何やってるのよ。さてはあんた、ドアに体当たりしてたでしょ。そんなことしたら壊れるでしょ」
「だからっすよ。鍵かかってるだろうから、じゃあ壊して入るしかないじゃないすか」
「リリアのせいで開いてたわよ。ていうか、極めて遺憾だけど、合鍵とかあるんでしょ? せめてそれで開けなさいよ」
「合鍵で勝手に侵入されたらショックじゃないすか?」
「ドア壊される方が万倍ショックよ。直すまでの間、出入り自由になるじゃない」
「良かれと思ったんすけど、逆効果でしたねー」
「確信犯でしょ、ニヤニヤしやがって。ていうか、アッちゃん入るよーって言ってたじゃない。私がいるのがわかってるなら、私がドア開けるの待ちなさいよ」
「だってアッちゃん、私だってわかったら絶対いないふりするでしょ」
「本当にあんた達、私のことをよく理解してるわね。さすが仲間ね、くそったれ」

 こうしてドアの破壊を防ぐために、誠に遺憾ながらダイヤを自室に招き入れることになった。

 ダイヤ。
 灰色の肌に、白い長髪の女の子ね。
 灰色の肌ってとこで既にお察しかもしれないけど、ダイヤは人間ではなく魔物よ。
 私達のパーティには途中から加入した、ダークエルフの女の子ってわけ。
 最初の出会いってどんなだったかなぁ……確か、最初は捕虜的な感じでうちのパーティに加わったんじゃなかったっけ?
 その名残とでも言えばいいのか、中途半端に敬語を使ってくるけど、その中身は見ての通り生意気なファンキー娘よね。
 まあ捕虜っぽい立場を変に意識してびくびくされるよりはいいかもしれないけど、ちょっと調子乗りすぎな気もする。

「あんたも暇で遊びに来たんでしょ? 仕方がないから入室は許可するけど、私は読書するから邪魔しないでね」
「嫌っすよ。遊びに来てるんだから邪魔はしますよ。本読むより私と遊ぶ方が楽しいって思わせてみせますから」

 堂々と邪魔する宣言しやがって、この女。

 リリアもかなりやばい奴だと思うけど、ダイヤも結構おかしいのよね。
 うちのパーティからやばいコンビを作りなさい、という宿題が出されたならば、間違いなくその答えはリリアとダイヤのコンビになると思う。
 これがトリオになったらどうだろう、私としてはメイユを推すけど、睡眠メイユで考えると、むしろ常識人の方になるしなあ。
 メイユと睡眠メイユを別に考えないのであれば、凄い嫌だけどトリオの三人目は私になるかもしれない。
 ……いや、いいんだ、そんなことはどうでも。
 とにかく、うちのパーティのやべえツートップが、私の部屋に入り込んでるという緊急事態なのよ。

「ところでアッちゃんは異世界転生とか異世界転移って知ってます?」

 急に何の話だ。

「知らないわね」
「何か私達の世界に、違う世界の奴が生まれ変わったり、そのままの姿で移ってきたりしてるみたいなんすよ」
「へー。不思議なこともあるものね。で?」
「私、異世界転移したって奴と知り合いまして。こんな物貰ったんすよ」
「……何それ?」
「サングラスっていって、目の所にかけたら、視界が暗くなるみたいっすね」
「何でわざわざ視界を暗くしなくちゃいけないのよ」
「日差しが眩しい時とかに、目を守る目的でかけるみたいっす」
「……あー、なるほどね。あ、意外と実用的なアイテムなんだ」
「なのでこれをアッちゃんにプレゼントしますよ。さあ、かけてみてください」

 余計なお世話なんだよ。
 なあ、私、今日は読書するって言っただろ。
 文字を読むためには、明るい光が必要なんだよ。
 私は今、誰よりも光属性でありたいっていうのに、何を闇落ちさせようとしてんだ。
 ……あ、やめろ、無理やりかけようとするんじゃない。

 強引にサングラスというアイテムをかけようとしたダイヤに対して、私は体力面において遥かに劣る。
 そのため、抵抗はしたんだけど無駄に終わり、私の視界はサングラスによって闇に覆われ、何も見えなくなってしまった。
 ……いや、ごめん、ちょっと大袈裟に言っちゃった。
 見えるのは見えるんだけど、確かにかなり暗くなって、日差しの強い日に外出する時は本当に良い代物かも。
 まあ私はインドア派なんで、もっと言えば読書したいんで、デメリットとしか感じてないんだけども。

