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【ソルベ村】冬の暮らし
師匠と弟子 下
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すっかり洋一の無理難題が話題に上がった頃、本命の能力がついにお披露目される。
それがデーモングリズリーさえ屠った熟成乾燥という技術だ。
これは三人の弟子達にも見覚えがある。
モンスターが瞬時に干物として成立するほどに衰弱してしまう、恐ろしい能力だからだ。
それを、弱・中・強で三段階で分けて行使できると聞いて、さらに恐怖した。
「次に、熟成乾燥。これは対象をものすごーく乾燥させる能力だ」
しかし、説明が大雑把なのもあって、言うほど恐ろしい能力には聞こえない。
「一瞬で生肉を干物にして見せて、ものすごーくで説明するのは無理があるよ師匠」
「普通に対人特攻なんですよ」
「お父さんは干物づくり名人なんだねー」
「考えを放棄しちゃダメだぞ、キアラ。この能力の何がヤバいかをもう一度、よーく考えてみろ」
脊髄反射で答えるだけのマシーンとなったキアラに、肩を掴んで揺さぶりながらヨルダは説得する。
「これも、魔眼で使えるんですか?」
「え、うん。他にも有機物、無機物問わず肉に置き換えるミンサーや、生き物の腸を強奪して腸詰めをする、その名の通りのものがある。ソーセージなんかはそうやって作ってるな」
「どうりで、やたらとうちから生ゴミが出ないと思ったら」
畜産をする上で、生ごみと直面する機会が多いルディは、そんな仕掛けだったのかと戦慄する。
「いや、ゴミは確かに出ないけどさ、味は質に影響するからゴミならなんでも肉に変えていいってわけじゃないんだぞ?」
これでも肉に変える際は気を使ってると言い訳を並べる洋一だったが、弟子達は取り合わない。
「そりゃそうですけど、解体時のいらない部分は、新鮮だったら綺麗なお肉に変わるってことなんでしょう? 十分すごいんですが」
「この前の解体時のゴミが、全部お肉になっちゃったの?」
「殺した手前、無駄なく食べてやらなきゃジェミニウルフも浮かばれんだろ。俺は食べる以外で殺すのは苦手だ。それと、あまり人にこの能力は向けたくないんだ」
以前、騎士達に向けて使おうとした時があったが、流石にそれはやりすぎだとヨルダが止めに入った。
ただ、やりすぎだと言うよりは「こんな奴ら相手に使う必要はない」と言う斜め上の解釈だったが。
「騎士団の拠点では、うっかり使おうとしてたんですね。それをヨルダが諭してくれたと」
「あの時の俺は相当頭に血が昇ってた。止めてくれて助かったよ」
「これは、敵対したら詰むね?」
感謝の言葉を示す洋一だが、弟子達は全く別の問題で議論している。
「正直、魔法の詠唱より早く展開できるから、並の貴族は相手にならないぞ?」
「街に出なくて正解だったかも」
「だなぁ」
「横暴な人間が嫌いなので、できればこう言う村での生活が望ましいかな?」
洋一は過去に無責任でわがままな人間に詰め寄られた事例があり、極度の人間嫌いになっていた。
人間不信と言ってもいいだろう。
それでも、人間の善性を信じていたい。
自身と同じ境遇の存在は救ってやりたいと思っている。
「キアラも、ここが一番好き!」
「そうだな、ここで一緒に暮らそうか?」
「わーい!」
キアラも、髪色で迫害されてきた過去がある。
洋一の強さを改めて認識して、そばにいることが一番安全だと理解したのだろう。
そして2人の姉弟子は妹弟子とは全く違うことを考えていた。
「やっぱり師匠は表に出さないほうがいいな」
「同意。ライバルばっかり増える予感がする」
「これ以上増えたら参っちまうぜ」
「負けないけど?」
「はん? ぺったんこが何をほざいてる」
「今はまだ成長期なんですけど?」
「なら、成長度合いはオレのほうが上だな」
どんぐりの背比べと言って差し支えない成長速度でマウントの取り合いをするヨルダにルディ。
洋一と出会う前にどん底の生活をしていたもんだから、成長期に大した栄養が取れずにいたが、洋一と出会った後にそれを取り返すほどの成長の機会を得たので、ただいま発育中。
ヨルダの方が数週間早く出会い、食事にありつけたのもあって微差だが大きく前進しているのが唯一のポイントといったところか。
「何をいがみ合ってんだ。雪をどかすぞ。手伝ってくれ」
洋一が歩くだけで、眼前の雪が熱に溶かされたように消えていく。
その光景にキアラははしゃぎ、地面の土や畑が出てきたことを喜んだ。
「ま、オレらがいがみ合う以前に」
「うん、お師匠様に置いてかれないようにしなくちゃだ」
師匠と弟子。
男と女である前にそれを思い出した2人は、先に行く洋一に追いつくように駆け出した。
まだ見ぬライバルのことより、今は自分自身の成長を優先すべきだと。
洋一もまた、修行の身。
これ以上距離は離れても困ると、死に物狂いでついて行こうと決めた瞬間だった。
「あ」
雪の中から氷漬けで発見された4人の騎士を発見した。
詰め所の建築に間に合わなかったのだろう。
まだ息はあったので連れ帰って介抱した。
まだ春の訪れは遠い。
