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第五章 公爵夫妻、デートする

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※エミーリア視点
 
 
 「あんな素敵な方と何処でお知り合いになったのですか?!」
 「どうやって落としたんですか?!」
 「「ぜひ、後学の為に教えて下さい!」」
 
 リーンにとんでもない服を着せてしまった罪悪感に苛まれていたら、店員達に囲まれて質問攻めにされた。
 
 彼の家の裏庭で出会って、一緒に遊んだら向こうが勝手に落ちてきました、とは言えない。
 
 何か、お役に立てそうなことを言わなくては。恋文は書いたけど、結婚してからだったし・・・。
 
 「ええと、そのなんというか、・・・それは・・・」
 
 ぐるぐる考えて焦ってパニックになったところで試着室の扉が開いてリーンの声がした。
 
 「ごめんね、僕の奥さんは恥ずかしがりやなのでそういう質問はやめてあげて?」
 
 そのまま後ろからぎゅっと抱きしめられる。
 ひーっ、こんなとこで何してるの!
 
 「もしかして、旦那さんの方が奥さんに惚れて結婚なさったんですか?」
 「うん、そう。必死で彼女を落としたのは僕の方。」
 「奥さん、綺麗ですもんねー。」
 「でしょう!僕の自慢の妻なんだよ。」
 「いいなあ。」
 「君達も素敵な相手が見つかるよ。」
 「「ありがとうございます!」」
 
 真っ赤になっている私を置いて、店員達と彼だけで会話がどんどん進んでいく。
 貴方達、本人を前に、何という会話をしているの!
 
 「それにしても、元がいいとそんな服まで着こなせるんですねえ。」
 「ホント、意外とお似合いですね。」
 「僕もびっくり。」
 
 その台詞にぱっと彼の腕を抜け出て振り返る。
 リーンの猫着ぐるみ姿!
 
 「か、かわいい!」
 
 見た瞬間に飛び出た感想がこれだった。
 
 全身薄茶で頭のフードからは控えめな猫耳が生えている。彼の顔立ちは目が大きくて可愛らしい方だから、こういう格好もいけるんだわ。
 
 思わず興奮してしまって、彼の周りを回って尻尾をつまんでみたり、袖から出ている手を握って肉球はないの?と冗談で尋ねて騒いでいたら、ついにぐいっと引き剥がされた。
 
 可愛いを連発し過ぎて、機嫌を損ねちゃったかしら?
 
 「ミリー、これ以上はちょっと・・・僕の理性が耐えられないから勘弁して?そして、この服は猫に君をとられた気になるから止めとく。他のを一緒に選んでくれる?」
 「理性・・・?」
 
 よくわからずに聞き返したら、リーンがふっと笑って耳元に顔を近づけてささやいた。
 
 「はしゃぐ君が可愛すぎて、夜まで我慢出来ないってこと。」
 「そ、それは、マズいわね!」
 
 私は彼から飛び退り、その勢いで彼を試着室へ押し戻した。
 
 「次の服を渡すから即着替えて!」
 
 叫んで勢いよく後ろを振り向けば、店員達がそれぞれ彼に着て欲しい服を手にして待機していた。
 
 
 片っ端から着替えてもらって品定めをする。どれも似合うから迷うけど、あの着ぐるみよりインパクトのあるものはなかなかない。
 
 ・・・よく考えたら、街で着る服にそんなものを求めてはいけないのでは?
 
 私は選ぶ基準を改めて、最初から見直すことにした。
 
 もう一度店内を歩いてみるが、どうしても自分の色を探してしまう。
 ふと目についた銀鼠色の薄手の上着を手に取った。

 「君の色だね。僕の一番好きな色。これ着てみようかな。」
 
 いつの間にか背後に立っていたリーンが、その場でさっと羽織って見せた。
 
 「格好いい・・・。」
 
 自然に口から溢れた自分の言葉に目が丸くなる。自分が何を言ったか理解した途端、また顔が熱くなった。
 
 迂闊な口を両手で塞ぎ、そのまま固まる。恥ずかし過ぎて目が上げられない。
 
 沈黙が続くので顔を上げて見れば、彼も赤くなっていた。
 
 
 「私達に足りないのはあの素直さじゃないかしら。」
 「それと純粋さもですかね?」
 「先輩、店内があの二人のおかげでいい雰囲気に!」
 「今日は売り上げが伸びそうな予感!やるわよ!」
 「はいっ!」
 