「はあ……これで満足? じゃあ私は本を読みたいから、これ外すわよ」
「一回かけたら、合言葉を言ってから外さないと、頭が爆発して死んじゃいますよ」

 いやいや、待て待て待て。
 え、嘘だよね?
 どう考えても嘘だとは思うんだけど、私、異世界転移ってやつの常識を知らないから、何とも言えない。
 いくらダイヤと言えど遊びで仲間の命は危険に晒さないだろう、とか、実用的なアイテムに何でそんな機能つけるの、とか。
 絶対嘘だと私の脳は結論付けてるんだけど、万が一を考えると外すことができない。

 まあでも、その合言葉さえ教えてもらえば大丈夫なんだよね?
 ダイヤ、さっさとその合言葉を教えなさい。

「じゃあ私は代わりにこのセンスの悪い服を貰いますね」

 いや、私の部屋の物を漁ってるんじゃないよ。
 代わりに、ってこのサングラスをあげた代わりに何か物を貰おうとしてるのか?
 とんでもないデメリットを押し付けておいて、ギブアンドテイクとはいかないんだよ。
 そこそこ気に入ってる服を持っていこうとするんじゃないよ、センス悪いとか貶めもしやがって。

「ダイヤ、窃盗なんかしてないで、はやく合言葉を教えなさい」
「物々交換じゃないっすか、窃盗なんて人聞きの悪い」
「マイナスを押し付けられて、プラスを持ってかれてるのよ。私は害しか受けてないのよ」
「こんな服貰うのも十分マイナスっすよ」
「うるせえ、黙れ。とにかく合言葉。はやく!」
「じゃあこうしましょう。合言葉を手に入れろ! アッちゃんリッちゃん大喜利バトルー!」

 ……え、何?
 急に何が始まったの?

「異世界転移の知り合いに聞いたんすけど、大喜利って言って、お題に沿って面白いこと言う遊びがあるらしいんすよ。それでアッちゃんとリッちゃんに対決してもらって、アッちゃんの方が面白かったら、合言葉を教えてあげます」

 何で私、無理やりかけられた立場なのに、こんな困難に立ち向かわないといけないんだろう。

「リッちゃん、さっきから変な鼻歌歌ってますけど、話は聞いてましたね?」
「うん。アルティより面白いこと言えばいいんだね?」

 何でリリアは乗り気なんだよ。
 何で勝つつもりなんだよ、あんたが勝ったら私は合言葉を聞けないの、そこわかってる?

「双方、準備万端ってことなので、さっそく出題しますね。ハーさん大好きなリッちゃんですが、何と結婚することを諦めてしまいました。何故結婚を諦めた?」

 ……今更だけど、ダイヤは私達のことをあだ名っぽく呼ぶけど、誰が誰のことかはわかるわよね?
 アッちゃんが私で、リッちゃんがリリア、ハーさんがハスタで、ついでにメイユはメーちゃん。
 ハスタだけさん付けなの、何となくわかる気がする。
 ……うん、まあそれだけなんだけど。

「そういやあんた、最近は足が舐めたいってばっかりで、結婚がどうこうはあんまり言わなくなったわね。本当に諦めたの?」
「諦めるわけないよ! それはもう当たり前の大前提だからいちいち言わないだけだよ! ……それだけに難しいよね。普通だとありえない状況なんだから」

 リリアはこのお題を難問として、頭を抱えている。
 私はというと……こんなくだらないことをいちいち考えないといけないのか、と頭を抱える。

「さあ、お題は出てますよ。はやく面白いこと言ってください」

 こんな感じでダイヤは急かすし、私は勝って合言葉を手に入れなくてはならない。
 やる気はないけど、仕方がないので、ふざけた回答を用意して……で、どうすればいい?
 よくわかんないけど手を上げてみたら、どうぞ、とダイヤが指差してきたので、これで言えばいいのか?

