【完結】重い荷物を捨てる時

うさ

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重い荷物を捨てる時

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予想通り両親が学園寮に乗り込んで来た。
ミゲルの件が終わったばかりなのに。
もう少し休憩を下さい。

「エステル!勝手な事をするな!何故こちらに商品を持って来なかったんだ!」

「そうよ!最近は収入が激減してるのよ!勝手は許しませんよ!」

私の部屋に入れたくないから来客室に案内したが、入室早々に怒鳴られ気分が悪くなる。こんなに大声を出されたら他の寮生に聞かれてしまう。

「今回の商品は辺境伯様にご協力を頂いて出来た商品です。私一人の商品ではありません」

「チッ。次からは勝手な事をするな!」

はぁ?舌打ちとか!

「これから私は、自分の知識は自分のために使います。もう口を出さないで下さい」

「何だ、その生意気な態度は!?」

「まぁ!親に口答えするなんて!」

「いちいち怒鳴らないで下さい。
私は学園を卒業したら家を出ます。二人はそろそろ生活を改めた方がいいのでは?今のままでは破綻しますよ」

「なんだと!?さっきから生意気な口ばかり!今まで誰が育ててやったと思ってるんだ!」

さっきから何を言ってるんだ、この男は。

「子供を育てるのは親の義務です。
それに貴方達を養ってあげたのは私でしょ?貧しかった男爵家が、あんな豪邸に住む事が出来て、美味しい食事を取れるようになって、使用人も沢山雇えるようになったのは誰のおかげですか?陞爵されて子爵になれたのは誰のおかげですか?
パーティー三昧でお金を湯水のように使い、挙句に夫婦揃って愛人を作ってろくに家に帰らない。そしてお金がなくなれば私にたかる。
よく恥ずかしげもなく育てたなんて言えますね!貴方達の贅沢に使っているそのお金は誰が稼いだものですか!?
さぁ答えて下さい!」

「そ、それは…!!」

羞恥か怒りか、顔を真っ赤にする父と母。

「小さい頃は、貧しくても私は幸せでした。お父様とお母様は優しかった。いつも一緒に居てくれた。二人が大好きだったから、私はお手伝いがしたかった。
でもお父様とお母様も変わってしまった」

これは最終通告だ。

「私は昔の二人に戻ってもらいたかった。だから「全て出し尽くした」と嘘をつきました。
でもお父様もお母様も、失望した目で私を見ただけだった。自分の今後の心配だけで、私に寄り添ってくれる事はなかった。
私は深く傷付きました。
あの時、私達の間に修復出来ない深い溝が出来たのです。私はもう貴方達に協力する事はありません」

「「……」」

私は小切手を差し出した。

「手切れ金です。受け取ったら二度と会う事はありません。さぁどうぞ」

「……」

両親はどうするべきか悩んでるようだったが、お父様は震える手で小切手を受け取った。

「…さようなら」

私は父と母に別れを告げた。

漸く、私はこの重い荷物を捨てる事が出来たのだった。



⭐︎



後日、リュシアン様にこの話をした。

「すっきりしたか?」

「肩の荷が下りてすっきりしてます。
でも、虚しく感じたのも事実です。
だって惨めでしょう?私よりお金を選んだ。親にとって私はその程度の人間だったと言う事です。
今まで捨てるに捨てられないと、悩んでいた自分が馬鹿みたいじゃないですか。
帰る場所がなくなった。それだけなのに、今は世界に一人ぼっちの気分です」

「血が繋がった親子だからな。簡単には割り切れないだろ」

リュシアン様が慰めるように頭を撫でてくれた。優しくしないで。泣きそうになるから。

「俺も5歳の時に辺境に送られた時は、この世界で一人ぼっちな気がした」

胸がズキリとする。
5歳の子供がどれ程心細かっただろう。
その心にどれ程大きな傷を残しただろう。

「ああ、そんな顔をするな。
辺境へ行った俺は決して不幸ではなかった。いつの間にか、本当の両親とジュリアンの事は忘れてたくらいだ。
いや、それは綺麗事だな…。
忘れたと言うより、心の奥底に沈めて思い出さないようにしただけだ。
王都へ来て、ジュリアンと同じクラスになって、俺は当時の感情を思い出して苦しむ事になった。
捨てられて、辛くて、悲しくて、憎くてたまらない気持ち。なのにいつか迎えに来てくれるかもしれないと期待してた自分。誕生日の度に両親からプレゼントが届くかもと期待してた自分。何故自分は選ばれなかったのか悩んだ。
能力?性格?色?
俺のこんな気持ちを知らずに、友人に囲まれて楽しそうなジュリアンが憎くなった。
だから全てで1番を取ろうと思った。
ジュリアンより俺の方が優秀だと知らせたかった!俺の方が国王に相応しいと教えたかった!王族の奴等に、あんた達は選ぶ方を間違えたと後悔させてやりたかった!」

リュシアン様の心の叫びに胸が苦しくなる。
でもジュリアン様の事を思うと、苦しんでるのはリュシアン様だけとは思えなくなる…
二人は悪くないのに、お互いを複雑にしてる関係が不憫でならなかった。

「辺境の父と母は優しかったよ。俺を本当の子供のように育ててくれた。
俺はそれを「王家からの預かり物」だからだと思って最初は素直に受け入れられなかった。
でも徐々に本当の家族になっていった。
だから俺は家族のいる辺境の地を豊かにしたかった。なのに学園に来て、色んな感情に引っ掻き回されて本分を忘れ掛けていた」

はぁ。リュシアン様がため息を吐いた。

「でも、エステルに会って、自分が何をしたいのか思い出した。今回、俺を仕事のパートナーにしてくれた事を感謝してる。俺は前に進める」

リュシアン様はどこかすっきりしてるように見える。彼にも気持ちの変化があったんだろうか。

リュシアン様の未来は希望に満ちている。
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