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続編三章開始記念 【番外編】 いつかの、未来2

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※長男視点
 
 
 「あぅ。」
 「ディー、なあに?君は本当にかわいいなあ!」
 
 つい先日生まれたばかりの妹を前にして、父が笑み崩れた。
 どちらかというと母に似た女の子が生まれて、父は舞い上がっている。
 時間を作っては彼女のところへ行き、世話をしつつ構っている。
 
 おかげで弟のパトリックはご機嫌斜めだ。今も父の横でごろごろ転がって、気をひこうと奮闘中だ。さっき恒例の勝負をしてもらったくせに欲深い奴。
 
 僕が構ってやればいいのかもしれないけど、あいつとは趣味が合わない。
 僕は座っている肘掛け椅子の上に両足を乗せ、膝を立てて読んでいた本を支えた。
 この本、大きくて重いんだよね。
 本を隠れ蓑にして、僕は父達を観察することにした。
 
 妹に首ったけの父に業を煮やした弟が蹴りをいれる。父はあっさり躱して彼を抱きあげた。
 弟よ、捕まったというのに満足そうだな。
 
 それからあっという間に父に言いくるめられたパトリックは、機嫌を直して妹をあやし始めた。
 父は人を操るのが上手いと思う。母なんて、いつも父に嵌められて地団駄踏んでいる。
 僕は早々に学んで騙されなくなったのに、母はどうしていつもいつも、引っかかっているのか不思議でならない。
 昨日、それを父に言うと、『エミィは素直だからね。可愛くてたまらないよ。』と惚気始めたので直ぐに逃げた。
 
 
 騒ぎすぎたのか、今度は眠くなったらしい弟がうとうとし始める。直ぐに控えていた侍女が、彼の部屋へ連れて行く。
 それを見送った父は、今度は僕を構いたそうに見てきたが、丁重にお断りした。
 悄気げた父は、仕事に戻ると言って部屋から出ていった。
 
 僕は部屋に残っている侍女のミアをちらりと見てから、本を置く。
 椅子から降り、妹のディートリントが寝ているゆりかごを覗き込む。
 
 「ディー、やっと静かになったからぐっすり眠れるね。」
 
 彼女の澄み切った美しい瞳が見られないのは残念だけど、寝顔もすごくかわいい。
 弟が生まれたときはそんなふうに思わなかったんだけどな。
 
 「ねえミア、なんでディーは父上にも母上にも似てないのかな?」
 
 僕は妹が生まれた時から、抱いていた疑問をついに口から出した。
 だって、淡い金の髪と薄青の目の父と、灰色の髪と目の母から、濃い金の髪と紫の目の妹が生まれたんだ。
 僕と弟はちょうど半々にその色を受け継いでいるのに、不思議でならない。
 
 尋ねられたミアはその疑問を軽く笑い飛ばした。
 
 「テオドール様、子供は両親の髪と目の色を必ず受け継ぐというものではないんです。色は違っても、ディートリント様は顔立ちが奥様に似ておられます。テオドール様にも、似ているってことですよ。」
 
 ふーん、そういうものなんだ。
 そして、妹が母似ということは、同じく母そっくりといわれる僕にも似ているってことか。
 再度、その寝顔をじっくり眺める。
 僕はこんなに可愛くないと思うんだけど・・・。
 無意識に指で妹の頬に触れる。ぷにぷにで気持ちいい、と思ったその瞬間。
 
 「ふにゃーっ!」
 
 ディートリントが泣きだした!
 焦ってミアに助けを求めようとしたら、彼女の姿がない!
 
 「ディー、どうしたの?!お腹減った?おむつ?」
 
 どうしたらいいの?!
 綺麗な紫の瞳に涙をいっぱいためて、僕の方を見てくる妹と目があう。
 僕はとりあえず抱っこしてあやすことにした。
 
 「よしよし。僕がいるから大丈夫だよ。」
 
 泣き止んでこちらをじっと見つめてくる妹が可愛い過ぎて、思わず頬ずりをしてしまった。
 そのタイミングで母が部屋に入ってきた。
 
 「そろそろディーのお腹が空いてるんじゃないかと思って。あら、テオが抱っこしてくれているのね。ありがとう。」
 「急に泣きだしたから。」
 
 そう言って母へ妹を渡す。母は優しく受け取ると、僕がさっきまで座っていた椅子に座った。
 
 「ミアは隣でおむつの用意をしていると思うわ。テオ、ディーのごはんが終わったら庭でお茶をしましょ?支度を頼んできてくれる?」
 「分かった。僕と母上の二人分でいい?」
 「ええ。」
 
 やった!母上と二人でお茶会だ。僕は大急ぎで厨房へ向かった。
 
 
 暖かい日差しの中で、母上と向かい合ってお茶をする。
 母の前には、この時期はお腹が空くからとサンドイッチと野菜スープがどんと並んでいる。それらは結構な勢いで母のお腹に消えていっている。
 僕の前にもサンドイッチ。甘いものは苦手なのでお菓子は断ったんだ。
 
 食べながら現在学んでいることや、こないだ城のお茶会に従兄達と参加した時の話をした。
 にこにこしながら、話を聞いてくれる母を独り占めしている幸せを僕は一人で噛み締めていた。
 
 それなのに、母の後方から父がやってくるのが見えた。
 僕達の姿が部屋の窓から見えたんだろうな・・・。母に関しては我慢がきかない人だから、仕事を放って来ちゃったんだろう。側近のヘンリックが可哀想・・・。
 
 僕が半眼で父を見つめたら、人差し指を立てて内緒の合図を送ってきた。
 母をおどかす気だな。
 僕は父から視線を外して、母へ声をかけた。
 
 「母上はどうして父上と結婚したの?もっといい人はいなかったの?」
 「ええっ、もっといい人?!なんでって・・・。」

 母は目を瞬いて僕を見、後ろの父は固まった。
 母はそのまま頬に手を当てて考え込む。
 
 「父上は母上を自分で見つけたって言ってるけど、母上にとっては権力で決められた婚約者だったんじゃないの?」
 「いいえ、違うわ。」
 
 こないだあったお茶会は、従兄の婚約者を決めるものだと聞いていたから、父もそうやって母を選んだのかと思ったんだけど、それはすぐに否定された。
 じゃあ、王子様だった父上と母上はどうやって出会ったんだろう?
 
 「・・・リーンに買収されたから?」
 
 ぼそっとつぶやいた母の台詞に父が青ざめた。
 え、父上は母上を何で買収したの?! 
 僕はてっきり、どこかのお茶会で出会った母を父がうまく言いくるめたんだと思ってたのに。
 
 母の後ろの父は、ショックが大きすぎて泣きそうになっている。
 それに全く気づかないまま、お茶を一口飲んだ母がいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
 
 「なーんてね、冗談よ、テオ。リーンより素敵な人なんていないでしょ?だから結婚したのよ。」
 
 ・・・あれ?僕は今、母に惚気けられてる?
 
 
 その後すぐに母は父にかっさらわれた。
 
 聞かれていると思っていなかった母は、もの凄く動揺して必死に逃げようとしていたが、父に勝てるわけがない。
 あっという間に捕まって抱きかかえられていった。
 
 「ねえミア、要は二人ともお互いが大好きで結婚したってことなんだね。僕はそんな夫婦の子供で幸せだよ。」
 「テオドール様、棒読みですよ。」
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