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醜いアヒルの子はピンクのドレスが似合わない
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祖母が社交をこなしている間、美雪はその後ろで置物になっていた。割烹や料亭のお仕着せのような地味な紺か臙脂の和服姿の美雪に目を止めるものは少ない。悪ければ、祖母と歓談している相手ですら美雪の存在に気付いていない。
美雪はそんな存在だった。
パーティー会場を見渡せば、美雪と同じくらいの年頃の女性たちは赤や青、金、ピンクや空色といった華やかな色のドレスに身を包んでいる。喪服のような黒や美雪のような地味な色のドレス姿は数えるほどしかなく、そういった女性はスーツ姿。
つまり、美雪の秘書仲間。
いてもいなくても社交上はどうでもいい存在でありながら、雇い主の社交には欠かせないサポート役。決して目立ってはいけない秘書たちは料理で言うなら付け合わせ。
同じ秘書でも目立って良いのは、雇い主の身内と言う名の他家との繋がりに使えそうな駒だけ。
上延家の醜いアヒルの子である美雪はそれを許されていない。
視線をめぐらした美雪の目に、自分には到底、似合わないと確信を持っている淡いピンクのドレスを着た令嬢の姿が入ってくる。両親らしき男女と共に笑顔で話している彼女は、上延家の唯一・・のお姫様。
彼らのそんな姿を目にするたびに美雪は胸の奥が締め付けられるように痛む。
同じ敷地内に住んでいながら、両親は美雪の様子を見に祖母の棟に来たことはなかった。それどころか、春菜に美雪を親戚の子だと教えたらしく、学園で会った時には「美雪様のほうが歳上なので、美雪お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか」と言われてしまった。勿論、学園にも親戚の子どもとして連絡していたのだろう。学園では誰もが美雪を春菜の姉妹だとは気付いた様子がなかった。
美雪の両親の愛情はすべて二歳年下の妹・春菜に注がれているのだ。
同じ敷地内に住んでいる祖母がそのことに気付いたのは、まだ幼い美雪が身体に合わない小さな服を着せられていることに気付いたからだった。それ以外では両親は美雪と春菜を区別しているようには一切見えないようにしていた。
乳幼児を終えた春菜は毎日、新品の服を与えられ、似合う服は何着も買い足された。
そんな二歳年下の妹の服のお古を美雪が着せていることはしばらくの間は祖母すら気付かなかった。
毎日のように同じ服を着せられていない姉妹なのに、美雪の服は明らかにサイズが合っていない。それに気付いた祖母は上延家の長女である美雪を跡取りとして育てると宣言し、美雪の養育を両親から引き継いだ。
それが美雪にとって幸せかどうか、美雪にすらわからない。
服は身体に合うものを着られるようになった。それ以外のことにしても、今まで春菜が優先されていたことが祖母の使用人たちの手で行われるようになり、美雪の生活は格段に恵まれたものになった。
しかし、美雪は厳しい祖母の教育を受けた人形になってしまった。
美雪は祖母の秘書としてその後ろに控えておくことを子どもの頃からさせられていた。
同じ年頃の子どもたちが子ども同士の交流を許されている間、美雪は今と同じような色彩の和服に身を包んで祖母の後ろに立たされていた。そうやって、大人たちのやり取りを見せられ続けていた。
名家の子息令嬢が通う学園を卒業した後は、本格的に祖母の秘書として使われるようになった。
同じように学園を卒業した春菜はまだ大学生だが、夫探しは既に中学生の頃から行われている。上延家のお姫様にふさわしいと両親のお眼鏡に叶うような相手は中々、見つからないようだ。
美雪のほうはと言えば、祖母は彼女の夫を探している素振りもない。
春菜ほうに優秀な婿を迎え、自分は後妻にでも出すつもりかもしれない、と美雪は思っていた。
美雪には他の子息令嬢のように幼馴染と呼べる相手がいない。美雪が知っているのは祖母と交流のある、若くても美雪の父親くらいの年代の人物しかいないのだから。
美雪はそんな存在だった。
パーティー会場を見渡せば、美雪と同じくらいの年頃の女性たちは赤や青、金、ピンクや空色といった華やかな色のドレスに身を包んでいる。喪服のような黒や美雪のような地味な色のドレス姿は数えるほどしかなく、そういった女性はスーツ姿。
つまり、美雪の秘書仲間。
いてもいなくても社交上はどうでもいい存在でありながら、雇い主の社交には欠かせないサポート役。決して目立ってはいけない秘書たちは料理で言うなら付け合わせ。
同じ秘書でも目立って良いのは、雇い主の身内と言う名の他家との繋がりに使えそうな駒だけ。
上延家の醜いアヒルの子である美雪はそれを許されていない。
視線をめぐらした美雪の目に、自分には到底、似合わないと確信を持っている淡いピンクのドレスを着た令嬢の姿が入ってくる。両親らしき男女と共に笑顔で話している彼女は、上延家の唯一・・のお姫様。
彼らのそんな姿を目にするたびに美雪は胸の奥が締め付けられるように痛む。
同じ敷地内に住んでいながら、両親は美雪の様子を見に祖母の棟に来たことはなかった。それどころか、春菜に美雪を親戚の子だと教えたらしく、学園で会った時には「美雪様のほうが歳上なので、美雪お姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか」と言われてしまった。勿論、学園にも親戚の子どもとして連絡していたのだろう。学園では誰もが美雪を春菜の姉妹だとは気付いた様子がなかった。
美雪の両親の愛情はすべて二歳年下の妹・春菜に注がれているのだ。
同じ敷地内に住んでいる祖母がそのことに気付いたのは、まだ幼い美雪が身体に合わない小さな服を着せられていることに気付いたからだった。それ以外では両親は美雪と春菜を区別しているようには一切見えないようにしていた。
乳幼児を終えた春菜は毎日、新品の服を与えられ、似合う服は何着も買い足された。
そんな二歳年下の妹の服のお古を美雪が着せていることはしばらくの間は祖母すら気付かなかった。
毎日のように同じ服を着せられていない姉妹なのに、美雪の服は明らかにサイズが合っていない。それに気付いた祖母は上延家の長女である美雪を跡取りとして育てると宣言し、美雪の養育を両親から引き継いだ。
それが美雪にとって幸せかどうか、美雪にすらわからない。
服は身体に合うものを着られるようになった。それ以外のことにしても、今まで春菜が優先されていたことが祖母の使用人たちの手で行われるようになり、美雪の生活は格段に恵まれたものになった。
しかし、美雪は厳しい祖母の教育を受けた人形になってしまった。
美雪は祖母の秘書としてその後ろに控えておくことを子どもの頃からさせられていた。
同じ年頃の子どもたちが子ども同士の交流を許されている間、美雪は今と同じような色彩の和服に身を包んで祖母の後ろに立たされていた。そうやって、大人たちのやり取りを見せられ続けていた。
名家の子息令嬢が通う学園を卒業した後は、本格的に祖母の秘書として使われるようになった。
同じように学園を卒業した春菜はまだ大学生だが、夫探しは既に中学生の頃から行われている。上延家のお姫様にふさわしいと両親のお眼鏡に叶うような相手は中々、見つからないようだ。
美雪のほうはと言えば、祖母は彼女の夫を探している素振りもない。
春菜ほうに優秀な婿を迎え、自分は後妻にでも出すつもりかもしれない、と美雪は思っていた。
美雪には他の子息令嬢のように幼馴染と呼べる相手がいない。美雪が知っているのは祖母と交流のある、若くても美雪の父親くらいの年代の人物しかいないのだから。
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