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第一章 孤児院編
4 イノシシ肉とからくり人形
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私は、採集担当と調理担当という名のお勤めにいそいそと励んでいた。
今は、調理を行っているところだ。
料理は神殿から下げ渡されるが、いかんせん量が足りない。その分は、水でかさまししたり、森で採集した恵みを調理したりして飢えを凌いでいるのだ。
「今日のパイルはすごかったんだぜ! 俺たちくらいの大きさのイノシシに向かって、突撃していったんだ!」
「まあ、それは実際に見たかったわね! この量だと、1週間は食料に困らないわ。」
「うふふふふ、もっと褒めてよね! 私のマイク(短剣)さばきにかかれば、急所を一突きするくらいわけないよ!」
私は、包丁をくるくるとまわしながら、コニーとミーアお姉ちゃんに意気揚々と答えた。
今日の採集は、いつもどおり木の実か果実を目当てに行動していた。しかし、運よくイノシシを発見することができた。まあ、発見したのはクルルお兄ちゃんだけども。
それを知った私は、木の実採集という名のスクワットをやめて、イノシシに突撃を開始した。
だって、肉だよ、肉! この世界に転生してからというもの、お肉はそうそう食べられるものではないのだ。下げ渡される肉は本当に少しだし、味が薄いし、なにより滅多にでない。肉を満足に食べるにはこうして、森で動物を狩るしかないのだ。
「……ねえ、パイル。前から聞きたかったんだけど、その「マイク」ってどういう意味なの?」
「歌姫の武器のことヨ。」
ミーアお姉ちゃんが私を気遣うように、マイクの意味について尋ねてきた。
確かにマイクは、この孤児院で名前を見かけるようなものでもないし、この世界にあるかもわからないものだ。
「マイク」とは何か。そう聞かれて、明確かつ的確に答えられる人なんて、ほとんどいないのではないだろうか? 私もパットは思いつかない。
私がそう答えると、ミーアお姉ちゃんはかわいそうな子を見つめるような目で、私に優しく微笑んだ。
「やっぱり、ミーアは歌のことになると急に頭が悪くなるよな。……そんなことよりも、クルル兄ちゃんって、本当にすごいよな! 動物を見つけられる察知能力や動物の解体能力とか、もう本当にすごいぜ! 俺も、孤児院の役に立てるような大人になりてーよ!」
「………そ、そうね! クルルお兄ちゃんは、頼りになるわよね!」
「おう!」
コニーの純粋な笑顔に対して、ミーアお姉ちゃんは一瞬複雑な表情を見せた後、すぐにいつも通りの優し気な笑みを浮かべて答えた。
そう、私たちはいずれ神官や巫女の側仕えになるのだ。コニーもこのまま成長すれば、巫女や少年好きの神官の側仕えに召し上げられてしまう可能性がある。もちろん、真っ当な者たちに召し上げられる可能性もある。
どちらにしても、私たちが孤児院に残られる可能性はほとんどないということだ。その現実を知っているミーアお姉ちゃんは、安易に将来を肯定するようなことはいえないのだろう。
って、私まで落ち込んでいられないわね!
「さあ、お肉をじゃんじゃん焼くよ! 今日はお肉パーティーね! それから、私のライブつきよ!」
「まあ、パイル。1日でこれだけの量を食べる気なの? 半分は干し肉に回さないと、冬支度の準備に差し障るわ。」
「うっ……。正論すぎて、何も言い返せない……。わかったよ! 私のライブを延長することで、我慢する!」
「それって、お前が歌いて―だけだろ!」
私がそういうと、コニーがあきれるように肩をすくめながらそう言った。
そうよ、私が歌いたいんだよ! 自由時間を削られて、私のフラストレーションは最高潮なのよ。歌うこと自体を禁止されているわけではないから、ライブの延長は問題ないはずだ。
「そうよ、そうだとも!」
「まあ、パイルったら。」
ミーアお姉ちゃんはクスクスと笑いながらそう言った。そして、コニーも私もミーアお姉ちゃんにつられるようにクスクスと笑った。
すると、何かに気づいたらしいコニーがぴたりと笑うのをやめた。
「まあ、あなたたち。口はよく動いているようだけど、手の方が疎かになっているようね?」
私が古びたからくり人形のような動きで振り返ると、包容力のある笑顔を浮かべた院長先生が静かに立っていた。
「あ! 俺、肉の半分を外の干し肉班に渡してくるよ!」
コニーはわざとらしくそういうと、そそくさと逃げるように肉を抱えて飛び出していった。
あいつ……真っ先に逃げ出したな! レディー2人を敵前に置いたまま、逃亡するなんていい男になれないよ!