「ハーさん大好きなリッちゃんですが、何と結婚することを諦めてしまいました。何故結婚を諦めた?」
「えー……お風呂にする? お風呂にする? それともオ・フ・ロ? と、遠回しに汚いって責められて嫌気がさした」
「ほう……ちょっと長くて説明的なんで、爆笑っていうよりは、ほほう、ってなるような回答っすね」

 マジな解説するのやめろよ、何か恥ずかしくなるだろ。

「プレイの一環として罵られるんなら、むしろ興奮するけどなー」

 そしてリリアは黙ろう?
 変態的な思考を告白されても、対応に凄く困るのよ、こっちとしては。

「さあどんどんいきましょう。リッちゃんは何か思いつかないんすか?」
「んー……現実にはありえないお題だから、中々いい答えが出てこないねー」

 というやり取りをダイヤとリリアがやってから、ダイヤは私をじっと見た。
 え、連答しろってこと?
 あんな解説までされて心折れかかってるんだけど……ええい、合言葉のためだ、はい。

「ハーさん大好きなリッちゃんですが、何と結婚することを諦めてしまいました。何故結婚を諦めた?」
「えー……結婚してください、と告白したら、急に遺産相続のことを確認し始めた」
「どういうことっすか?」

 え、自分で解説しないといけないの?
 何となくわかるでしょ、自分でどこがどうとか説明するの、何か凄い苦しいんだけど。

「あの……遺産とかを気にするから、もしかしたら事故に見せかけて殺されるんじゃないかなーって、そういう不安が出る……みたいな?」
「微妙っすねー。アッちゃん、あれこれ考えちゃうから答えが複雑になって素直に笑えなくなっちゃってんじゃないすかね?」
「そういうものなの?」
「なので、その場のノリで答えてみましょう。いきますよ」
「え? 待って、まだ何も……」
「ハーさん大好きなリッちゃんですが、何と結婚することを諦めてしまいました。何故結婚を諦めた?」
「あ、あー、あー、えー……は、ハスタかと思ったら、よく見たらパスタだった」
「はあ?」

 もういい、殺してくれ。
 あー、駄目だ、何か今凄い恥ずかしい、顔から火が出る。
 いっそ、自分でサングラス取ってやろうか。

「んー……リッちゃんはだんまりだし、アッちゃんも滑ってばっかっすね。お題変えてみます?」
「……お願い」

 絶賛くじけ中の私は、絞り出すようにそう呟いた。

「じゃあお題を変えます。ハーさんが新必殺技ハスタ・ブレイドを考案しました。このハスタ・ブレイドってどんな技?」

 ……こいつ、よくこんなにポンポンお題が浮かぶわね。
 こんだけ色々考えつくなら、こいつが答える側をやればいいのに。

「リッちゃん、前のお題だと答えられなかったから、これいってみます?」
「そうだね。本当にそれっぽいのじゃなくて、ふざけた回答するんだよね?」
「そういうことっす。それじゃ……ハーさんが新必殺技ハスタ・ブレイドを考案しました。このハスタ・ブレイドってどんな技?」
「えーっと、飲食店で会計前の時に、ちょっとトイレ行ってくるね、て言って、そのまま帰っちゃう」

 ……あのハスタがそんなことをしてると想像すると、ちょっとおかしい。
 真面目が服着て歩いてるようなあのハスタが、そんなずるいことやって、しかも大層にハスタ・ブレイドなんて名付けてると思うと、ちょっと笑える。

「ふふ、ハーさんがそんなことしてるって想像すると、ちょっと受けますね」
「しかもさ、新必殺技として名前までつけてるんだから、その技する時にはたぶん技名叫ぶんだよ」
「つまり、あーご飯美味しかったねー割り勘でいいよねーごめんちょっとトイレ行くねーって言って」
「そのまま店を出ようかってタイミングで、ハスタ・ブレイド! って叫ぶんだよ」
「食い逃げの犯行予告みたいなもんすよね、それ。ふふふ」

 身内ネタの可能性があって、一般的に面白いかどうかは知らない。
 だけど、私達はハスタの性格を知ってるから、あのハスタがそんなことをするって想像するだけで面白い。
 なるほど、今回のお題はそういう方向で考えればいいわけね。

「いいっすよー、リッちゃん。この調子でいきましょう」
「え、続けていくの?」
「ハーさんが新必殺技ハスタ・ブレイドを考案しました。このハスタ・ブレイドってどんな技?」
「えーっと……ドレスコードがあるのに、明日私服でいいんだよって嘘を伝えちゃう」
「ははは、また悪い技ができちゃいましたねー」
「当日に一人だけ場違いな格好で来ちゃって、顔真っ赤にしてるその人に対して、耳元でハスタ・ブレイドって呟くんだよ」
「その瞬間にグーパンっすよね。たぶん憎たらしい顔して囁いてるんすよ」
「ハスタの憎たらしい顔とか滅茶苦茶レアじゃん。ある種見てみたいなー、それ」

