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第5話 妹の登場。そして受験する学校の選択。

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「ただいまー!!」

昼食後も相も変わらずリビングで母さんと話していたところに、
この声が聞こえてきた。
今世の俺は妹がいるらしいから、恐らくというか間違いなく妹なのだろう。
妹はそのままリビングまで急いで来ると、元気そうな俺を見みてか安心したような
顔をした。

……その顔はやはり俺にも母さんにも似ていてとても可愛らしかった。
身長は女性の中でも小さめではあるが、それが余計に可愛さを引き出している。

「お兄ちゃん……。記憶喪失になったって聞いだけど、思ったより大丈夫そうで
 良かったよ……。」

「心配してくれてありがとう。えっと……ゆ、優菜?でいいんだよね……?
  ごめん…やっぱり優菜のこともわからないみたい。体調の方は問題ないかな。」

俺がそう答えると一瞬悲しそうな顔をしたが、その顔は直ぐさま嬉しそうな顔に変化した。

「お兄ちゃんが優菜って呼んでくれた!!」

優菜はそう叫んだ。…………うん。この光景はついさっき見たばかりである。
やはり母娘親子だからか。
それともこの世界の女性は、名前を呼ぶと皆このような反応をするのだろうか。
……反応が全く一緒である。

「…………逆に、今までは優菜のこと何て呼んでたの?」

「んーー。「ねえ」とか「あのさ」とかだね。名前で呼ばれたことは無いかな。」

なるほど……。反抗期の少年が使ってそうな呼び方だな。
だが家族との関係は母さんや妹の反応を見る限り良好だったのだろうから、
そうなるとただ単に恥ずかしかったのだろう。
元の世界でも、こういう人は結構いるからこの世界の俺がそうであったとしても
何ら不思議では無い。
むしろ「おい」や「お前」と言っていなかっただけマシである。

「これからは優菜って呼んでいい?」

「うん!嬉しい!あとお兄ちゃん好き!かっこよくて優しとかずるい!」

俺がそう言うと、優菜は嬉しそうな顔して俺に甘えてきた。



…………可愛い。妹ってこんなに可愛いものなのだろうか……。



――――いや、きっと優菜だから可愛いのだろう。
    これが、あの伝説の「妹萌」なのだろう。
  何て破壊力なんだ……。甘やかし過ぎないように気を付けねばいけないな……。


「ところで、優菜はどっか遊びにでも行ってたの?」


「ううん。違うよ。部活だったんだ!」


そうか。部活か。……優菜くらいの年だと中学生だろうか。土日は部活があるんだったな。



――――あれ?そういえば俺って何年生……?そもそも何歳だっけ……。聞くの忘れてた……。



――――ど、どうしよう……学生だったら……。いや……多分見た目からして学生なんだろうけどさ……。



――――でも俺、記憶喪失なんだけど……。授業とか詰んでないかこれ……。



「そ、そっか。お疲れ。」


「うん!疲れたよー!!」


そう言って優菜はソファーに寝転んだ。

一方で俺は、頭でこれからのことを考えながら、目では優菜が寝転んだ姿を見つめていた。



――――妹のソファーに寝転んだ姿はいいなぁ……。しかし、これスカートだったらやばかったぞ……。


なんて俺はその光景を見て、邪な気持ちを抱いていた。



――――いや。やめろ。いくら無防備だからって妹を性的な目で見るな。犯罪だぞ。


俺は自分自身にそう言い聞かせる。



――――え?この世界なら近親婚が出来るんじゃ無いかって?――いやいや。いくら何でも出来ないでしょ。

                         

 …………たぶん。




――――いやいや。今はこんなことを考えている場合じゃ無いだろ俺。
学校の事とか聞かないと大変なことになるぞ。今世は努力を怠らないって決めただろ。


「あのさ、母さん?」


「ん?優ちゃんどうかした?」


「いや、優菜と話してて思ったんだけど、俺ってどこの学校に通ってるの?」

そう問うと、母さんは「そういえば言ってなかったわね。」と言って何冊かの
パンフレットを持ってきた。

「これは?」

「これは、学校のパンフレットよ。優ちゃんはこの中から好きなところを選んで通うことになるの。」

そう言われてパンフレットを眺めると、それはこの付近ののパンフレットだった。


――――まじか。俺って今年から高校一年生なのか……。確かに若いとは思っていたが……。


――でも、怪我して入院したのは女子同士の喧嘩を止めようとしたからって聞いた気がするんだけど……。


――それだと、卒業した日に怪我したことになるけど、一体何があったんだ……?


