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1."役立たず"これが日常
しおりを挟む「あの…それ、私が消しましょうか?」
きっかけは、間違いなくこの一言から始まった。
***
ディート王国、魔術士研究管理塔
「この役立たずがっ!」
「貴様、何度言わせるんじゃ!この通りに進めろと言っとるじゃろう!何故そんなこともできないんじゃ、この屑め!
すぐさま、終わらせろ!今日中にじゃぞ!」
「おい、そこの!そこの!これも進めておけよ!」
「ねぇ、君。ここに来て何日目?少しは頭使って動いてくれないかなぁ?君のせいで、上の機嫌が悪くなるとこっちにまで苦情がくるんだよね~、しっかりしてくれよ」
「・・・・・」
「・・おい?返事は?」
「ぁ、すみません…分かりました」
ここ、ディート王国は近隣諸国を含む大陸の中でも群を抜いて魔術研究が盛んな国であり、他国に比べ登録されている魔術師の数も桁違いに多く、別名魔術国家とも言われている国である。
そんな国の、中心部に位置する王宮内には【魔術師研究管理塔】といって、魔術師達の聖地と言われ崇められている塔がある。
ここでは、魔術師の育成から魔術の研究まで、幅広い研究が日夜盛んに行われていた。
そんな、研究塔の最上階には選ばれた魔術師のみが立ち入れる部屋がある。
そこで行われている研究は、古の時代に消え失せた呪詛に関する研究だった。
古来より様々な種類の呪詛が生み出されてきた。呪いが強いもの、縛りが選べるもの、特定の条件下でのみ発生するもの等々…
現代にもそれは存在している。
しかし、その呪詛の解呪方法に関しては正確な魔術が見つかっていないのだ。いや、正しくは解呪方法はあったはずなのだが、それに関する書物が全くと言っていいほど残されていないのである。
その為、僅かに残された手がかりをもとに、新たな解呪方法を模索しているのが、この最上階に位置する"トップ"と呼ばれる研究室なのである。
そして、ここの研究員は全部で10名。
他の研究室では、少なくても20名ほどが在籍している。
それ程までに、トップシークレット扱いの研究なのだが…
研究内容が内容なだけに、ほとんどメンバーが変わることはない。
その為、一番下は10年経っても一番下っ端なのである。
そして、1人で簡単に国一つを潰せるほどの技量を持ち合わせている魔術師が10名もいれば、いろいろと面倒事も起きるわけでして…
もはや、「役立たず!」は愛称なのではないか?と思うほど、そう呼ばれる。
最後に自分の名前を聞いたのは、いつ頃だっただろうか?
そんな、"トップ"に配属されもうすぐ10年が経とうとしている。
私の名は、シェイラ。現在、20歳。
当時、最年少魔塔入門者と呼ばれた私は8歳でこの塔に足を踏み入れた。そして、10歳でここ"トップ"へとやってきたのだ。
あまりの速さに、妬み嫉みのオンパレードである。研究自体は全く苦ではないし、やり甲斐もある。働けば働く程、お金は貯まるが自由はない。
毎日、罵倒されながらも、必死に研究を続け、この10年である程度の結果も出してきた。それに、まだしっかりとした報告は上げてないにしろ、解呪に関する糸口は見えており理論上は可能だった。残すは臨床実験のみの段階まできていた。
この日、シェイラはとても疲れていた。
同僚達から、あれもこれもと頼まれごとをしたせいで、成果をまとめる事もできないまま長い1日が終わっていく。
「あー…このままだとまた過労死だ」
そう、シェイラにはいいか悪いか前世の記憶があった。
気づいた時には、2度目の人生楽しまないと!と思い、前世には無かった魔術に触れ魅了され、ひたすらのめり込んでいった。
その結果が…
現世の社畜である。
前世では、ブラック企業勤めで過労死。
せっかく異世界転生したはずが、長年積み重なった社畜気質は衰えなかったのだろう…
何故かここでも就職先は、ブラック気質だったのだから。
とことん社畜魂を発揮していると思う。
基本的に、争いごとや揉め事を好まないシェイラは、どこまでも従順に振る舞っていた。
それは、例え相手が誰であったとしても…
応援ありがとうございます!
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