私はうふふふふと微笑みながら院長先生を見つめた後に、森でつんだ薬草を肉にすり込んだ。
ミーアお姉ちゃんは張り付けたような笑顔を浮かべながら、火の用意を始めた。
それから、笑顔を浮かべながら背後に控えている院長先生の圧力を背中で感じながら、私たちは何とか調理を終えた。
コニーのやつ、最後まで戻ってこなかったよ。あとで、料理担当の仕事もせずにうんこをしていたと吹聴しようかな。
食事を終えた後、私は院長先生に「1曲だけ、みんなの前で歌わせてください!」と、お願いしてみた。
ダメもとのつもりでお願いしてみたけど、院長先生は額に手を当てながら、「1曲だけよ」と許可してくれた。
なんだかんだ言いつつも、院長先生も私の歌のファンよね。まあ、その後に「なんて図太い神経なのかしら」と言っていたけど、きっと誉め言葉の一種だろう。
今は、調理を行っているところだ。
料理は神殿から下げ渡されるが、いかんせん量が足りない。その分は、水でかさまししたり、森で採集した恵みを調理したりして飢えを凌いでいるのだ。
「今日のパイルはすごかったんだぜ! 俺たちくらいの大きさのイノシシに向かって、突撃していったんだ!」
「まあ、それは実際に見たかったわね! この量だと、1週間は食料に困らないわ。」
「うふふふふ、もっと褒めてよね! 私のマイク(短剣)さばきにかかれば、急所を一突きするくらいわけないよ!」
私は、包丁をくるくるとまわしながら、コニーとミーアお姉ちゃんに意気揚々と答えた。
今日の採集は、いつもどおり木の実か果実を目当てに行動していた。しかし、運よくイノシシを発見することができた。まあ、発見したのはクルルお兄ちゃんだけども。
それを知った私は、木の実採集という名のスクワットをやめて、イノシシに突撃を開始した。
だって、肉だよ、肉! この世界に転生してからというもの、お肉はそうそう食べられるものではないのだ。下げ渡される肉は本当に少しだし、味が薄いし、なにより滅多にでない。肉を満足に食べるにはこうして、森で動物を狩るしかないのだ。
「……ねえ、パイル。前から聞きたかったんだけど、その「マイク」ってどういう意味なの?」
「歌姫の武器のことヨ。」
ミーアお姉ちゃんが私を気遣うように、マイクの意味について尋ねてきた。
確かにマイクは、この孤児院で名前を見かけるようなものでもないし、この世界にあるかもわからないものだ。
「マイク」とは何か。そう聞かれて、明確かつ的確に答えられる人なんて、ほとんどいないのではないだろうか? 私もパットは思いつかない。
私がそう答えると、ミーアお姉ちゃんはかわいそうな子を見つめるような目で、私に優しく微笑んだ。
「やっぱり、ミーアは歌のことになると急に頭が悪くなるよな。……そんなことよりも、クルル兄ちゃんって、本当にすごいよな! 動物を見つけられる察知能力や動物の解体能力とか、もう本当にすごいぜ! 俺も、孤児院の役に立てるような大人になりてーよ!」
「………そ、そうね! クルルお兄ちゃんは、頼りになるわよね!」
「おう!」
コニーの純粋な笑顔に対して、ミーアお姉ちゃんは一瞬複雑な表情を見せた後、すぐにいつも通りの優し気な笑みを浮かべて答えた。
そう、私たちはいずれ神官や巫女の側仕えになるのだ。コニーもこのまま成長すれば、巫女や少年好きの神官の側仕えに召し上げられてしまう可能性がある。もちろん、真っ当な者たちに召し上げられる可能性もある。
どちらにしても、私たちが孤児院に残られる可能性はほとんどないということだ。その現実を知っているミーアお姉ちゃんは、安易に将来を肯定するようなことはいえないのだろう。
って、私まで落ち込んでいられないわね!
「さあ、お肉をじゃんじゃん焼くよ! 今日はお肉パーティーね! それから、私のライブつきよ!」
「まあ、パイル。1日でこれだけの量を食べる気なの? 半分は干し肉に回さないと、冬支度の準備に差し障るわ。」
「うっ……。正論すぎて、何も言い返せない……。わかったよ! 私のライブを延長することで、我慢する!」
「それって、お前が歌いて―だけだろ!」
私がそういうと、コニーがあきれるように肩をすくめながらそう言った。
そうよ、私が歌いたいんだよ! 自由時間を削られて、私のフラストレーションは最高潮なのよ。歌うこと自体を禁止されているわけではないから、ライブの延長は問題ないはずだ。
「そうよ、そうだとも!」
「まあ、パイルったら。」
ミーアお姉ちゃんはクスクスと笑いながらそう言った。そして、コニーも私もミーアお姉ちゃんにつられるようにクスクスと笑った。
すると、何かに気づいたらしいコニーがぴたりと笑うのをやめた。
「まあ、あなたたち。口はよく動いているようだけど、手の方が疎かになっているようね?」
私が古びたからくり人形のような動きで振り返ると、包容力のある笑顔を浮かべた院長先生が静かに立っていた。
「あ! 俺、肉の半分を外の干し肉班に渡してくるよ!」
コニーはわざとらしくそういうと、そそくさと逃げるように肉を抱えて飛び出していった。
あいつ……真っ先に逃げ出したな! レディー2人を敵前に置いたまま、逃亡するなんていい男になれないよ!
私はうふふふふと微笑みながら院長先生を見つめた後に、森でつんだ薬草を肉にすり込んだ。
ミーアお姉ちゃんは張り付けたような笑顔を浮かべながら、火の用意を始めた。
それから、笑顔を浮かべながら背後に控えている院長先生の圧力を背中で感じながら、私たちは何とか調理を終えた。
コニーのやつ、最後まで戻ってこなかったよ。あとで、料理担当の仕事もせずにうんこをしていたと吹聴しようかな。
食事を終えた後、私は院長先生に「1曲だけ、みんなの前で歌わせてください!」と、お願いしてみた。
ダメもとのつもりでお願いしてみたけど、院長先生は額に手を当てながら、「1曲だけよ」と許可してくれた。
なんだかんだ言いつつも、院長先生も私の歌のファンよね。まあ、その後に「なんて図太い神経なのかしら」と言っていたけど、きっと誉め言葉の一種だろう。
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