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ご機嫌なお茶会②

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 形式上、友達を集めた結婚式後の無礼講な若者の集まり――ということになっているらしい。だけど、そこは王城。庶民感覚でわーわーくっちゃべって酒を飲み交わすわけにはいかない。

 真紅の薔薇が美しい王城内の庭園に、いくつもセッティングされた真っ白なテーブルと椅子。そこに彩りよくカラフルに着づけられたご令嬢や令息たちが花のようだ。その皆さんに、紅茶を注いで歩くのが新婦のフリをしている私の仕事。まわりに多くのメイドさんや執事さんが控えているから、手取り足取りサポートはしてもらえるのだけど。会場の端には、後ろ手を組みながら姿勢良く立つクルトさんもいた。

「そういや、スカーレットはお茶も得意なの?」
「……一通りのことはそれなりに身につけているつもりです」

 その手のことを聞かれたら、なんでもこう答えるようにスカーレット様から指導を受けている。実際、十三に渡る言語の読み書きや各国の基本的な歴史と文化、そしてお茶も含めた茶会やパーティの主催や作法、全て身につけているとのこと。なんだったら会計等基本的な事務作業も新人官僚程度のことならできるのだとか。もちろんどんな相手とだって話せる術も学問として勉強し、流行りにも敏感であるよう情報収取にも力を入れているという。

 ……すごい。お嬢様ってオシャレして優雅にうふふしているだけの人たちと思ってた――とスカーレット様に話したら「失礼しちゃいますわっ」とプンスカ怒っていたけれど。でも、スカーレット様ってただでさえ私より年下の十八歳だよね? それ以上言葉も出ずにいたら「でもあなただって魔法薬の知識があるじゃない。そんな他の誰も真似できない特別なものを持っておいて、なぜ人を羨むの?」と真顔で返された。
 たとえ惚れ薬を使い、天罰でネズミの姿になっていようとも――やっぱり、スカーレット様は悪い人じゃないのだ。

「ご結婚おめでとうございます」
「昨日のウエディングドレス、素敵でしたわ!」

 私たちが席を回ると、皆さんが明るい声で出迎えてくれる。それにルーファス殿下は優雅な挨拶を返しているけど、私はそれどころじゃない。
 ガクブルですよ⁉︎ なにこの高そうなティーセットは! この装飾、全部金ですよね? 素材にはちょっと詳しいですよ、この輝きは純金ですよね。あと取手の部分にきらりと輝くのはダイアモンドですか? 世界で一番硬い鉱石です。あぁ、この一粒でもいただけたら、私の研究が捗る……どころじゃない。とりあえず、壊さないように紅茶を淹れなければ。

 紅茶くらい、私だって淹れたことある。もっと安い茶葉だけど。蒸し時間はメイドさんが教えてくれるし、私は本当に注ぐだけ。優雅に、優雅に……。

 だけど、

「カップお借りしますね」
「スカーレット様に淹れて貰えるなんて光栄です」

 私の言葉に愛想良く返事をしてくれたどこかの令息さん。その人にルーファス殿下が言う。

「本当はこの紅茶、全部俺が飲み干したいんだけどね」

 なっ……!
 ななな、なんですか、その小粋な冗談は⁉︎
 ……いや、冗談ですらないかも。殿下は言葉通り、きっと喉が渇いているのね!

「このあと殿下の紅茶も用意しますね」
 
 と答えつつも、私は殿下の方を向けない。今まさに注いでいる最中だからね。
 だけど殿下はわざわざ腰をかがめて、私の耳元で笑った。

「そう、きみは俺だけに紅茶を注いでいればいいんだ――いい子・・・だね」
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