 リリアの回答によって、二人は盛り上がってる。
 予習は完璧だ、今度こそ受けてやる。
 たぶんそろそろダイヤが私の方に振ってくるはずだから、そこで爆笑をさらってやるわ。

「じゃあ今度はアッちゃんいきましょうか」
「任せなさい」
「お、強気っすね。それじゃ……ハーさんが新必殺技ハスタ・ブレイドを考案しました。このハスタ・ブレイドってどんな技?」
「えー……マッサージしてあげて、相手が痛いって言ったところをグリグリグリーって」
「はあ?」

 え、何で?
 いや、今までの感じだといけるような流れだったじゃない。
 はあ? って、それこそこっちが、はあ? なんだけど。
 せっかく前のお題で潰されかけたメンタルをどうにか復活させて立ち上がったのに、その瞬間からまた潰しにかかるのか。
 いい加減にしないと、そろそろ私泣くぞ、なあ?

「あー、もうこれはリッちゃんの圧勝ってことでいいっすね」
「あ、私勝ったんだ? ヤフー!」
「というわけなんで、アッちゃんは合言葉は諦めてください」

 合言葉の取得にも失敗して、更にはここまで心に傷を負って。
 今日は読書して優雅に過ごそうって思ってたのに、どうしてこうなったんだろう。

「じゃあ罰ゲームとして、アッちゃんには合言葉無しでサングラスを外してもらいます」
「え? 聞いてないんだけど」
「そりゃあ今初めて言いましたからね。それじゃいきますよー」
「いや、合言葉無しで外したら頭が爆発するんでしょ? ちょ、やめ、やめなさい」

 一応抵抗はするものの、体力差からして抵抗が無駄なのは、かける時で既に証明されている。
 当然今回も阻止はできず、私の視界に光が舞い戻ってきた。

 そして、頭の爆発はというと……。

「……生きてるわね、私」
「やだなーアッちゃん。いくら私でも遊びで殺しはしませんよー。冗談っすよ、冗談」

 やっぱりというべきか、やっぱり合言葉云々は嘘だったみたい。
 いや……そうだとは思ったけど、言い出したのがダイヤなのよ。
 万が一がある女だから、心の隅にある僅かな不安を完全に拭い去ることはできないんだって。

 まあでも、死ななくてよかった。

「それにしても……普通そんな話信じます? もう馬鹿丸出しじゃないっすか。引きこもって魔法で遊んでばっかだから常識がなくなるんすよ。服だって世間の流行りを知らないからダサくなるし、お笑いのセンスも悪く……」

 散々好き放題言ってくれてから、私の方を見てようやく気付いたようね。
 死ぬかもしれないと嘘をつかれて、その上散々に罵られてる私の怒りを。
 自分で自分の顔は確認できないけど、たぶん鬼のような表情をしてると思う。

 そして、体力ランキングでは、確かに私は三位のダイヤに負けてるかもしれないけど。
 純粋な戦闘能力ランキングでは、三位の私にだいぶ差をつけられての四位に位置しているのを忘れてるんじゃないの?

「ダイヤ……仕置きよ……そこを動くんじゃないわよ……なーに、炎魔法でちょっと焼くだけだから」
「アッちゃんの炎魔法だったら、ちょっとで済まなくてウェルダンになりますよ! そんなのごめんっす!」
「あ、待ちなさい! 逃げるんじゃない!」
「逃げるなって言って逃げない馬鹿はアッちゃんくらいっすよ!」
「私だって同じ立場なら逃げるわよ!」
「答え出てるじゃないすか! そういうことなんで、さよならー!」

 逃げられたら体力的に追いつけないのに、ダイヤは逃げてしまった。
 くそ、何も喋らずに一気に魔法を放っておくべきだったか。
 一応追いかけてみたものの、やっぱり体力の差は歴然で、私がダイヤに追いつくことは、ついになかった。



 こうして、優雅に過ごそうと思ってた一日だったのに、結果としてダイヤに潰されてしまった。
 今日に関してはリリア以上に問題児だったわ、本当に。
 お仕置きしてやろうと思ったのに、それもできなくって、悔しい一日になったわね。
 こういう時に追いつけるよう、普段から体力づくりを頑張ろうかな。
 屋外に出て、走り込みでもするわけよ。

 幸か不幸か、ちょうど昼の強い日差しを防ぐサングラスも手元にあるわけだしね。
 待ってろよ、ダイヤ。
 あんたが押し付けたこれでも使って、いつか追いついてやる。
 そしてその時が、あんたが炎魔法で焼かれる時となるのよ。
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