それまで当分は面倒を見るつもりだ。
弟子達は嫌がったが、洋一は困ってる相手を見捨てきれぬお人好しでもあった。
それがデーモングリズリーさえ屠った熟成乾燥という技術だ。
これは三人の弟子達にも見覚えがある。
モンスターが瞬時に干物として成立するほどに衰弱してしまう、恐ろしい能力だからだ。
それを、弱・中・強で三段階で分けて行使できると聞いて、さらに恐怖した。
「次に、熟成乾燥。これは対象をものすごーく乾燥させる能力だ」
しかし、説明が大雑把なのもあって、言うほど恐ろしい能力には聞こえない。
「一瞬で生肉を干物にして見せて、ものすごーくで説明するのは無理があるよ師匠」
「普通に対人特攻なんですよ」
「お父さんは干物づくり名人なんだねー」
「考えを放棄しちゃダメだぞ、キアラ。この能力の何がヤバいかをもう一度、よーく考えてみろ」
脊髄反射で答えるだけのマシーンとなったキアラに、肩を掴んで揺さぶりながらヨルダは説得する。
「これも、魔眼で使えるんですか?」
「え、うん。他にも有機物、無機物問わず肉に置き換えるミンサーや、生き物の腸を強奪して腸詰めをする、その名の通りのものがある。ソーセージなんかはそうやって作ってるな」
「どうりで、やたらとうちから生ゴミが出ないと思ったら」
畜産をする上で、生ごみと直面する機会が多いルディは、そんな仕掛けだったのかと戦慄する。
「いや、ゴミは確かに出ないけどさ、味は質に影響するからゴミならなんでも肉に変えていいってわけじゃないんだぞ?」
これでも肉に変える際は気を使ってると言い訳を並べる洋一だったが、弟子達は取り合わない。
「そりゃそうですけど、解体時のいらない部分は、新鮮だったら綺麗なお肉に変わるってことなんでしょう? 十分すごいんですが」
「この前の解体時のゴミが、全部お肉になっちゃったの?」
「殺した手前、無駄なく食べてやらなきゃジェミニウルフも浮かばれんだろ。俺は食べる以外で殺すのは苦手だ。それと、あまり人にこの能力は向けたくないんだ」
以前、騎士達に向けて使おうとした時があったが、流石にそれはやりすぎだとヨルダが止めに入った。
ただ、やりすぎだと言うよりは「こんな奴ら相手に使う必要はない」と言う斜め上の解釈だったが。
「騎士団の拠点では、うっかり使おうとしてたんですね。それをヨルダが諭してくれたと」
「あの時の俺は相当頭に血が昇ってた。止めてくれて助かったよ」
「これは、敵対したら詰むね?」
感謝の言葉を示す洋一だが、弟子達は全く別の問題で議論している。
「正直、魔法の詠唱より早く展開できるから、並の貴族は相手にならないぞ?」
「街に出なくて正解だったかも」
「だなぁ」
「横暴な人間が嫌いなので、できればこう言う村での生活が望ましいかな?」
洋一は過去に無責任でわがままな人間に詰め寄られた事例があり、極度の人間嫌いになっていた。
人間不信と言ってもいいだろう。
それでも、人間の善性を信じていたい。
自身と同じ境遇の存在は救ってやりたいと思っている。
「キアラも、ここが一番好き!」
「そうだな、ここで一緒に暮らそうか?」
「わーい!」
キアラも、髪色で迫害されてきた過去がある。
洋一の強さを改めて認識して、そばにいることが一番安全だと理解したのだろう。
そして2人の姉弟子は妹弟子とは全く違うことを考えていた。
「やっぱり師匠は表に出さないほうがいいな」
「同意。ライバルばっかり増える予感がする」
「これ以上増えたら参っちまうぜ」
「負けないけど?」
「はん? ぺったんこが何をほざいてる」
「今はまだ成長期なんですけど?」
「なら、成長度合いはオレのほうが上だな」
どんぐりの背比べと言って差し支えない成長速度でマウントの取り合いをするヨルダにルディ。
洋一と出会う前にどん底の生活をしていたもんだから、成長期に大した栄養が取れずにいたが、洋一と出会った後にそれを取り返すほどの成長の機会を得たので、ただいま発育中。
ヨルダの方が数週間早く出会い、食事にありつけたのもあって微差だが大きく前進しているのが唯一のポイントといったところか。
「何をいがみ合ってんだ。雪をどかすぞ。手伝ってくれ」
洋一が歩くだけで、眼前の雪が熱に溶かされたように消えていく。
その光景にキアラははしゃぎ、地面の土や畑が出てきたことを喜んだ。
「ま、オレらがいがみ合う以前に」
「うん、お師匠様に置いてかれないようにしなくちゃだ」
師匠と弟子。
男と女である前にそれを思い出した2人は、先に行く洋一に追いつくように駆け出した。
まだ見ぬライバルのことより、今は自分自身の成長を優先すべきだと。
洋一もまた、修行の身。
これ以上距離は離れても困ると、死に物狂いでついて行こうと決めた瞬間だった。
「あ」
雪の中から氷漬けで発見された4人の騎士を発見した。
詰め所の建築に間に合わなかったのだろう。
まだ息はあったので連れ帰って介抱した。
まだ春の訪れは遠い。
それまで当分は面倒を見るつもりだ。
弟子達は嫌がったが、洋一は困ってる相手を見捨てきれぬお人好しでもあった。
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