 
 ■■
 
 結局、私達はお互いが選んだ服を複数買い、一番気に入ったものにその場で着替えて街へ出た。
 着ていた服と残りの購入品はデニスを呼んで待たせてある馬車に積んでおいてもらった。
 
 「あんなに私の服をたくさん買ってどうするの?」
 「君が毎朝の散歩の時に着てくれたらいいと思って。」
 「それでも多いと思う・・・。」
 「街に行く時にも着るでしょ。」
 「ええ、まあ。・・・全部着れるかしらね?」
 「着なくなった街着は誰か、もらってくれる人にあげるというのもいいと思うよ。」
 「そうするわ!」
 
 最近、衣装部屋の中身が増えて密かに困っていたのよね。まずはミアに聞いてみよう。
 

 「この先に公園があるから、そこで休憩しようか。」
 
 時計を気にしながらリーンが私の手を引いてすたすた歩いて行く。
 いつもなら、こまめに行きたいとこや食べたいものはある?と聞いてくれるのに、珍しい。
 今日は彼に行きたい所があるんだわ。
 
 私は小走りで開いた彼との距離を詰めた。
 
 
 目的の公園は広くて訪れている人も多かった。待ち合わせた噴水のある広場とは違って、自然がメインのような・・・。
 
 「ここはもしかして植物園?」
 「あ、気がついた?そう。元は王家の薬草園で珍しい植物を集めていたら、いつの間にかこんな広大な植物園になってたらしいよ。でも、今日の目的はこっち。ちょっと急ごう。」
 
 そう言うなり、私を抱えるようにして彼は歩き出した。私はもうほぼ走ってるけど!
 
 
 「ぎりぎり間に合った。」
 
 彼がそう言うと同時にどこからか音楽が聞こえてきた。
 
 上がった息を整えつつ辺りを見回せば、それは正面の大きな時計台から聞こえてきていた。
 そういえば、屋敷の玄関ホールにある時計も一時間毎に音が鳴るわね。
 
 周囲に時間を知らせるその音楽に耳を傾けていたら、少し軋んだような音が混ざり始めて、故障かと時計台を見つめた私の前で、時計の文字盤がひっくり返ってリスの影絵が現れた。
 
 驚いて空いている方の手で、リーンの腕を掴む。
  
 「時計が、動いたわ!」
 
 私の叫びは周りに集まった人々の歓声にかき消される。
 
 時計台の横から並んだ動物のモチーフがすーっと出て、さらに上の赤い屋根の部分までぱかっと開いて小鳥が飛び出してきた。
 
 それらはしばらく音楽に合わせて揺れていたけれど、時間が来ると元の場所に帰って行き、時計台は何事もなかったかのように時を刻み始めた。
 
 それと同時に見ていた人々も去って行く。
 
 でも、私は興奮が冷めやらず彼の腕に抱きついたまま、ぼうっとしていた。
 
 「このからくり時計は、君が外出できない間に修理が終わって数十年ぶりに動くようになったんだ。君と見ることができてよかった。」
 
 隣から聞こえたその台詞にはっと我に返る。
 
 「すごい、私はからくり時計なんて初めて見たわ!音が大きくて驚いたけれど、可愛かったわね。連れてきてくれてありがとう!」
 「どういたしまして。僕は目をきらきらさせて喜ぶ君が見られて嬉しかった。モチーフはここに生息している動物達らしいよ。」
 「公園を歩いていたら出会えるかしら。」
 「会えるかもね。でも、その前に休もうか。」
 「そうね。走って喉が渇いたわ。」
 
 話し合って近くの屋台の飲み物を買ってベンチで飲むことにした。
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