――この話を聞こうとすると母さんは相変わらず口を開こうとしないから結局わからなかったし……。


――まあ、俺のためを思ってあえて話さないんだろう。そう思うことにした。



「じゃあ、記憶喪失になる前の俺はどこの高校を選んでたの?」

そう聞くと、母さんは一冊のパンフレットを見せてくれた。

「両國学院?」

どんな学校なんだろう。
そう心を躍らせて見てみると、そこにはと書かれていた。

――そう来たか……。なるほど……。

確かにこの世界の男子なら共学なんて選ばないで男子校を選ぶだろう。
わざわざ、会いたくも無い女子のいる学校に自ら志願して行くわけが無い。
あるとすれば、共学校に行くともらえる給付金目当てだが、それも無いだろう。
何てったって、俺の家もだが、男子を持つ家庭には政府からの給付金がある。それも結構な額らしい。
加えて男子の家は大抵、裕福な場合が多く、お金に困っていないからだ。

――多分あれだろう。男の子が生まれた家に、お金持ちの社長や偉い人が、その子を自分の婚約者とか子供の許嫁とかにしたりしているんだろう。あとは企業同士の政略結婚とか。

――――俺にはそういったしがらみが無いことを祈ることしかできない。
……まあ、母さんのことだから大丈夫そうだが。


「……母さん。俺やっぱり男子校じゃ無くて共学校に行こうと思う。」


「え?それはまた。何か理由があるの?」


俺の言葉に母さんは困惑した様子だった。
それもそうだろう。いくら記憶喪失になったからといってもこの世界の常識では、
男子は自ら共学に行きたいなんて言わないだろう。本能的に。
しかし、今の俺からすれば男子校こそ行きたくない。

――よし。少し違和感あるかもしれないが、誤魔化そう。

「えっと……確か男子は18までに婚約者を決めないといけないでしょ?」

「うん……そうね……。頑張らないとね。」


――そう。この世界には――


    ・男子は18歳までに、最低1人の女性と婚約しなければならない。
 ・男子は25歳までに、最低3人と結婚しなければならない。
 (ただし、以上を遵守できない場合は政府が婚約または結婚の相手を無作為に選ぶ。
  また、原則婚約者とは結婚をしなければならない。
  また、原則離婚をすることは出来ない。)

 という法律が存在する。

――こうでもしないと結婚すらまともに出来なかったのだろう。
法律にある通りそれさえ守れば、より多くの女性と関係を持っても問題ない。

――そう。なんとハーレムが政府、国、世界で公認どころか推奨されているのである。
何ということだろうか。これはますます共学に行くしかあるまい。


[うん。でね、婚約者が決まってなければ、勝手に決められるって法律に書いてあるでしょ?
 だから、婚約者は自分の目できちんと選びたいって思ったんだよ。
 婚約するなら知らない人より知ってる人が良いし、もしかしたら好きな人だって出来るかもしれないじゃん?]


「そ、それもそうね……。でも……。」


「お願い母さん。俺勝手に決められた人となんか婚約したくないよ……」


俺は目を涙目にさせながら、上目遣いでお願いをした。


「ううっ……。はぁ……わかったわよ。でもそうよね。いつか優ちゃんも婚約しなくちゃいけないんだものね。」




――そう言って母さんは渋々、共学校に行く事を認めてくれた。










#############################################






「それで、何処の共学校にいくの?お兄ちゃん?」


――俺が母さんに「涙目上目遣い」という一発KO技を決めた後、高校のパンフレットと睨めっこしているところに、
今まで終始無言だった優菜が話しかけてきた。

「んー。ここかな。一番良いと思ったのは。」

そう言って優菜にしたパンフレットには「秀英学園」と書かれていた。

「しゅ、秀英?!嘘でしょ?!」

「え?そんなに悪いのか?ここ?」

俺がそう聞くと、優菜は俺が渡した秀英学園のパンフレットを親の敵のように睨み付けながら言った。

「いや、そういうわけじゃなくて!! 何で秀英なの!?柏原は?!」

そう言うと優菜は「柏原学園」と書かれたパンフレットを俺の前に勢いよく出してきた。

「柏原は共学の中でも一番男子に人気だし、給付金だってこの辺じゃ一番多いよ!?」

「うーん。確かにそうなんだけど……。俺は進学率とか就職率とかでいいなって思ったんだよなぁ……」

「そ、それはそうだけど……!でも!」

「それに、他の学校よりも設備が良いし綺麗だし。」

「た、たしかに……」

そう。俺が良いと思った秀英学園は、この辺の共学校での偏差値・進学率・就職率ともにトップなのである。
加えて、設備が異様に良い。

――まあ、そのせいで他校より給付金の額が極端に少ないからなのか、男子がまさかの0である。
共学なのに、である。まあ、女子校もあるくらいだし、男子が必ずしも居なくちゃいけない訳でもないが。
それでも、共学で偏差値がトップなだけあって、女子の倍率は二桁は軽く行くそうだ。
やはり、魅力的な学校だ。



――――決して「男子がいないから」とかいう低俗な理由では無いぞ。………………ほんとだよ?



