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第一章 孤児院編

やっぱり髪型って、重要ね 

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次の日。

仏頂面をしながらも、ウィルが朝食の席についていた。健康そうな顔色をしているし、とりあえず安心かな。



「よう、ウィル。とりあえず、その長い前髪を切らないとな。」



少し遅れて食堂にやってきたコニーが、ウィルの紙をワシャワシャとかき混ぜながら、そう言った。

確かに長すぎると思うけど、それは紅の瞳を少しでも隠したいからだろうと思う。まだウィルには早いかもしれない。私が口を挟もうとすると、ウィルが鬱陶しそうに返事をした。





「……わかったから、触るな。短くする。」



「おうおう、それがいいな。」





コニーがそういうと、ウィルは照れたようにそっぽを向いた。

やはり、男同士の友情というのは特別なものなのだろうか? 昨日のがきっかけで、何事もなかったかのように普通に会話をしている。





「……食事、無駄にして悪かった。」



ウィルは私たちに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で、ボソッとそう言った。もしかしたら、昨日からずっと気にしていたのかもしれない。



「食事を無駄にするのはよくないな! だけど、ちゃんと謝るのはいいことだぜ!」



「……だから、頭を触るのはやめろよ!」





再び、ウィルの髪をワシャワシャとかき混ぜているコニーが、不意に何かを思い出したような顔で、私に視線をよこした。



「あー、もしかして、パイルは食事を無駄にされたからウィルのことを殴ったのか?」



「ちょっと、人聞きの悪いことを言わないでよ! 殴ったわけじゃなく、ちょっと、パシッとね? そうだよね、ウィル?」



私がウィルに話を振ると、ウィルはプイッと全力で顔をそむけてしまった。え、なぜだろうか。昨日の最後の方は、あんなにも素直だったのに……。



「えーと、ウィル君は今日から掃除もお勉強もするんだよね?」



「……ああ。」



「わからないことがあったら、私たちに遠慮なく聞いてね? 勉強の方は、パイルほどじゃないけど、多少力になれると思うわ。」



「……ああ。」



イールとミーアお姉ちゃんがそう声をかけると、頬杖をつきながらもウィルは返事をした。あらあら、私には返事をしないとはどういうことかしら。うん、きっとたまたまだね。もう一度、声をかけてみよう。……そういえば、朝挨拶をした時も顔をそらされたような気がするけど。



「もちろん、あなたのお世話係の私にも聞いてよね? 何でも応えるからね!」



「……。」





また顔をそらされた。わざと、ねえ、わざとなの!?

そんな私たちの様子を気遣うように窺いながら、イールがウィルに声をかけた。



「えーと、ウィル君。パイルのいうこともちゃんと聞くんだよ?」



「……ああ。」



「ちょっと、ウィル! なんで私以外の人には返事をして、私には返事をしないのかしら! 昨日の夜は、あんなにも素直だったじゃない!」



「す、素直じゃねーよ!」」





ウィルはそういうと、急に立ち上がって、部屋を出て行ってしまった。

もしかして、反抗期なのだろうか? 





「うふふふふふ。」





すると、ミーアお姉ちゃんがおかしそうに静かに笑いだした。ミーアお姉ちゃんには、何か心当たりがあるのだろか。



「ミーアお姉ちゃん? 何か知っているの?」



「うーん、そうね。知っているというか、多分というくらいなのだけど……。あれは多分、パイルに甘えているのよ。甘え方がわからないからおかしなことになっているようだけど、初めてこころを開いたあなたに甘えているのよ。」





あれが甘えている……? 確かに、ウィルの過去を考えると甘え方がわからないというのには一理あるけれど。まるで、狂犬の甘噛みみたいね。お世話係で飼い主の私が、甘んじて甘噛みを受けなきゃね! 私は静かに拳を高く、天に掲げた。



「あら、パイル? 食事中に、何をしているのかしら?」



穏やかな口調が、まるで悪魔のささやきのように聞こえた。私は、得意の壊れかけたからくり人形のような動きで、声のした方を振り返った。





「まあ、院長先生。おはようございます。昨日は、食堂の使用許可をくださって、ありがとうございました。」



「うふふふふふ。おはようございます、パイル。昨日は、ウィルの心を救ってくれてありがとう存じます。それはそれとして、食事中に奇行をするのはお止めなさい。」



「うふふふふふ。奇行なんて、とんでもございません。これは、誓いを新たにたてたことを対外的に示すための儀式のようなものです。」



「……そうですか。これからは、新たな誓いを立てても対外的に示さず、自分の中だけで処理するようにしてくださいね。」





それに対して、私はいつもどおりに微笑みを返した。少しの間、私と院長先生は笑顔で見つめ合っていたが、院長先生は深いため息をついて額に手を当てて、首を横に振った。





「……ウィルへの伝言をお願いします。掃除が始まる前に、庭に来るように伝えてくれるかしら? 散髪を行うわ。」



「かしこまりました。私はもう朝食を食べ終わったので、すぐに行きますね!」





私は元気よく一礼すると、ウィルを探しに食堂を後にした。っと、思ったら、食堂を出たすぐ扉のところに、ウィルがいた。どうやら、私たちのことを待ってくれていたらしい。





「あれ、ここで待っていてくれたの?」



「……別に行くところもなかったから、いただけだ。」



「うふふふふふ。」



「……な、なんだよ!」



「別に何でもないよ。あ、そうそう。院長先生からの伝言で、掃除の時間が始まる前に散髪をしたいから、庭に来てほしいってさ。せっかくだから、私も一緒に行っていい?」



「……好きにしろよ。」



「じゃあ、一緒に行きましょう。あ、それから、今日の自由時間は森当番なんだけど、ウィルも一緒に来る? 早いうちに経験して負うた方が良いと思うんだ。」



「……行く。」



「うふふふふふ。素直でよろしい。」





そうして、私たちは庭へと向かった。院長先生は普段から、私たちの髪を切ってくれるから安心してお任せできる。ウィルのオーダーは、「短く適当で」とのあいまいなものだったが、院長先生ならばいい感じに切ってくれるだろう。









っと、いい感じに切ってくれるだろうなとは思っていいたけど……。





「まあ、ウィル。見違えたわ。とても素敵よ。」



「……別に普通だ。」





いやいや、見違えたとかそういうレベルではない。8歳という少年期だけど、顔がかなり整っている。貴族の服を着たら、どこぞの令息に間違われても不思議ではないのではないか。





「普通ではないよ! 絶対に、髪を短くして正解だよ! 白い髪に紅の瞳がよく映えているよ!」



「……お、おい! ちけーよ!」



「でもこれで、はっきりしたね。ウィルには、お勉強と礼儀作法を完璧に身につけてもらわないとね。」



「ええ、パイルの言うとおりね。腕が鳴るわ。」





この容姿ならば、違った意味で神官や巫女から引く手あまたになりかねない。成績優秀者となり、まともな人の所にいってもらわなければいけない。

私と院長先生が一緒に微笑むと、ウィルは引きつったような笑みを浮かべた。
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