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一話

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「俺が本当に愛しているのは君だけだよ、アンナ。本当はすぐにでもエマとの婚約なんて解消してしまいたいんだけど」

 村のはずれにある小さな広場。たまたま用事があってその近くを歩いていたエマは、通りすがりに聞こえてきたその声に耳を疑った。

──まさか。
 そんなわけない。声が似ているだけだ、あの人であるはずがない。

 そう自分に言い聞かせながら物陰に隠れて様子を伺ったエマはしかし、どうか別人であってほしいという願いもむなしく、ごまかしようのない光景をそこで目にすることとなった。

「私も愛してるわ。だけど、あなたは本当はエマのこともまだ好きなんじゃないの?」
「まさか。小さい頃から一緒にいるから情はあるけど、愛なんてもうひとかけらもないよ。君だって似たようなものだろう?」
「やだ、私はエマのこと大好きよ。だけどそれ以上にあなたを好きになってしまっただけ……」
「アンナ……!」

 エマは衝撃を受けた。
 広場にある小さなベンチに二人して座って愛を囁きあい、抱きしめ合っている茶色の髪の男と赤毛の女の二人。何を隠そう、エマの婚約者と親友である。

 そう大きくもないこの村では、年の近い子供は全て幼なじみのようなもの。婚約者のニックと親友のアンナは同い年ということもあり昔からずっと仲良くしてきて、強い信頼関係を築けていると思っていた、のに。
 特にニックはエマを諦めずに小さい頃からずっと口説き続け、一年前にやっと交際に発展。三ヶ月前に婚約したばかりだった。

──二人とも、どうして……。

 婚約者と親友に同時に裏切られた悲しみで涙をこぼしそうになっているエマの心情など知るよしもない二人は、二人の世界に入り込んだまま今度はエマの悪口を言い始めた。

「そもそもエマは陰気臭くてつまらないんだ。真面目と言えば聞こえはいいけど、何かにつけ文句をつけてきて息がつまる」
「それは確かにそうよね。私もこの前お菓子を一緒に作った時、混ぜ方がどうだとかいちいち言われてうんざりしちゃったわ。きっと人より優位に立ちたくて仕方ないのよね」
「ああ、想像できるな。あんなに容姿でも性格でも勝てないもんだから、見下せるポイントをいつも探しているんだろうな」

 あまりの言い草に聞いていられなくなったエマは、二人に気づかれないようにその場から走り去った。
どのくらい走っただろうか、ふと立ち止まったエマの目からは次々と涙が溢れ出した。
 大好きだったのに。ニックも、アンナも。ずっと大好きで、二人も同じように思ってくれていると信じていた。将来にわたってずっと仲良くしていられると思って疑いもしなかった。

 まさかこんな風に二人に嫌われて、裏切られていただなんて。エマはこんな風な仕打ちを受けるほど何か悪いことをしたのだろうか。
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