「逆に何で優菜は柏原学園を薦めてくるんだ?」


柏原学園は、秀英学園とは真逆のような学校である。偏差値は共学の中でも真ん中くらい。
進学率・就職率を見てもあまり良いとは言えない。しかし、なんと男子の数は一番多い。
そのため、倍率は毎年三桁だとか……。ああ、女子のだよ?男子は面接しなくても合格だから。
――男子が多い理由は、やはり給付金の額が他よりも圧倒的に多いからだ。
まあ、そのせいで設備は秀英と比べるまでも無いが。

――これが柏原学園である。


「だ、だって、柏原なら優菜の成績でも入れそうだし……」

どうやら優菜は俺と一緒の学校に通いたかったみたいだ。


――俺の妹がブラコンで可愛すぎる件。


「なら、優菜も秀英に行こうよ。」

「だーかーらー!優菜の成績だと無理なんだってばー!」


そう言って優菜は俺をポコポコと叩いてくる。――――うん。可愛い。


「まあ、俺もまだ行けるって決まったわけじゃ無いけどね。」

「そうだけど……でも、お兄ちゃんは男だから行けるんじゃない?」

たしかに。……まあ柏原みたいに面接しないでってことは無いと思うけど。

「でも……やっぱり秀英にするよ。ごめんね?」

「ううん。いいの。優菜のせいで行きたくない学校に行っても、お兄ちゃん心から楽しめないと思うし。」

「………そうかもしれないね。ありがとう!」

「うん!」

そうして俺は行きたい学校を「秀英学園」に決めることが出来た。









######################################################3









「秀英学園に決めたよ。」

俺は母さんにそう伝えた。

「秀英学園?」

「うん。共学で一番偏差値高いところ。」

「そうなのね……。良いと思うわよ。勉強とか難しいだろうけど優ちゃんならきっと出来るわ。頑張って。」

「うん。お兄ちゃんなら出来るよ!」

「ありがとう。2人とも。」

母さんと優菜に応援されて、嬉しくもあり恥ずかしくもあった。
それと同時に、やはり家族は温かくて良いものだと改めて感じた。


「でも、俺の場合受験って何するの?」

俺が疑問を口にすると母さんは、秀英学園のパンフレットを開いて試験についてのことを教えてくれた。

「男性の場合は面接があるだけみたいね。きちんと面接さえ出来ていれば合格できるみたいよ。」

「面接だけなんだ……」

「どうかしたの?」

「うん……何か、女子はきちんと勉強して試験を受けて、それでも受からなかったりしてるのに
俺だけ面接して合格だなんてちょっと違和感があるかなって」

「うーん。何処の学校もそんな感じよ?」

そう言いながら母さんは他の学校のパンフレットをめくっていく。


――同じ会場で受験しないと好みの子を探せないじゃ無いか。
まあ、この世界の女子はみんな可愛いけど。けど折角なら一緒に受験したいなよな。
良い思い出になりそうだし。


「俺もみんなと一緒に試験を受けてみたいな。」

「そうなの?」

「うん。ちゃんと勉強して、試験受けて、自分の実力とか知りたいし。」

俺がそう言うと母さんは一度驚いた顔をしたが、直ぐさま笑顔になった。

「そうね。自分の能力や実力を知るのは良いことだわ。それも優ちゃんならね。じゃあ、聞いてみましょう。」

そう言って、母さんは学園に電話をかけると、俺が受験したい旨を伝えてくれた。
するとスピーカーだったのか「はい……受験……御子息の……って男の子ですか?!」などと聞こえてきた。
――――それからしばらく話を聞くと、やはりこの学園は今年もまだ男が入学する予定は無かったらしい。
直ぐにでも面接をしたいので都合の合う日を教えてください。と「学校側から」言われるほどだ。
しかし、俺は「男子の受験である面接」では無く、「一般受験」をしたいので、
「他の受験生と同じ様に試験を受けたいです。」と言うと、困惑されながらも、
仮に点数が悪くてもきちんと入学する事を条件に許可をもらうことが出来た。

「ありがとう。母さん。」

電話を終えた母さんにお礼を言う。

「いいのよ。私も優ちゃんをみんなに自慢したいし。」

「そ、そうなんだ。自慢出来るようになれれば良いけど。」

「何言ってるのよ。優ちゃんはかっこよくて優しくて素敵よ。」

「そっか。うん。ありがとう。
 ……そういえば、今は2月の終わりだから、試験日まではあと1ヶ月もないね。」

「そうねぇ……。受験勉強には時間が全然足りないわね。でも優ちゃんなら余裕よ!」

「どこから来るのその自信は……」


「だって優ちゃんだもの!」



――この後も他愛の無い話をして家族との時間を過ごしたのだった。

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